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大学生編
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小宮ルリ子
古風な名前をつけられた彼女は恋愛観も少しばかり時代遅れで奥ゆかしいものだった。
「私は交際するまでは手もつながないし、二人きりで出かけたりもあまりしたくないわ。結婚する相手とだけでなければやりたくないことを考え始めたらキリがなくて困ってしまうわ…」
「別にね、ルリ子の考え、いいと思うんだけどね。でも男側からしたら固くてつまんないんだと思うよ」
流行のコーヒー店に高校時代の友人のマリと訪れた時のことだった。
ルリ子が一組のカップルを横目に自分の恋愛観をポロリと漏らしたのだ。
「そうかしら…」
ルリ子はロイヤルミルクティーを片手に首を傾げる。
「だって大学生なんて特にヤリたい盛りじゃない」
「ヤリたいって…マリ、昼間からちょっと下品よ」
マリは期間限定のフラペチーノをストローで吸い上げながらルリ子を小ばかにするように鼻で笑った。
「下品って、だって事実だもん。カラダを求めてこない恋愛関係の大学生なんてこの世の中に存在しないって」
「まぁ…」
マリとルリ子は二人とも同じ女子高校出身だった。
高校生の頃、他校の男子と積極的に絡む女子のグループもいたもののそれは非常に少数派だった。
ルリ子のように同性同士で仲良く青春を過ごす女子は多かったが、少女漫画のような学生の恋に憧れていたのも事実である。
「ルリ子はさ、ちょっと男性に夢見すぎなんだよ。少女漫画はあくまでもフィクションだってこと忘れない方がいいよ」
「えぇ…」
ルリ子は得も言われぬ違和感をミルクティーごと喉の奥の方に流し込んだ。
…
女子高を出たルリ子は共学の大学に進んだ。
それはどうしても学びたい学部があったからに他ならない。
本好きのルリ子は文学部で古典について探求したいと思っていた。
その世界では有名な教授がいると聞いて、ルリ子はどうしてもこの大学の文学部に入りたかったのだ。
もちろん少女漫画も好きではあるが、そではあくまでも趣味の域である。
「小宮さん、サークルもう決めた?」
たまたま同じ授業で隣の席になった榊夏美という女性がルリ子に気安く声をかけてくれる。
茶髪のミディアムロングの髪の毛をキレイに巻いて、トレンドに沿ったお化粧をしている今時の大学生だ。
「いいえ、まだです」
ルリ子はサークルに入る意味がよくわからなかった。
大学とは学問を究めるために来る場所であり、友達作りは不要であると考えていたからである。
「そうなんだ。良かったら私たちと一緒に見学とか行かない?」
榊が指さす先には数人の男性と女性のグループがいた。
断るのも無粋に思い、ルリ子はこくりと頷く。
…
「で、ここがテニスサークルなんだって」
榊はあのグループの中心人物のようで、スマホを片手に学内にある様々なサークルの部室を案内してくれる。
「詳しいのね、榊さん」
「うちのお兄ちゃんが卒業生なんだ」
見せてくれたスマホの画面には彼女の兄と思われる人物から、学内のサークルの情報が送られてきていた。
「テニスサークルといえばかわいいこ多そうじゃね?」
「ちょっと俺ら見てくるわ」
何人かの男性たちはそういって部室の中へと入っていった。
「ここにもかわいい女子たちがいるのに失礼ね」
榊の奥にいたちょっと気が強そうな黒髪のショートの女性が閉まった扉を睨む。
「まぁまぁ、人数はちょっと減っちゃったけど行きましょうか」
やれやれといった表情でみんな榊のあとを追う。
ルリ子は時間の無駄のように思えて、思わずためいきを漏らしてしまった。
「どうしたの?疲れた?」
一人の男性がルリ子に声をかけてきた。
「い、いいえ、大丈夫です…」
「そっか」
男性はニコリとルリ子に微笑みかける。
「あ、みなさん行ってしまいましたね」
「ならよかった。正直、俺はサークルとか興味なかったから」
「ではなぜ?」
「あー、友達付き合いってやつ?」
「なる。ほど」
ルリ子は頷きながら、こんなにも男性と会話が続いたのは初めてだと気付いた。
意識的に容姿を伺うと、黒髪に少し小さめの目、標準的な高さの鼻に標準的な厚みの唇、どちらかといえばやせ型の身体、上はライダースに下はジーンズ、黒いリュックサックを一つ背負っていて、足元は少し汚れたスニーカーを履いている。
「あの、お名前は…?」
「工藤亮。そちらは?」
「あ、小宮ルリ子と申します」
ルリ子は名乗ってから小さくお辞儀をする。
「これも何かの縁だと思うし…よろしくね」
「えぇ、こちらこそ」
…
二人はカフェテリアに移動してコーヒーを片手にお互いのことを話し続けた。
「ツーリングがご趣味でいらっしゃるのね。バイクの免許をお持ちだなんてすばらしいわ!」
「いやいやそんなことないよ。小さいころから父親がバイクに乗ってるのがかっこよくて、俺も免許取れるようになったら絶対って思ってただけでさ」
「でもツーリングのサークルもこの学校にはあるのでは?」
「あー、誰かと馴れ合ったりしないで自分一人で走るのが好きなんだ」
照れるように言った工藤の表情にルリ子は思わず心を奪われた。
「そうなんですの…」
ルリ子は胸のざわめきを抑えるように飲み物を流し込んだ。
古風な名前をつけられた彼女は恋愛観も少しばかり時代遅れで奥ゆかしいものだった。
「私は交際するまでは手もつながないし、二人きりで出かけたりもあまりしたくないわ。結婚する相手とだけでなければやりたくないことを考え始めたらキリがなくて困ってしまうわ…」
「別にね、ルリ子の考え、いいと思うんだけどね。でも男側からしたら固くてつまんないんだと思うよ」
流行のコーヒー店に高校時代の友人のマリと訪れた時のことだった。
ルリ子が一組のカップルを横目に自分の恋愛観をポロリと漏らしたのだ。
「そうかしら…」
ルリ子はロイヤルミルクティーを片手に首を傾げる。
「だって大学生なんて特にヤリたい盛りじゃない」
「ヤリたいって…マリ、昼間からちょっと下品よ」
マリは期間限定のフラペチーノをストローで吸い上げながらルリ子を小ばかにするように鼻で笑った。
「下品って、だって事実だもん。カラダを求めてこない恋愛関係の大学生なんてこの世の中に存在しないって」
「まぁ…」
マリとルリ子は二人とも同じ女子高校出身だった。
高校生の頃、他校の男子と積極的に絡む女子のグループもいたもののそれは非常に少数派だった。
ルリ子のように同性同士で仲良く青春を過ごす女子は多かったが、少女漫画のような学生の恋に憧れていたのも事実である。
「ルリ子はさ、ちょっと男性に夢見すぎなんだよ。少女漫画はあくまでもフィクションだってこと忘れない方がいいよ」
「えぇ…」
ルリ子は得も言われぬ違和感をミルクティーごと喉の奥の方に流し込んだ。
…
女子高を出たルリ子は共学の大学に進んだ。
それはどうしても学びたい学部があったからに他ならない。
本好きのルリ子は文学部で古典について探求したいと思っていた。
その世界では有名な教授がいると聞いて、ルリ子はどうしてもこの大学の文学部に入りたかったのだ。
もちろん少女漫画も好きではあるが、そではあくまでも趣味の域である。
「小宮さん、サークルもう決めた?」
たまたま同じ授業で隣の席になった榊夏美という女性がルリ子に気安く声をかけてくれる。
茶髪のミディアムロングの髪の毛をキレイに巻いて、トレンドに沿ったお化粧をしている今時の大学生だ。
「いいえ、まだです」
ルリ子はサークルに入る意味がよくわからなかった。
大学とは学問を究めるために来る場所であり、友達作りは不要であると考えていたからである。
「そうなんだ。良かったら私たちと一緒に見学とか行かない?」
榊が指さす先には数人の男性と女性のグループがいた。
断るのも無粋に思い、ルリ子はこくりと頷く。
…
「で、ここがテニスサークルなんだって」
榊はあのグループの中心人物のようで、スマホを片手に学内にある様々なサークルの部室を案内してくれる。
「詳しいのね、榊さん」
「うちのお兄ちゃんが卒業生なんだ」
見せてくれたスマホの画面には彼女の兄と思われる人物から、学内のサークルの情報が送られてきていた。
「テニスサークルといえばかわいいこ多そうじゃね?」
「ちょっと俺ら見てくるわ」
何人かの男性たちはそういって部室の中へと入っていった。
「ここにもかわいい女子たちがいるのに失礼ね」
榊の奥にいたちょっと気が強そうな黒髪のショートの女性が閉まった扉を睨む。
「まぁまぁ、人数はちょっと減っちゃったけど行きましょうか」
やれやれといった表情でみんな榊のあとを追う。
ルリ子は時間の無駄のように思えて、思わずためいきを漏らしてしまった。
「どうしたの?疲れた?」
一人の男性がルリ子に声をかけてきた。
「い、いいえ、大丈夫です…」
「そっか」
男性はニコリとルリ子に微笑みかける。
「あ、みなさん行ってしまいましたね」
「ならよかった。正直、俺はサークルとか興味なかったから」
「ではなぜ?」
「あー、友達付き合いってやつ?」
「なる。ほど」
ルリ子は頷きながら、こんなにも男性と会話が続いたのは初めてだと気付いた。
意識的に容姿を伺うと、黒髪に少し小さめの目、標準的な高さの鼻に標準的な厚みの唇、どちらかといえばやせ型の身体、上はライダースに下はジーンズ、黒いリュックサックを一つ背負っていて、足元は少し汚れたスニーカーを履いている。
「あの、お名前は…?」
「工藤亮。そちらは?」
「あ、小宮ルリ子と申します」
ルリ子は名乗ってから小さくお辞儀をする。
「これも何かの縁だと思うし…よろしくね」
「えぇ、こちらこそ」
…
二人はカフェテリアに移動してコーヒーを片手にお互いのことを話し続けた。
「ツーリングがご趣味でいらっしゃるのね。バイクの免許をお持ちだなんてすばらしいわ!」
「いやいやそんなことないよ。小さいころから父親がバイクに乗ってるのがかっこよくて、俺も免許取れるようになったら絶対って思ってただけでさ」
「でもツーリングのサークルもこの学校にはあるのでは?」
「あー、誰かと馴れ合ったりしないで自分一人で走るのが好きなんだ」
照れるように言った工藤の表情にルリ子は思わず心を奪われた。
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