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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆13:国際交流(未成年お断り)-2
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「陽司、いいの?ファリスさんのこと」
銀髪の皇女を囲んで盛り上がる留学生たちの輪を見やりつつ、真凛が問う。
「たまにはいいんじゃねぇの?あんまり同年代の友人とかいなさそうだし。ああいう生真面目な子は、強引に振り回した方がかえってハメを外せるもんさ」
「詳しい、んだね。今日会ったばっかりなのに」
「ん?ああ……」
そういやそうだったな。彼女については、初対面にも関わらず、無遠慮とも言えるくらい踏み込んでしまった。その理由をおれは考え、ふと思い至った。
「どうもあの子、他人とは思えなくてな」
「それってどういう、」
『おーい、ワターリ!』
横合いから、張りのある低音でイタリア語が飛んできた。
『ワターリ、お前の後ろに隠れているその子はなんだ』
振り向くと、南イタリアからの留学生フェルディナンドが居た。外見はいわゆるイケメンの部類だが、少女漫画の王子様タイプではなく、特濃ソースを大鍋で煮詰めたような、顎の割れた濃ゆい顔のセクシー胸毛イケメンである。
『ん、こいつ?あー。バイト先の後輩。一応仕事中なんでな』
『後輩?お前のバイトと言えばあの危険な仕事だろう?それにこんな子供が……』
濃ゆい顔を近づけて覗き込むフェルディナンド、イタリア語にビビっておれの背後に回り込む真凛。するとヤツは、野太いイケメン笑顔を浮かべてこう言ったものである。
「アーアナタ。アナタモ、ワターリノ、オシゴトイッショノヒトデスカ?」
「は、はいその、えぇっと……」
「あーいや、雑用係みてーなもんだよ、うん。気にすんな」
「誰が雑用係だよっ!アシスタントでしょ!?」
「あ、バカ……」
思わず首を出しておれに噛みつく真凛。エルナンドはその顔をまじまじと見つめていわく。
『……Sei proprio bella(愛らしい)……!』
「えっ?」
『おお、愛しい人よ!君のような美人と出会えるなんて、俺はイタリア中の男に殴られても文句が言えない幸運な男だ!君の黒い瞳と黒い髪の前では、クレオパトラが飲み干した黒真珠だって恥じ入るだろう!!』
「よ、陽司この人いったいどうしちゃったの?」
えぇい、迂闊な奴め。フェルディナンドは重度の黒髪フェチで、髪の毛を染めていない日本人女性と見るやスイッチが入り、ところかまわずオペラ調で口説きにかかるという病癖の持ち主なのである。
「あー、なんかお前の目と髪の色が珍しいってさ」
情報を取捨選択してわかりやすくするのも通訳の務めである。
「そ、そうなんだ。は、はろー、じゃなくて、ちゃおー、ぐらっつぇ、みれ?」
おれの隣で聞いているうちに覚えたのだろう、片言であいさつを返す真凛。まさかイタリア語で返事があるとは思わなかったらしく、嬉しさの余りか、雷に打たれたように身を震わせるフェルディナンド。
そして一拍おいた後、ガソリンの一斗缶をキャンプファイヤーの中に放り込んだようなイタリア語の濁流が返ってきた。
『ああ、まさか天国から落ちてきた天使が日本にいたなんて。怪我はなかったかい?その瞳、その黒髪はまさに東洋の奇跡だ。俺の心は今この時から君のことを一瞬たりとも考えずには(中略)、いや本当に君はまさしく芸術(中略)世界で(中略)素晴らしい虹のような(中略)で(中略)を(中略)が(中略)だろう!』
なお、南部イタリア男の口説き文句を脳内で日本語訳するのは非常に苦痛な所業なので、あえて中略させて頂いたことを諸兄には何卒ご賢察賜りたい。
「――あ、えぇと、どうも、です」
もちろん真凛はまったく理解は出来ていないのだが、そんなことを斟酌するフェルディナンドではなかった。
『いやはや、日本には美人がたくさんいたが、これほど気品溢れる美しい女の子に出会ったのは始めてだ。ワターリ、貴様なぜ今まで隠していた?』
『……いやフェルナンド、お前アタマおかしいんじゃねぇの?こいつのどこが美人で気品が溢れてるって?』
『頭がおかしいのは貴様の方だワターリ、こんな美しいレディが側にいて何も思うところはないのか?』
『あるわきゃないだろ』
『そうか!うむ、決めた。彼女は俺と結婚してレモン畑を共に経営する運命にある。大丈夫だ土地はある、一生苦労はさせないぞ。うちのおふくろも気に入ること間違いなし。よぅしさっそく電話だ』
「この、えっと、フェルディナンド、さんはなんて言ってるの?」
「――うむ。どうやら先ほど唐突に神の啓示を受けたらしくてな。急遽実家に帰ってレモン畑を継ぐことになったらしい。実に残念だ。ちなみに先ほどこいつが滔々と吐き出していたイタリア語は、神の啓示への歓びなので、とくに注意は払わなくてよろしい」
