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37 痛恨のミス!!

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 三十七話  痛恨のミス!!


 結城が家に泊まりに来た日の深夜。
 ソファーの上で横になりながら今頃優香は宿題に必死なんだろうなーなどと考えていると、自分も宿題があったことを思い出す。

 確か算数の問題集が数ページあったよな。 まぁ社会人だったオレからしたらチョロいレベルなのだが。


「ーー……眠くないし今のうちにやっとくか」


 オレはソファーから降りると結城の眠っているオレの部屋へ。 音を立てないようゆっくりと扉を開けると中は真っ暗……結城はすでに眠っているようだ。
 オレはそこからすり足で勉強机の方へ。 慎重にランドセルから問題集と筆記用具を取り出すと、結城の可愛い寝顔を確認してから部屋を出た。

 ーー……あぁ、なんて癒される寝顔なんだ。 寝息も可愛いかったなぁ。

 その後オレはリビングで宿題を一瞬で終わらせ、ようやく眠りにつく。
 翌日……この時の行動を後悔するとも知らずに。

 
 ◆◇◆◇


 翌朝、優香がカーテンを開けたことにより差し込んできた光でオレは目を覚ます。


「あ、おはようダイキ」

「……おはよう」

「宿題してたんだね。 今から朝ごはんの用意するから顔でも洗っておいで」

「はーい」


 寝る前に見た顔がJSの寝顔で、寝起きに見た顔がJKとか……オレ勝ち組すぎるだろ。
 オレはそんな優越感からかニヤニヤと口角を上げながら洗面台へ。 中に入るとそこでは寝起きの結城が先に歯を磨いていた。

 
「あ、お……おはよう福田くん!」


 ん? 

 結城の様子がなんかおかしい。
 なんだろう……少し緊張しているような。


「あーうん、お、おはよう」


 オレはあまり気にせずに結城の隣に並び歯を磨き始める。
 

「ーー……」
「ーー……」


 おいおいの状況も神すぎないか?
 このお互いに無言で歯を磨いているこの状況がかなり愛おしい。 休みの朝から気になる女の子と一緒に歯を磨いてるなんて。

 まるで同棲カップル……いや、新婚夫婦か?
 
 オレはもし結城と付き合い結婚したらこんな毎日を送れるのだろうかと妄想を開始。
 それからどのくらい経っただろう。 体感では1分くらいだったのだが、オレがふと視線を結城へと移したタイミング……ちょうど結城もこっちに視線を向けていたようで偶然にもお互いの目があう。


「え」
「あっ……」


 結城はオレと目が合うや否やすぐに目をそらし視線を反対方向へ。
 オレが「んんー?」と顔を覗き込もうとするも、結城はそれを避けるかのように顔を真っ赤にしながらオレに背を向けた。


「えっと……どうしたの?」

「え、う、ううん……! なんでもない、よ?」


 結城がオレに顔を向けず後ろ向きのまま答える。
 もしかしてこれって……あれだよな? 絶対そうだよな?

 結城もオレと同じ気持ちだから照れて緊張しちゃってるってことだよな!?!?
 だとしたら良い意味で試合終了じゃねーかあああああああ!!


 朝っぱらから脳内で鳴り響くウェディングベルの影響からか、オレのテンションは急激に爆上がり。
 これはすぐにでも結城の気持ちを聞いて……その次にオレの気持ちも伝えれば晴れて両思い!! 念願だった彼女が出来るんじゃないかああああああ!?!?!?

 そうと決まれば早速告白へと誘導することにしよう。
 オレは心の中で大きく頷き気合を入れると結城をまっすぐと見る。


「ど……どうしたの?」


 鏡越しにオレを見ていた結城が声を震わせながら小さく振り返る。

 キタぞ!! 照れてるじゃないか!! これは完全に惚れている!!!

 オレは大人の魅力を存分に醸し出しながら優しい言葉で結城に囁くことに。
「結城さん、様子がおかしいけどどうかした? 良ければ話、聞こうか?」と尋ねてみるとどうだろう、結城の目がみるみる大きく見開かれていくではないか。


「ーー……え? え? どうして分かるの?」

「さっきからオレのことチラチラ見てたでしょ? オレに何か言いたいことあるんじゃないのかなって」
 
「あ、えっと、うん……でも良いのかな。 私、あんまりそういうこと良く分かんなくて……」


 結城が歯ブラシを握りしめながら再び視線をそらす。
 

「え? 結城さん……そういうことまだ分からないの?」

「う、うん」


 これは……完全に勝ち確パターンきたのではないのでしょうか。

『そういうこと良く分からない』ってあれだよな。 それはオレのことが好きなんだけど、でも好きになって良いのか分からない……そういうことだよな!? クッソ可愛いじゃないかああああああ!!!!


 オレは高鳴る鼓動を必死に抑えて結城を手首を優しく掴む。


「ふ、福田……くん!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「問題ないって……え、なにが?」

「さっき結城さんが言ってた『そういうことよく分からない』ってもしかして……好き、とかそういう感情のことなのかな?」


 そうクールに尋ねてみると、まさかの反応。
 結城は上目遣いでオレを見上げながら「多分そう……なのかな。 福田……くん、教えてくれるの?」と可愛らしく頷いた。

 
 ウォーーーイ!! キマシターーーー!!!


「もちろん!!!」


 オレはイケメンボイスでそう答えると、結城はオレの手を引っ張りながら「じゃあその……福田……くん、こっちきて」とオレの部屋へと誘導していく。


「え、え? ゆ、結城さん?」

「こっち……」


 先に結城が中に入ると、顔を赤らめながらオレに小さく手招き。 
「早く……来て」と小さく囁いてくる。


「!!!!!!!!!」


 も、ももももしかして、キ……キキキキキキキスなのか!!?? 
 

 オレは結城の大胆っぷりに大興奮。 息が荒ぶっていくの必死に隠しながら部屋へと入るとこれまた大胆。
 結城はオレが部屋に入ったことを確認すると、外の様子を一瞬確認した後に静かに扉を閉める。


「ゆ、結城さん!?」

「あ、あのね……福田……くん」


 これは完全にキスイベント!!
 扉を閉めた結城が視線を泳がせながらチラチラとオレの方を再び見始める。


 こ、こういう場合ってやっぱり男から行くべきなんだよな!?!?
 キス経験皆無のオレは前世でやっていた恋愛ゲームの手順を脳内で復習。 早くあの唇に触れたい一心で震えながらも結城の手首を掴み、ゆっくりとこちらに引き寄せようとしていたのだが……


「ど、どうしたの福田……くん」

「E?」


 結城が目をパチクリさせながらオレを見ていたのでオレは一旦手を離すことに。

 え、キスじゃなかったの?

 そう混乱していたオレだったのだが、次の瞬間背中が一気に凍ることとなる。


「えっとじゃあ早速なんだけど……福田……くん、いいかな」

「え?」

「あ、あれ……」

「アレ?」


 結城が勉強机の下を指差したのでオレはとりあえずそこに視線を向ける。


「Oh」


 どうしてこうなった。 指差す先に落ちていたのはエロ漫画。
 思い返してみるとおそらくあの時だ。 ランドセルにエロ漫画を隠していたまでは良かったんだが、昨日の深夜にそこから筆記用具と宿題の問題集を取り出した際……一緒に出てきて落ちたんだ。

 それにしてもなんでよりによってエロ漫画が落ちてるんだよ!!! 他にもあるだろ他授業のノートとかさあ!!!

 完全に言葉を失い固まっているオレに向かって結城が「あれって福田……くんのだよね? 福田……くん、ああいうのが好きなの?」と恥ずかしそうに尋ねてくる。


「ーー……ああいうのって?」

「その……裸の男の子を楽しそうに蹴ってる女の子」


 ーー……。


「もしかしてだけど結城さん……中身ちょっと読んじゃった?」

「ーー……うん。 ちょ、ちょっと」


 ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!


 ーー……終わった。
 オレの唯一持っているエロ漫画。 その内容はJSが自らの身体を武器に同級生の男の子たちの弱みを握り、最終的には下僕にして虐めていくというもの。
 結城は先ほど『ちょっとしか読んでない』って言ってたけど、もしかしてラストシーンの複数人にめちゃくちゃにされたシーンも見てしまったのだろうか。


 オレがそんな心配をしていると結城が「それで福田……くんは、こういうの……好きなの?」と再度尋ねてくる。


「え、なんで?」

「その……ちょっと気になっちゃって」

「あのさ、もしかしてなんだけど、さっき洗面所で自分では好きなのかよく分からないからオレに教えて欲しい的なこと言ってたけどさ……これのこと?」

「うん」


 チックショーーー!! 好きってそっちの好きが知りたかったのかよおおお!!!!
 てかまだ純粋に好きって言えないあたり小学生だな可愛いなあもうううう!!!!!


 オレは結城の純粋さとちょっとしたムッツリさに激しく興奮。
 もうオレの性癖を引かれても仕方ねぇ。 ここは素のオレで勝負させてもらうぜ!!!


 覚悟を決めたオレはまっすぐ結城に向き直ると、親指を立てながらこう言ってやったさ。


「はい。 イジメられるの大好きです!」

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