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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆06:オープン・コンバット-1
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慣性の法則とはありがたいものだ。どれだけ速く移動しようと、一定の速度で移動している限りはとりあえず体に負担はかからない。前方の玲沙さんの体の傍から吹き抜ける嵐のような風の壁がなければ、だが。殺人的な急加速が収まった後、おれはどうにか自分の状況を落ち着いて確認することが出来た。
おれの今見ている光景を何と説明したものか。
理性ではわかっている。おれは今、中央高速道の上り車線を、ステキな美女とタンデムで疾走している。それは間違いない。だというのに。
何で次々と『対向車』が向かってくるのか。それも『後ろ向き』に。それをごく僅かに重心をシフトするだけで次々とかわしてゆく玲沙さん。なるべく考えないようにしていた質問を、おれはついに口にした。
「あの……!これ何キロ出てるんですか……!!」
ヘルメット内には『アル話ルド君』と直結した、ノイズフィルタリングをリアルタイムで施すヘッドホンが内蔵されており、滝の中にいるようなこの轟音の下でも驚くほどクリアな通話が可能だ。
『私、その。子供の頃ヒーローに憧れていたんです』
メット越しに帰ってきたコメントは、おれのHowManyの質問への回答ではなかった。その質問に何か言い知れぬ不吉な影をひしひしと感じつつ、おれは耳を澄ます。
『女の子がヒーロー好きって、ヘンですよね』
「いえいえゼンゼンそんなことナイッス」
メットから聞こえて来たのは苦笑、だろうか。
『特にバイクに乗ったあのヒーローが大好きでした。いっつもお兄ちゃんの持っていたマンガ雑誌を何度も繰り返して読んでいたんです』
すっ飛んでくるタンクローリーを軽やかに回避。
『そこに出てくるバイクが本当に大好きでした。ずっと思っていたんです。百キロとか百五十キロとかじゃなくて、マンガに書いてあるくらいの速度で疾走ってみたらどんなに胸が熱くなるだろう、と』
待ってください。それってまさか、
『結局、夢を叶えるためにこの仕事を選びました』
現在進行形で叶えているってわけデスカー!?
答えは前方に迫ってくる業務用の大型トラック。相対速度で考えれば、並走する車と百キロ以上の速度差があればこういう現象も出現しうるのかもしれないが、いやしかし、
『『追跡者』より『剃刀』へ。どうだ、調子は?』
『こちら『剃刀』。諏訪SAを出発して今、諏訪ICを通過しました』
「……お久しです、見上さん」
『やあ、亘理君か。元気でやってるみたいだな』
ヘルメットから響いて来たのは、今回の作戦に参加しているうちのチームの四人目の声だった。出版業界専属のエージェント、『机上の猟犬』見上《みかみ》柏錘《はくすい》さんだ。この人とはおれはかつて、ある遅筆で有名なベストセラー小説家の失踪事件が発生した時、一緒に仕事をしたことがあった。この度はその能力を買われ、おれ達のチームの指揮役を務めている。
「どうも。そっちも相変わらず、小説家と漫画家の恐怖の対象のようで」
ここで減らず口を叩くのは最早おれ自身の意地である。
『ウム。俺の『遠隔視』ある限り、何人たりとも〆切から逃れる事は出来ん』
過去数多の作家の一縷の望みを断ち切ってきた重々しい断言を電波に乗せる。
おれの今見ている光景を何と説明したものか。
理性ではわかっている。おれは今、中央高速道の上り車線を、ステキな美女とタンデムで疾走している。それは間違いない。だというのに。
何で次々と『対向車』が向かってくるのか。それも『後ろ向き』に。それをごく僅かに重心をシフトするだけで次々とかわしてゆく玲沙さん。なるべく考えないようにしていた質問を、おれはついに口にした。
「あの……!これ何キロ出てるんですか……!!」
ヘルメット内には『アル話ルド君』と直結した、ノイズフィルタリングをリアルタイムで施すヘッドホンが内蔵されており、滝の中にいるようなこの轟音の下でも驚くほどクリアな通話が可能だ。
『私、その。子供の頃ヒーローに憧れていたんです』
メット越しに帰ってきたコメントは、おれのHowManyの質問への回答ではなかった。その質問に何か言い知れぬ不吉な影をひしひしと感じつつ、おれは耳を澄ます。
『女の子がヒーロー好きって、ヘンですよね』
「いえいえゼンゼンそんなことナイッス」
メットから聞こえて来たのは苦笑、だろうか。
『特にバイクに乗ったあのヒーローが大好きでした。いっつもお兄ちゃんの持っていたマンガ雑誌を何度も繰り返して読んでいたんです』
すっ飛んでくるタンクローリーを軽やかに回避。
『そこに出てくるバイクが本当に大好きでした。ずっと思っていたんです。百キロとか百五十キロとかじゃなくて、マンガに書いてあるくらいの速度で疾走ってみたらどんなに胸が熱くなるだろう、と』
待ってください。それってまさか、
『結局、夢を叶えるためにこの仕事を選びました』
現在進行形で叶えているってわけデスカー!?
答えは前方に迫ってくる業務用の大型トラック。相対速度で考えれば、並走する車と百キロ以上の速度差があればこういう現象も出現しうるのかもしれないが、いやしかし、
『『追跡者』より『剃刀』へ。どうだ、調子は?』
『こちら『剃刀』。諏訪SAを出発して今、諏訪ICを通過しました』
「……お久しです、見上さん」
『やあ、亘理君か。元気でやってるみたいだな』
ヘルメットから響いて来たのは、今回の作戦に参加しているうちのチームの四人目の声だった。出版業界専属のエージェント、『机上の猟犬』見上《みかみ》柏錘《はくすい》さんだ。この人とはおれはかつて、ある遅筆で有名なベストセラー小説家の失踪事件が発生した時、一緒に仕事をしたことがあった。この度はその能力を買われ、おれ達のチームの指揮役を務めている。
「どうも。そっちも相変わらず、小説家と漫画家の恐怖の対象のようで」
ここで減らず口を叩くのは最早おれ自身の意地である。
『ウム。俺の『遠隔視』ある限り、何人たりとも〆切から逃れる事は出来ん』
過去数多の作家の一縷の望みを断ち切ってきた重々しい断言を電波に乗せる。
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