「でも、あの人、ボクに向けて言ってなかった?」
「きっと気のせいであろう。彼は目の前に天使が見える体質なのだよ。さっさと行くぞ」
銀髪の皇女を囲んで盛り上がる留学生たちの輪を見やりつつ、真凛が問う。
「たまにはいいんじゃねぇの?あんまり同年代の友人とかいなさそうだし。ああいう生真面目な子は、強引に振り回した方がかえってハメを外せるもんさ」
「詳しい、んだね。今日会ったばっかりなのに」
「ん?ああ……」
そういやそうだったな。彼女については、初対面にも関わらず、無遠慮とも言えるくらい踏み込んでしまった。その理由をおれは考え、ふと思い至った。
「どうもあの子、他人とは思えなくてな」
「それってどういう、」
『おーい、ワターリ!』
横合いから、張りのある低音でイタリア語が飛んできた。
『ワターリ、お前の後ろに隠れているその子はなんだ』
振り向くと、南イタリアからの留学生フェルディナンドが居た。外見はいわゆるイケメンの部類だが、少女漫画の王子様タイプではなく、特濃ソースを大鍋で煮詰めたような、顎の割れた濃ゆい顔のセクシー胸毛イケメンである。
『ん、こいつ?あー。バイト先の後輩。一応仕事中なんでな』
『後輩?お前のバイトと言えばあの危険な仕事だろう?それにこんな子供が……』
濃ゆい顔を近づけて覗き込むフェルディナンド、イタリア語にビビっておれの背後に回り込む真凛。するとヤツは、野太いイケメン笑顔を浮かべてこう言ったものである。
「アーアナタ。アナタモ、ワターリノ、オシゴトイッショノヒトデスカ?」
「は、はいその、えぇっと……」
「あーいや、雑用係みてーなもんだよ、うん。気にすんな」
「誰が雑用係だよっ!アシスタントでしょ!?」
「あ、バカ……」
思わず首を出しておれに噛みつく真凛。エルナンドはその顔をまじまじと見つめていわく。
『……Sei proprio bella(愛らしい)……!』
「えっ?」
『おお、愛しい人よ!君のような美人と出会えるなんて、俺はイタリア中の男に殴られても文句が言えない幸運な男だ!君の黒い瞳と黒い髪の前では、クレオパトラが飲み干した黒真珠だって恥じ入るだろう!!』
「よ、陽司この人いったいどうしちゃったの?」
えぇい、迂闊な奴め。フェルディナンドは重度の黒髪フェチで、髪の毛を染めていない日本人女性と見るやスイッチが入り、ところかまわずオペラ調で口説きにかかるという病癖の持ち主なのである。
「あー、なんかお前の目と髪の色が珍しいってさ」
情報を取捨選択してわかりやすくするのも通訳の務めである。
「そ、そうなんだ。は、はろー、じゃなくて、ちゃおー、ぐらっつぇ、みれ?」
おれの隣で聞いているうちに覚えたのだろう、片言であいさつを返す真凛。まさかイタリア語で返事があるとは思わなかったらしく、嬉しさの余りか、雷に打たれたように身を震わせるフェルディナンド。
そして一拍おいた後、ガソリンの一斗缶をキャンプファイヤーの中に放り込んだようなイタリア語の濁流が返ってきた。
『ああ、まさか天国から落ちてきた天使が日本にいたなんて。怪我はなかったかい?その瞳、その黒髪はまさに東洋の奇跡だ。俺の心は今この時から君のことを一瞬たりとも考えずには(中略)、いや本当に君はまさしく芸術(中略)世界で(中略)素晴らしい虹のような(中略)で(中略)を(中略)が(中略)だろう!』
なお、南部イタリア男の口説き文句を脳内で日本語訳するのは非常に苦痛な所業なので、あえて中略させて頂いたことを諸兄には何卒ご賢察賜りたい。
「――あ、えぇと、どうも、です」
もちろん真凛はまったく理解は出来ていないのだが、そんなことを斟酌するフェルディナンドではなかった。
『いやはや、日本には美人がたくさんいたが、これほど気品溢れる美しい女の子に出会ったのは始めてだ。ワターリ、貴様なぜ今まで隠していた?』
『……いやフェルナンド、お前アタマおかしいんじゃねぇの?こいつのどこが美人で気品が溢れてるって?』
『頭がおかしいのは貴様の方だワターリ、こんな美しいレディが側にいて何も思うところはないのか?』
『あるわきゃないだろ』
『そうか!うむ、決めた。彼女は俺と結婚してレモン畑を共に経営する運命にある。大丈夫だ土地はある、一生苦労はさせないぞ。うちのおふくろも気に入ること間違いなし。よぅしさっそく電話だ』
「この、えっと、フェルディナンド、さんはなんて言ってるの?」
「――うむ。どうやら先ほど唐突に神の啓示を受けたらしくてな。急遽実家に帰ってレモン畑を継ぐことになったらしい。実に残念だ。ちなみに先ほどこいつが滔々と吐き出していたイタリア語は、神の啓示への歓びなので、とくに注意は払わなくてよろしい」
「でも、あの人、ボクに向けて言ってなかった?」
「きっと気のせいであろう。彼は目の前に天使が見える体質なのだよ。さっさと行くぞ」
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