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43 性癖の力

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 四十三話 性癖の力


「ねぇ福田、今日学校終わったら空いてる?」

「え?」


 帰りのホームルームが終わり、声をかけてきたのはスパイの多田麻由香。
 他のクラスメイトたちにオレと話していることがバレないよう、窓の外へ視線を向けながらさりげなく話しかけてくる。


「なんで?」

「ちょっと話したいことあってさ」

「まぁ……いいけど」

「おっけ! じゃあ早速行こう!!」

「えぇええ!?」


 多田は素早く方向転換。 オレに体を向けると勢いよく腕を引っ張る。


「ちょっ……な、なんだ!?」

「ほら、早く!!」

「んんん!?」


 こうしてオレは多田に強く引っ張られながら教室をあとに。
 教室を出る際どこからか「福田くん、今度は多田さんにいじめられてるのかな」などという会話を耳にしながら目的地まで連れて行かれたのだった。


 ーー……やっぱりオレっていじめられキャラが定着してるのな。


 ◆◇◆◇


 多田に連れられて向かった先。 それは図工室前の女子トイレ……ではなく、学校の外のなぜかゲームセンター。
 前に工藤と一緒にご飯を食べたファミレスの近くだ。


「なぁ、なんでここなんだ? お前ここでオレをいじめんのか? 流石に学校に連絡行くぞ」


 オレが半分呆れながら多田に話しかけると多田は「なんでそうなるの」とため息をつく。


「ん? 違うのか?」

「違うよ! ほら、あそこ見て!!」

「あそこ?」


 そう言って多田が指差したのは子供がよく遊んでいる印象のゲーム筐体。

 なんだ? 格ゲーとかでオレをボコろう……とかそんなこと考えてるのかな。 そんなことを考えながら首を傾げていると、その筐体の上に大きめのポスターが貼ってあることに気づく。
 一体なんのポスターなのだろう。 オレはなんとなくの感覚でそこへ視線を向けてみたのだが……


「ーー……ん? んんん!!??」

 
 オレの視界に映るもの……それはラブカツのポスター。
 
 
 しかもただのポスター程度じゃオレはこんなに驚かないぜ?
 そこにはこんなメッセージが書かれていたんだ。


【君もオーディションに合格して、ラブカツの映画に出よう!!】


「オ、オーディションに合格してラブカツの……映画?」

「ね、福田、びっくりしたでしょ!」


 オレの反応に満足したのか多田が嬉しそうにオレの腕を引っ張ってくる。

 詳細に目を通してみると、どうやら夏休みの序盤くらいにこの近くでラブカツのイベントをするとのこと。
 そして希望者はそこでアイドルになりきって歌やダンスを披露。 審査員の目に留まれば来年か年末に上映予定の『劇場版ラブカツ』に出演できる……というものだった。
 そしてこの直後、オレは多田から衝撃の一言を聞くこととなる。


「福田ってさ、あの工藤お兄ちゃんと一緒でラブカツ好きだったじゃん!? ウチあれ出たいんだけどさ、練習付き合ってくれないかな!」


 ーー……。


「え、多田、出るの?」

「うん! ウチ出たい!」

「そ、それでオレに練習付き合えと?」

「いいっしょ!? もしウチが受かったら、福田もラブカツの人に会えるんだよ!!」

 
 なん……だと。
 それはかなり素晴らしいじゃないかあああああああ!!!!!


 参加条件は小学生の女子限定。 オレは参加することはできないが、多田の関係者として……裏方に回っていればもしかしたらラブカツの主人公・天空のぞみちゃんの声優に会えるかもしれないってことかあああああああ!!!!
 これは既に穏やかじゃないぜええええええええ!!!!

 オレの心臓がロックなビートを刻み始める。

 もちろんオレはこの体に入る前は普通のサラリーマンとして日々を過ごしていたのが、アイドル育成ゲームなら中毒のようにやり込んでた時期がある!!
 所詮ゲームだと思うかもしれないがノンノン!! 人生に無駄な時期なんてないのだ!!


 今こそゲームで得た知識を活かす時!!!


「多田!」

 
 オレは多田の両肩をガシッと掴むと、まっすぐ目の前の多田を見据える。


「な、なに!?」

「やるぞ! やるからにはオーディション合格だ!!!」

「ーー……!! やってくれるの!?」

「もちろんだ!! ともに目指すぜTEPPEN!!!」


 となれば早速準備に取り掛からなければならない。
 オレはその日のうちに工藤に電話。 ラブカツオーディションのことを伝え、協力を要請したのだった。

 ーー……え? 返事はどうだったかって?

 もちろん工藤も乗り気で……しかもすぐにOKしてくれたさ!
 ちなみにその時の会話はこんな感じだったのだが……


『工藤!! 朗報だ!! 時間あるか!?』

『どうしたの? うん、今は休憩中だから10分だけど大丈夫だよ』

『あのさ、多田麻由香いるじゃん!? ほら前一緒にご飯食べたJSの』
 
『うん』

『なんかあいつ、ラブカツのオーディションがあるから出たいって言っててさ』

『え! ガチ!?』

『そうなんだよ!! それで工藤にも手伝ってもらおうかと……』

『あー、でも仕事が最近忙しくてなぁ。 どうしよう』

『ーー……今は夏。 踊りもあるってことは……練習中、JSの脇を近くで拝めるぞ』

『ヒョッハアアアアアア!!! 是非手伝わせてくれ! 衣装代も僕が出す!! 近くで脇を拝めるためならガンガン有給とって休んでやるさ!!!』


 性癖の力ってすごいよな。

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