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限界オタク

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いつもと変わらない日常だった。

今日も原付に乗り出勤する。
朝は憂鬱だ。
自分をレーサーだと勘違いしたバイク達がしのぎを削り、車は「私が王だ!」と言わんばかりに幅寄せをしてくる。

そんな通勤を終えると、仕事が待っている。
今日も上司から振られた仕事をこなす。
提示になったら周りの様子を伺い残業する。

帰路へ着くと朝と変わらぬ過酷な道だ。
憂鬱だ。
なにも変わらない。
ただの平凡毎日だ。

家に帰れば趣味の時間だ。
私の友人はアバターを使った配信をしている。
そこへ顔を出し友人と話したつもりになる。
これが現代のコミュニケーションだ。
顔出しが日々のルーティンと化していった。

ある日、日常に変化が訪れた。
とあるlive配信のツイートを見つけてしまったことだ。
そして、気が付けば沼の奥底へ沈んでしまった。
目の前に現れた

"それ"

はまるで、乾いた大地を潤す雨だった。
乾ききった私の心に浸透する。
新たな命が萌えるが如く感情が芽吹く。
嗚呼、なんて美しいんだ。
これが"尊い"という感情なのだろう。
幸せが溢れて止まらない。

いや、なんだこのポエムは?
悪寒がする。
違うそう言うことが言いたいんじゃない。

私は理解した。
そう、限界オタクになったのだ。
ただそれだけだった。

限界オタクとは、とても酷いものだ。
口を開けば、
「尊い!、可愛い!、好き!」
と直接的な感情しか言わない語彙力を失った何かだ。

私はそれになってしまった。
現実はいつも残酷だ。
私の語彙が刻一刻と減っていくのが分かる。

「嗚呼、尊い」

気が付けば出てくる言葉はそれだけである。

どこの文学作品に愛や感情を尊いだけで表現するバカが居ただろうか。
ここに居る。

だって尊いんだもん。

まるで3歳児である。
いや、3歳児の方が語彙力が有るのではないだろうか?

私は世に言う推し活を嗜むことにした。
配信、ファンアート、小説、楽曲と様々なジャンルがある。

限界オタクは強欲だ。
全てのジャンルに手を出していく。

周りの作品を見ていると自分にも出来る気がしてしまう。
"隣の芝は青い"
周りのようにそう上手くいくものではない。
私にそんな才能は無いのである。
努力でなんとかなる次元ではない。

確りと周りを見渡すと歴戦の限界オタク達が己の領地で勝鬨をあげている。

奴等はどんな死線を掻い潜って今オタ活をしているのだろうか。

そんな奴等の目は生き生きしている。
そうか、私もそうすれば良いんだ。
それが推しへの礼儀なのだろう。

私も自己満の推し活をすることにしようと思う。

推しへの愛を綴り限界オタクとして爪痕を残して進もうと思う。

それでは読んで頂きたい。
私の推し活の成果だ。


"尊い"
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