売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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はじまりの場所

はじまりの場所(7)

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 突然の王弟殿下の来訪に、当然、両親はびっくりし、使用人たちは上を下への大騒ぎだった。
 そして、「ユーリを妻に娶りたい」という殿下の発言には、両親だけでなく、ユリウスも驚いた。

「妻ではなく妾ですよね? ユーリは平民なので……」

 父の問いに、ラインハルトが首を横に振る。

「ユーリは毒に気づき、俺の命を救ったことで、爵位を与えられることになったんです。だから、『妻』で間違いありません。それが、ウェルナー辺境伯の望みでもあります」

 ウェルナー辺境伯の名前を出した瞬間、父の眉がひくりと動いたのをユリウスは見逃さなかった。

「父さん……、僕の出自には、何か秘密があるの? 知っていることがあったら、話してほしい」

 父はしばらくの間、逡巡するそぶりを見せていたが、やがて深い溜め息をこぼし、覚悟を決めた顔で口を開いた。

「ユーリ。お前は……、私の血の繋がった子供ではない。亡くなった母さんの子供でもない」

 ユリウスは息を呑み、俯きがちの父の顔をまじまじと見つめた。

「お前は……、ウェルナー辺境伯の子で、本来なら、後継ぎとなるべき子供だった……」

 ……僕が……ウェルナー辺境伯の子供…………!?

 だとすれば、実の父に隣国へ売られようとしていた上に、その父はほぼ死罪が確定。
 その娘であるカレンとも兄妹ということになる。

 重い口調で父が語ったところによると、亡くなったユリウスの母は選定の儀で売れ残り、ウェルナー辺境伯に下賜される形で妾になったそうだ。
 オメガの兆候が出たのが遅かったため、元々、結婚を約束していた恋人もいたらしい。その人と泣く泣く別れ、ウェルナー辺境伯の妾になったものの、すでに辺境伯には正妻がいて、妾の母は大事にはされなかった。
 しかし、愛情がなくても、発情期ヒートになれば、そういう行為は行われる。
 そのため、子供を身籠り、そして、先に身籠っていた正妻と、たまたま出産が重なってしまった。

 母のほうは早産で、子供は生まれてすぐに一度息が止まったらしいが、城には医者が一人しかおらず、その医者は正妻につきっきりだった。
 背中を叩いて子供の呼吸は再開したものの、その後も乳がうまく飲めず、かなり危うい状態が続いたそうだ。
 そして、彼女が子供を連れてこっそり城を抜け出したのは、出産からふた月後のことだった。
 かつての恋人を頼ってカッシーラー辺境伯領まで来たが、その人は既に結婚していた。実家に帰れば、ウェルナー辺境伯のところに戻されてしまう。
 路頭に迷い、行き倒れ寸前のところをこの領内で保護されて、表向きは父の妾ということにされて、母子ともにこの家で暮らすようになった。

「ここに来たときは、『主の元には帰りたくない』の一点張りで、それ以上何も教えてくれなかった。自分の死期を悟ってようやく、全てを話してくれたんだ……。そのとき彼女がウェルナー城から連れ出した子が、ユーリ、お前で、自分の産んだ子ではなく、正妻の産んだ子だと……」


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