人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第3話:『中央道カーチェイサー』

◆06:オープン・コンバット-2

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 見上さんの能力は『遠隔視』。テレビの特番なんかでよくあるあれだ。世界最高の超能力者とか肩書きのついた外国人のオジサンオバサンが、自宅に居ながらにして過去の殺人事件の現場や行方不明者の居場所を霊視(番組によっては透視とも言うかな)して、スケッチしたりするって奴。

 ああいう番組に出演する能力者もイカサマ師から本物まで玉石混合だが、見上さんのは正真正銘の本物。特定した対象の現在位置を、まるでGPSのように正確に把握することが出来る。どうやって把握しているのかはおれも知らない。

 見上さん曰く、訓練や怪しげな魔術ではなく、先天的に生まれ持った能力、とのことだ。そして、それを他人に説明するのは非常に難しいらしい。こういう言い方はちと良くないが、生まれつき目が見えない人に、”色”という概念を説明するようなものなのだそうだ。

 彼がエージェントとしての経験も長く、修羅場でも冷静な判断が出来る事をおれは知っていた。今回のような彼我の位置関係が重要な任務に、見上さんが司令塔として控えてくれているのはとても心強い。

「先方に動きはありましたか?」
『ああ。敵サンはルールどおり、君達より大分前に諏訪ICから上がっている』
『車種はわかりますか?』

 玲沙さんが会話に加わる。

『そこまでは俺にも視えん。だが四輪なのは間違いない』
『加速と小回りより堅実性を重視してきましたか。いずれにしても、じきに接触することに、』

 そこまでで玲沙さんは一旦コメントを切った。

『亘理さん』

 おれには首を上げる余裕などなかったが、それでも何が起こりつつあるかは容易に推測できた。ついに戦端が開かれたのだ。
 

 
 追い越し車線を維持していた玲沙さんの『隼』が、突如車体を倒し、右も右、中央分離帯に接触するギリギリのところまで一気に寄せた。近づいたせいで先程より尚凄まじい体感速度で後方に放たれていく灯りと、最早閃光としか認識できない対抗車線のヘッドライトが、おれの脳をかき乱す。前方以外はなるべく見ないようにしているはずなのに、大きく体が斜めに傾いだことで、超高速で疾走するアスファルトが視界に嫌でも飛び込んでくる。

 もみじおろし。

 そんな言葉が脈絡もなく脳裏に浮かんで途端に泣きたくなった。だが勿論涙腺から体液を分泌するような悠長な時間は与えられなかった。『隼』が空けた空間を、けたたましいブレーキ音を響かせて鋼鉄の分厚い箱がえぐってゆく。

 先行していた敵さんの車が、おれ達をバックミラーに捕らえると同時にブレーキを踏んで衝突を狙ってきたわけだ。向こうはムチ打ち、こちらはもみじおろし。それで全ては決着ってとこか。ったく、随分と思い切りのいい野郎だな!怒りが一瞬恐怖を退け、おれは敵を見やった。

 トヨタ・クラウンアスリート。

 それだけでおれは、まだ顔も見ない敵を嫌いになる事に決めた。玲沙さんが回避に入った時点ですでに再加速に移行していたのだろう、たちまち加速は負から正へと転換。丁度おれ達と何秒間か並走する形になった。クラウンの運転席の窓は……開いている!

 烈風吹き込むはずの車内。その助手席には、『隼』の後部に取り付けているものと同じケースが確かにあった。そして、窓からおれ達を見やる運転手――壮年の男――の顔は……笑っていた。猛烈にイヤな予感。そしてそんな予感はバッチリハズレるわけがない。運転席から男の右手が伸び、その手にあるものをこちらに見せ付ける。

「ベアリング!」

 もちろんそれは精密工業用品としての意味合いではない。その技術を応用して地雷に混ぜ込み、人を殺傷するためだけにばらまかれるロクデナシの鉄球のことだ。こういう時に途端にピンと来てしまう自分の人生にちょっと落ち込む。おれの叫びを耳にしたのだろう、玲沙さんが『隼』を立て直すと再び一気に加速する。
 
 
 ……お初にお目にかかる。『包囲磁針マッド・コンパスかずら 剛爾ごうじ
 
 
 男の唇が確かにそう動いた。途端、男の手から無数のベアリングが掻き消える。その行く手は。

「追ってくる!」

 悪夢のような光景だった。失禁寸前の速度でぶっ飛ばしているはずのこのバイクに、まるで砲丸のような速度で宙を飛び喰らいついてくる、黒焼きの入ったベアリング。相対速度を考えれば、こいつらはとんでもない早さですっ飛んでいる勘定になる。夜の闇の中、視認する事さえ至難の刺客の襲撃だった。
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