24 / 83
過保護な主
過保護な主(5)
しおりを挟むたまに鍬を振るうくらいしか肉体労働をしてこなかったユリウスの皮膚は弱く、鞭で打たれた傷は皮膚が裂けていて、熱も続いていた。三日も経つころには腫れが引きはじめ、傷口も乾いてきたため、洗濯物を畳んだり食器を拭いたりといった力のいらない仕事だけさせてもらえるようになった。
仕事ができず暇を持て余していたから、ひとまずこれまでの経過を手紙にしたため、こっそりトマスに預けた。それはとある貴族の使用人に宛てたもので、トマスには同郷の友人だと説明している。実際にはその貴族は陛下付きの侍女の実家で、手紙は侍女を通じて陛下に渡る予定になっていた。
書いたのは、ラインハルトが薬草湯を使ってくれたり、鞭で打たれたユリウスに手ずから食事を食べさせようとしたり、といった他愛もないことだ。実際にユリウスの目の届く範囲で彼が怪しい人物に会ったり、任務以外で外出することもなかった。
数日間共に過ごしただけでも、彼の無口で無愛想だが実直で根は優しい人柄は十分に感じ取れた。謀反の疑いありという情報が何かの間違いとしか思えない。
ラインハルトに隠れて陛下に彼の動向を報告することには後ろめたさを感じるが、逆に自分の報告が彼に謀反の意志などないことを陛下に信じさせるきっかけになればいいと思っていた。
一週間が経つ頃に、ようやく、医者から重い物を持つような仕事も差し支えないと許しが出た。
明かり取りの小窓から差し込むやわらかな光で目を覚ましたユリウスは、身支度を整え、井戸端で顔を洗うと厨房へ向かった。
すでにそこではエレナが火を起こしていた。
新参者なので、せめて最初に起きないと、とは思っているが、故郷と違ってここには鶏がいないし、貴族街のせいか教会の鐘が鳴る時刻も遅い。エレナのように日の出前に目を覚ますのは、一週間以上経った今でもユリウスには難しい。
「おはようございます。僕、野菜を洗ってきますね」
かまどに向かっていたエレナが、顔だけ振り向かせた。
「ユーリ様、おはようございます。今日から普通に体を動かしてもいいとお医者様も仰っていましたよね。でしたら、ライニ様と一緒に馬の散歩をなさったらどうですか?」
「え? い、いや、でも……」
朝食の準備と言っても、ユリウスがしていることは未だにお手伝いレベルで、いなくてもたいして困らないだろうとは思う。
「ライニ様も随分ユーリ様を心配しておられましたでしょう? ユーリ様がすっかり元気になった姿をお見せしたら、お喜びになりますわ」
エレナは何かとユリウスをラインハルトに近づけたがる嫌いがある。
ベッドから動けない間も、ラインハルトにユリウスの食事の介助を頼んだらしく、彼がお粥をユリウスの口元に差し出すものだから、食欲はなかったが、痛みを堪えてどうにか口にした。
ただ、馬の散歩は、この屋敷に来たときから彼に代わって自分ができないかと考えていた仕事の一つでもあるので、素直に従うことにした。
「そうですね……。では、ちょっと外を見てきます」
今はもう、ラインハルトを怖いとは思わない。
ただ、彼の傍にいくと以前とは異なる緊張を感じるようになった。心の臓が速くなり、怖いというより恥ずかしくて顔を上げられなくなる。気分が落ち着かず決して居心地がいいとは言えないのに、何故か離れがたいような、そんな感じだった。
604
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる