304 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆13:国際交流(未成年お断り)-1
しおりを挟む
おれ達が中に足を踏み入れるなり、連中は一斉に話しかけてきた。
『ようワターリ、なんかうまい儲け話ないか?』
『ねぇよフェルディナンド、あればこんなトコ来てねぇって』
『ハァイ陽司今日はこないだのイケメンいないの?』
『どもー香雪!直樹の野郎はメカ棺桶作りに忙しいってよ』
国際留学センターの一階はテーブルや椅子が並べられた広いロビーとなっており、東西南北、様々な国からの留学生達が軽食や缶ジュースを買い込んでたむろしていた。
壁際には誰かがジャンク屋で見つけてきたらしい無駄にデカいスピーカーが据え付けられ、接続されたiPhoneから流し込まれたアイリッシュ音楽を大爆音でまき散らし、癒し系だか環境妨害なんだかわからない不思議空間を作り出している。
英語を中心に無数の言葉が飛び交い、当然のようにアルコールも転がされておりカオス極まりない。高校の部室や大学のサークル棟の惨状を数十倍にしたようなもの、といえばご想像いただけるだろうか。
『メカ棺桶?それはあのミセス・イスルギの作品だろうか、亘理サン?』
『おお元気かロディ?お前が研究室から出てくるなんて珍しい。あと羽美さん一応まだミスのはずだからー』
『亘理君、そろそろ授業にちゃんと出てくださらない?そろそろ里村先生のチェックも厳しくなってきて貴方の代返も限界なのよ』
『ごめんナターシャ、古典の研究ってのはどうにも性に合わなくってさー代わりに以前別の友だちに作ってやった会計学のレジュメあげるからー』
溜まっている留学生達に適当に言葉を返す。任務以外でほとんど外国人と出会うことがない真凛は、ぎゃんぎゃんとハイテンションで飛び交う雑多な言語が全く理解できずパニックに陥り、また日本に来たばかりのファリスもすっかり呑まれてしまい、二人しておれの背中に隠れて目を白黒させている有り様である。
「よ、陽司、いつもこんななの、ここの人達?」
「いーや、まだ昼だし酒も少ないからまともな方。以前ナターシャのロシアの実家からウォッカの仕送りがあった時はホント酷かった」
「に、人気なんですね亘理さん……」
肩越しにささやくファリス。
「あーいや、そうでもないよ。連中の母国語が一通りしゃべれるのがおれだけだったから、入学当時に色々面倒見させられて、ずるずる付き合いが続いてて、って感じ」
「そ、そうなんですか」
『よーう亘理、元気そうじゃないか。またバイトだったのか?』
『ひさしぶりサホタ。バイトだった、っていうより今もバイト。現在進行形』
『バイト?お前のバイトってアレだろ、胡散くさい日雇いの……』
インドからの留学生、サホタがそこまで言葉を続けたところでおれの後方に視線を転じ絶句する。まあそれはそうだ。室内に入り、帽子と野暮ったい色つき眼鏡を取り去ったファリスの瞳は、ちょっとした人種の坩堝であるこの室内でも一際異彩を放っていた。
『おい亘理……なんだよそのすっげー可愛い子は』
『もしかして……まさか、アレか?』
他の連中もたちまち寄り集まり始めた。おれはそれにややもったいぶって間をおいた。視線が焦点を結び、連中の興味と注目が最高潮に達する――その瞬間を見計らって、おれはにやりと笑みをひとつ、トリガーを引いた。
『あぁ、そのまさかだよ野郎ども!紹介するぜ!入学希望者、来年もしかしたらお前等の後輩になるかも知れない、ルーナライナ出身のファリスちゃんさぁ!!』
一拍置いて、WOOOOOOOOO!とわき起こる怒号。
「ちょ、ちょっと亘理さん?」
『マジか、ルーナライナってこんな可愛い子がいるのかよーなーいつ入学してくんの?部屋は決めた?寮住まい?このあたりにイイ飲み屋あるんだけどさー』
『……美しい』
『あ、あの、ありがとう、ございます』
『ねぇアナタその銀髪スゴイ自然だけどどうやって染めたの?え?嘘、地毛?マジで?目も?カラコンじゃないの?マジでマジでー!?』
『え、はい、生まれつきです、一応……あの、亘理さん……!』
四方八方を取り囲まれて質問攻めにされるファリスが目線でこちらに助けを求めてくるが、笑顔で受け流すことにした。
もちろん『箱』を探すためのお忍びの来日ではある。だが肝心の敵対勢力にバレてしまっている以上、下手に隠すよりも、いっそ情報を広めてしまった方が、少なくとも闇から闇に葬られることはなくなると言うものだ。……ま、実際のところそれはあくまでタテマエで。
「これが学生生活ってヤツだよ。家庭教師とのマンツーマンに比べると、効率は悪いかも知れないけどね。わりぃけど、しばらくそいつらの相手してやってて」
「え、えぇー?」
留学生たちの間にうずもれていくファリスを、おれはアタタカい眼差しで見送った。
『ようワターリ、なんかうまい儲け話ないか?』
『ねぇよフェルディナンド、あればこんなトコ来てねぇって』
『ハァイ陽司今日はこないだのイケメンいないの?』
『どもー香雪!直樹の野郎はメカ棺桶作りに忙しいってよ』
国際留学センターの一階はテーブルや椅子が並べられた広いロビーとなっており、東西南北、様々な国からの留学生達が軽食や缶ジュースを買い込んでたむろしていた。
壁際には誰かがジャンク屋で見つけてきたらしい無駄にデカいスピーカーが据え付けられ、接続されたiPhoneから流し込まれたアイリッシュ音楽を大爆音でまき散らし、癒し系だか環境妨害なんだかわからない不思議空間を作り出している。
英語を中心に無数の言葉が飛び交い、当然のようにアルコールも転がされておりカオス極まりない。高校の部室や大学のサークル棟の惨状を数十倍にしたようなもの、といえばご想像いただけるだろうか。
『メカ棺桶?それはあのミセス・イスルギの作品だろうか、亘理サン?』
『おお元気かロディ?お前が研究室から出てくるなんて珍しい。あと羽美さん一応まだミスのはずだからー』
『亘理君、そろそろ授業にちゃんと出てくださらない?そろそろ里村先生のチェックも厳しくなってきて貴方の代返も限界なのよ』
『ごめんナターシャ、古典の研究ってのはどうにも性に合わなくってさー代わりに以前別の友だちに作ってやった会計学のレジュメあげるからー』
溜まっている留学生達に適当に言葉を返す。任務以外でほとんど外国人と出会うことがない真凛は、ぎゃんぎゃんとハイテンションで飛び交う雑多な言語が全く理解できずパニックに陥り、また日本に来たばかりのファリスもすっかり呑まれてしまい、二人しておれの背中に隠れて目を白黒させている有り様である。
「よ、陽司、いつもこんななの、ここの人達?」
「いーや、まだ昼だし酒も少ないからまともな方。以前ナターシャのロシアの実家からウォッカの仕送りがあった時はホント酷かった」
「に、人気なんですね亘理さん……」
肩越しにささやくファリス。
「あーいや、そうでもないよ。連中の母国語が一通りしゃべれるのがおれだけだったから、入学当時に色々面倒見させられて、ずるずる付き合いが続いてて、って感じ」
「そ、そうなんですか」
『よーう亘理、元気そうじゃないか。またバイトだったのか?』
『ひさしぶりサホタ。バイトだった、っていうより今もバイト。現在進行形』
『バイト?お前のバイトってアレだろ、胡散くさい日雇いの……』
インドからの留学生、サホタがそこまで言葉を続けたところでおれの後方に視線を転じ絶句する。まあそれはそうだ。室内に入り、帽子と野暮ったい色つき眼鏡を取り去ったファリスの瞳は、ちょっとした人種の坩堝であるこの室内でも一際異彩を放っていた。
『おい亘理……なんだよそのすっげー可愛い子は』
『もしかして……まさか、アレか?』
他の連中もたちまち寄り集まり始めた。おれはそれにややもったいぶって間をおいた。視線が焦点を結び、連中の興味と注目が最高潮に達する――その瞬間を見計らって、おれはにやりと笑みをひとつ、トリガーを引いた。
『あぁ、そのまさかだよ野郎ども!紹介するぜ!入学希望者、来年もしかしたらお前等の後輩になるかも知れない、ルーナライナ出身のファリスちゃんさぁ!!』
一拍置いて、WOOOOOOOOO!とわき起こる怒号。
「ちょ、ちょっと亘理さん?」
『マジか、ルーナライナってこんな可愛い子がいるのかよーなーいつ入学してくんの?部屋は決めた?寮住まい?このあたりにイイ飲み屋あるんだけどさー』
『……美しい』
『あ、あの、ありがとう、ございます』
『ねぇアナタその銀髪スゴイ自然だけどどうやって染めたの?え?嘘、地毛?マジで?目も?カラコンじゃないの?マジでマジでー!?』
『え、はい、生まれつきです、一応……あの、亘理さん……!』
四方八方を取り囲まれて質問攻めにされるファリスが目線でこちらに助けを求めてくるが、笑顔で受け流すことにした。
もちろん『箱』を探すためのお忍びの来日ではある。だが肝心の敵対勢力にバレてしまっている以上、下手に隠すよりも、いっそ情報を広めてしまった方が、少なくとも闇から闇に葬られることはなくなると言うものだ。……ま、実際のところそれはあくまでタテマエで。
「これが学生生活ってヤツだよ。家庭教師とのマンツーマンに比べると、効率は悪いかも知れないけどね。わりぃけど、しばらくそいつらの相手してやってて」
「え、えぇー?」
留学生たちの間にうずもれていくファリスを、おれはアタタカい眼差しで見送った。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


『五十年目の理解』
小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる