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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆13:国際交流(未成年お断り)-1
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おれ達が中に足を踏み入れるなり、連中は一斉に話しかけてきた。
『ようワターリ、なんかうまい儲け話ないか?』
『ねぇよフェルディナンド、あればこんなトコ来てねぇって』
『ハァイ陽司今日はこないだのイケメンいないの?』
『どもー香雪!直樹の野郎はメカ棺桶作りに忙しいってよ』
国際留学センターの一階はテーブルや椅子が並べられた広いロビーとなっており、東西南北、様々な国からの留学生達が軽食や缶ジュースを買い込んでたむろしていた。
壁際には誰かがジャンク屋で見つけてきたらしい無駄にデカいスピーカーが据え付けられ、接続されたiPhoneから流し込まれたアイリッシュ音楽を大爆音でまき散らし、癒し系だか環境妨害なんだかわからない不思議空間を作り出している。
英語を中心に無数の言葉が飛び交い、当然のようにアルコールも転がされておりカオス極まりない。高校の部室や大学のサークル棟の惨状を数十倍にしたようなもの、といえばご想像いただけるだろうか。
『メカ棺桶?それはあのミセス・イスルギの作品だろうか、亘理サン?』
『おお元気かロディ?お前が研究室から出てくるなんて珍しい。あと羽美さん一応まだミスのはずだからー』
『亘理君、そろそろ授業にちゃんと出てくださらない?そろそろ里村先生のチェックも厳しくなってきて貴方の代返も限界なのよ』
『ごめんナターシャ、古典の研究ってのはどうにも性に合わなくってさー代わりに以前別の友だちに作ってやった会計学のレジュメあげるからー』
溜まっている留学生達に適当に言葉を返す。任務以外でほとんど外国人と出会うことがない真凛は、ぎゃんぎゃんとハイテンションで飛び交う雑多な言語が全く理解できずパニックに陥り、また日本に来たばかりのファリスもすっかり呑まれてしまい、二人しておれの背中に隠れて目を白黒させている有り様である。
「よ、陽司、いつもこんななの、ここの人達?」
「いーや、まだ昼だし酒も少ないからまともな方。以前ナターシャのロシアの実家からウォッカの仕送りがあった時はホント酷かった」
「に、人気なんですね亘理さん……」
肩越しにささやくファリス。
「あーいや、そうでもないよ。連中の母国語が一通りしゃべれるのがおれだけだったから、入学当時に色々面倒見させられて、ずるずる付き合いが続いてて、って感じ」
「そ、そうなんですか」
『よーう亘理、元気そうじゃないか。またバイトだったのか?』
『ひさしぶりサホタ。バイトだった、っていうより今もバイト。現在進行形』
『バイト?お前のバイトってアレだろ、胡散くさい日雇いの……』
インドからの留学生、サホタがそこまで言葉を続けたところでおれの後方に視線を転じ絶句する。まあそれはそうだ。室内に入り、帽子と野暮ったい色つき眼鏡を取り去ったファリスの瞳は、ちょっとした人種の坩堝であるこの室内でも一際異彩を放っていた。
『おい亘理……なんだよそのすっげー可愛い子は』
『もしかして……まさか、アレか?』
他の連中もたちまち寄り集まり始めた。おれはそれにややもったいぶって間をおいた。視線が焦点を結び、連中の興味と注目が最高潮に達する――その瞬間を見計らって、おれはにやりと笑みをひとつ、トリガーを引いた。
『あぁ、そのまさかだよ野郎ども!紹介するぜ!入学希望者、来年もしかしたらお前等の後輩になるかも知れない、ルーナライナ出身のファリスちゃんさぁ!!』
一拍置いて、WOOOOOOOOO!とわき起こる怒号。
「ちょ、ちょっと亘理さん?」
『マジか、ルーナライナってこんな可愛い子がいるのかよーなーいつ入学してくんの?部屋は決めた?寮住まい?このあたりにイイ飲み屋あるんだけどさー』
『……美しい』
『あ、あの、ありがとう、ございます』
『ねぇアナタその銀髪スゴイ自然だけどどうやって染めたの?え?嘘、地毛?マジで?目も?カラコンじゃないの?マジでマジでー!?』
『え、はい、生まれつきです、一応……あの、亘理さん……!』
四方八方を取り囲まれて質問攻めにされるファリスが目線でこちらに助けを求めてくるが、笑顔で受け流すことにした。
もちろん『箱』を探すためのお忍びの来日ではある。だが肝心の敵対勢力にバレてしまっている以上、下手に隠すよりも、いっそ情報を広めてしまった方が、少なくとも闇から闇に葬られることはなくなると言うものだ。……ま、実際のところそれはあくまでタテマエで。
「これが学生生活ってヤツだよ。家庭教師とのマンツーマンに比べると、効率は悪いかも知れないけどね。わりぃけど、しばらくそいつらの相手してやってて」
「え、えぇー?」
留学生たちの間にうずもれていくファリスを、おれはアタタカい眼差しで見送った。
『ようワターリ、なんかうまい儲け話ないか?』
『ねぇよフェルディナンド、あればこんなトコ来てねぇって』
『ハァイ陽司今日はこないだのイケメンいないの?』
『どもー香雪!直樹の野郎はメカ棺桶作りに忙しいってよ』
国際留学センターの一階はテーブルや椅子が並べられた広いロビーとなっており、東西南北、様々な国からの留学生達が軽食や缶ジュースを買い込んでたむろしていた。
壁際には誰かがジャンク屋で見つけてきたらしい無駄にデカいスピーカーが据え付けられ、接続されたiPhoneから流し込まれたアイリッシュ音楽を大爆音でまき散らし、癒し系だか環境妨害なんだかわからない不思議空間を作り出している。
英語を中心に無数の言葉が飛び交い、当然のようにアルコールも転がされておりカオス極まりない。高校の部室や大学のサークル棟の惨状を数十倍にしたようなもの、といえばご想像いただけるだろうか。
『メカ棺桶?それはあのミセス・イスルギの作品だろうか、亘理サン?』
『おお元気かロディ?お前が研究室から出てくるなんて珍しい。あと羽美さん一応まだミスのはずだからー』
『亘理君、そろそろ授業にちゃんと出てくださらない?そろそろ里村先生のチェックも厳しくなってきて貴方の代返も限界なのよ』
『ごめんナターシャ、古典の研究ってのはどうにも性に合わなくってさー代わりに以前別の友だちに作ってやった会計学のレジュメあげるからー』
溜まっている留学生達に適当に言葉を返す。任務以外でほとんど外国人と出会うことがない真凛は、ぎゃんぎゃんとハイテンションで飛び交う雑多な言語が全く理解できずパニックに陥り、また日本に来たばかりのファリスもすっかり呑まれてしまい、二人しておれの背中に隠れて目を白黒させている有り様である。
「よ、陽司、いつもこんななの、ここの人達?」
「いーや、まだ昼だし酒も少ないからまともな方。以前ナターシャのロシアの実家からウォッカの仕送りがあった時はホント酷かった」
「に、人気なんですね亘理さん……」
肩越しにささやくファリス。
「あーいや、そうでもないよ。連中の母国語が一通りしゃべれるのがおれだけだったから、入学当時に色々面倒見させられて、ずるずる付き合いが続いてて、って感じ」
「そ、そうなんですか」
『よーう亘理、元気そうじゃないか。またバイトだったのか?』
『ひさしぶりサホタ。バイトだった、っていうより今もバイト。現在進行形』
『バイト?お前のバイトってアレだろ、胡散くさい日雇いの……』
インドからの留学生、サホタがそこまで言葉を続けたところでおれの後方に視線を転じ絶句する。まあそれはそうだ。室内に入り、帽子と野暮ったい色つき眼鏡を取り去ったファリスの瞳は、ちょっとした人種の坩堝であるこの室内でも一際異彩を放っていた。
『おい亘理……なんだよそのすっげー可愛い子は』
『もしかして……まさか、アレか?』
他の連中もたちまち寄り集まり始めた。おれはそれにややもったいぶって間をおいた。視線が焦点を結び、連中の興味と注目が最高潮に達する――その瞬間を見計らって、おれはにやりと笑みをひとつ、トリガーを引いた。
『あぁ、そのまさかだよ野郎ども!紹介するぜ!入学希望者、来年もしかしたらお前等の後輩になるかも知れない、ルーナライナ出身のファリスちゃんさぁ!!』
一拍置いて、WOOOOOOOOO!とわき起こる怒号。
「ちょ、ちょっと亘理さん?」
『マジか、ルーナライナってこんな可愛い子がいるのかよーなーいつ入学してくんの?部屋は決めた?寮住まい?このあたりにイイ飲み屋あるんだけどさー』
『……美しい』
『あ、あの、ありがとう、ございます』
『ねぇアナタその銀髪スゴイ自然だけどどうやって染めたの?え?嘘、地毛?マジで?目も?カラコンじゃないの?マジでマジでー!?』
『え、はい、生まれつきです、一応……あの、亘理さん……!』
四方八方を取り囲まれて質問攻めにされるファリスが目線でこちらに助けを求めてくるが、笑顔で受け流すことにした。
もちろん『箱』を探すためのお忍びの来日ではある。だが肝心の敵対勢力にバレてしまっている以上、下手に隠すよりも、いっそ情報を広めてしまった方が、少なくとも闇から闇に葬られることはなくなると言うものだ。……ま、実際のところそれはあくまでタテマエで。
「これが学生生活ってヤツだよ。家庭教師とのマンツーマンに比べると、効率は悪いかも知れないけどね。わりぃけど、しばらくそいつらの相手してやってて」
「え、えぇー?」
留学生たちの間にうずもれていくファリスを、おれはアタタカい眼差しで見送った。
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