人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
359 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆28:”勇者よ、国を救ってください”(解決編)-2

しおりを挟む
「このタンタロス王のエピソードはその後、『手に届くところに欲しいものがあるのに手に入らない』『焦らされる』という意味で使われるようになる。日本語で言う故事成語みたいなもんだね。そして今日でも『焦らす』ことを英語では『タンタライズ』という」
「え‥…そんな単語あったっけ?」
「tantalize。授業でならわんかったのか?七瀬」
「あ?あーうん。やったような気もする」
「そしてこの『タンタライズ』は、後に更に一つの言葉に派生する。原子番号73。存在そのものは早くから認められていたものの、化合物から純粋な金属を抽出するのに数十年を要したため、『焦らされ苦しめられた金属』……『タンタル』へと」
「『タンタル』って方はどこかでなんか最近聞いたような……」

 眉間に指をやっていた真凛が、はたと手を打つ。

「あ、もしかして『アル話ルド君』の修理に使っていた、携帯用の部品?」
「おお、記憶していたか。これは素直に偉いぞ。そう、そのとおり。今日では電子部品……特に電解コンデンサの材料として非常に需要が高いレアメタルだな」
「コン、デンサ。アルセス兄様の研究成果」
「……そう。ここで話がつながるわけだ。そういえば『箱』の中身の解析結果がまだでしたね。MBSのメンツにかけて取引が合意となった以上、オープンにしてしまいましょう。ほい」

 おれは長口上を終えて、普洱茶を飲み干し、プロジェクターの画面を切り替えた。

 
 緯度と経度を表す、複数の数字の羅列。

「これが暗号解読の結果です。セゼル大帝が隠し持っていた最後の鉱脈。そして……」

 画面を操作。現代の衛星写真に、得られた座標を重ね合わせたものにページが切り替わる。そこには、ルーナライナ国内のとある一帯を、ゆるく長く走る鉱脈の位置が記されていた。

『これが、これが最後の金脈の情報!!』

 ワンシムがおやつに飛びつく家猫のような勢いで壁に走り寄る。

『ははは、これが切り札か!なんという規模だ、大きさだ。今までの鉱脈でも一級、いや、最大級やもしれん!』
『皇女の身の安全の保障をお忘れなく、閣下』
『ハッ!好きにしろ。どうせそいつには何の力もない。今のうちに我々がこの一帯を押さえれば他の連中にも手出しはできん!』


「盛り上がってるところすみませんが、これ、金脈の地図じゃないんですよねえ」


『は?』

 おれが真横から浴びせた冷水に、ネット上のペットおもしろ画像のような顔でこちらを向くワンシム閣下。やばいちょっと楽しくなってきた。

「言ったでしょう。ああ、もちろん実際に掘ったわけじゃないから確証はありませんよ?でもタンタロス。タンタライズ。タンタルというキーワード。コンデンサを研究していたアルセス皇子。産業を誘致することを目指していたセゼル大帝。ついでに言うなら、最新の衛星画像による露頭部の映像解析技術。これを踏まえて総合的に判断するに……これ、タンタルの鉱脈ですよ」

 いやあすごい。タンタルの産出はほとんどがオーストラリア、アフリカ、南アメリカのはず。中央アジアでこれほど大量のタンタルが採れるとなれば、地質学の世界ではちょっとした騒ぎになるのではなかろうか。

『……だが、希少金属だろう!価値があるのは変わらんだろうが』
「少し違います。タンタルはそれのみでは決して金ほどの価値はない。アルセスがセゼルと共にかつて進めていたのは、タンタル鉱石の採掘と半導体コンデンサの産業誘致プロジェクト。ただ掘り出して終わりの金ではなく、ルーナライナの人々が職業を持ち、近代国家として自立、飛躍するための、まさに国家の大計ですよ」
「亘理さん、アルセス兄様とセゼル大帝の考えていたことはわかりました。……でも、それは、アルセス兄様の結末の理由にはなっていないと思います」

 皇女の紫の瞳がおれをまっすぐ見据える。いかんいかん。どうもおれはあの目に弱いらしい。

「そうだね……。じゃあ、理由を話そう」
しおりを挟む

処理中です...