学校にいる人たちの卑猥な日常

浅上秀

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雨の日の純情

前編

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FILE9 葉山 (生徒)× 奥野 (教師)



「先生、さよなら~」

「おー、気を付けて帰れよー」

「はーい」

放課後は部活の生徒もいれば下校する生徒もいる。
奥野は自分の受け持つクラスの生徒たちが各々解散するのを見届けると職員室に戻った。

「奥野先生、今日、この後雨らしいですよ」

隣に座る野球部の監督もしている教師が話しかけてきた。

「え、そうなんですか」

奥野は慌ててカバンの中に手を突っ込んだ。
幸い折り畳み傘が入っていた。

「この後の練習どうするか悩むなぁ」

声をかけてきた教師は頭を掻きながら職員室を出ていった。
奥野はパソコンを立ち上げて残してあった作業を早く終わらせてなるべく雨が降らないうちに帰ろうと思った。
今日は車を家族が使用していて電車で来たのだ。
なるべく濡れたくない。

「さて、やるか」



「んー、よし、こんなものか」

ぐーっと背伸びをする。
時計を見上げると午後六時を示している。

「そろそろ帰るか」

職員室の窓ガラスはまだ濡れていない。
今なら雨に濡れずに帰れる。

「お疲れさまでした。お先に失礼します」

「お疲れ様です」

職員室に残っていた他の教師たちに声をかけて奥野は先に出る。
誰もいない廊下を一人で玄関まで歩く。
教師専用の下駄箱に近づいた時だった。

「あ、奥野先生」

「葉山、どうしたんだ、珍しいな」

「図書委員の当番だったんです」

「そうか」

葉山は奥野の受け持つクラスの中でも小柄でわりと大人しい少年だ。
態度もまじめだし成績もどちらかといえば優秀な方だが、目立った特徴はない。

「先生も帰るところですか?」

「あぁ、まぁな」

下駄箱から外靴を取り出して履き替える。

「今日はお車ですか?」

「いや、電車だよ」

「え、本当ですか!?」

葉山は驚いたような声を上げた。

「どうした、俺が電車だとおかしいか?」

「い、いえいえ、あの良かったら一緒に駅まで帰りませんか?」

「ん?あ、い、いいぞ」

「やった!」

葉山は嬉しそうに自分の靴箱まで走っていった。
奥野は既に靴を履いていただので昇降口の外に出た。
ポツリポツリと地面を雨粒が濡らし始めていた。

「あー、間に合わなかったか」

「え、雨降ってるんですか!?」

息を切らして奥野の隣に葉山が現れた。

「なんだ葉山、傘持ってきてないのか?」

「は、はい、降ると思っていなくて…」

しょんぼりした様子は小型犬のようだった。
クスクス笑いながら奥野はカバンの中に手を入れて自身の傘を開いた。

「俺のでよかったら入ってくか?」

「いいんですか!?」

小型犬が尻尾を振って喜んでいる。
奥野は噴き出してしまった。

「っはは、いいぞ」

「お邪魔します!!」

地味な紺色の傘が少しだけ華やいだ気がした。



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