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32 相手はリアルJS①

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 三十二話  相手はリアルJS①


 それは突然だった。
 朝、いつものように登校し下駄箱で上履きに履き替えていたオレの背中を小畑と多田がドンと押してくる。


「うわわっ!!」

 
 いきなりのことオレはでバランスを崩しそのまま尻餅。
 見上げてみると2人が……いや、小畑だけがニヤニヤしながらオレを見下している。


 ーー……あぁ、小畑美波。 君は本当に素敵な表情をするね。
 その愉悦の表情、心底堪らないよ。


 朝からこんなご褒美があるだなんて。

 オレがそんな小畑のSっ気に心から満足。 小学生の体に転生できてよかったーなどと考えていたのだが、これは……オレは前世でどんな徳を積んだのだろうか。 
 ご褒美はまだ終わっていなかったのだ。


「ああー、福田、背中汗でびちょびちょじゃんー。 私の手まで濡れちゃったし、きんもーい!!」


 あろうことか小畑がオレの顔に手のひらを擦り付けてくる。

 ちょ、ちょっと待って!! これはどういうイジメ!? めちゃめちゃ興奮するんですけどおおおお!!!
 小畑の小さな手がオレの顔を上下左右に駆け回り……ていうかこれがJSの肌質、すべすべプニプニだなぁ。


「ほらぁ、麻由香も拭きなよ。福田菌染み込んじゃうよー」

「え、ウチも!?」


 多田は小畑の突然の振りにかなり困惑。
 しかし多田も小畑同様にオレをイジメないと不審がられてしまうと思ったのだろう。 「じゃ、じゃあちょっとだけ」とオレにアイコンタクトで謝りながら手の平を近づけてきた……その時だった。
 

「や、やめてあげて……」


 ん?


「「ーー…??」」


 突然誰かがオレたちの間に割って入ってくる。

 おいおい誰だオレのハートフルなモーニングを邪魔する奴は!
 オレは少し不機嫌になりながら視線を上にあげたのだがそこには……


「ーー……だ、大丈夫?」

「え」


 その正体は結城。
 結城は身体を震わせながら……しかし視線は2人には合わさずに俯いている。


「え? 結城さんじゃん。 どうしたの?」


 多田が首を傾げながら結城に話しかける。
 オレはどうして別のクラスの結城がここにいるのか不思議でならなかったのだが、次に発せられた結城の言葉は衝撃的なものとなっていた。


「福田……くん、かわいそう」

「エ」

「「え??」」


 そう口にした結城はオレの腕を掴み立ち上がらせると、教室とは逆の方向へと歩き出す。


「お、おおお? ゆ、結城さん???」

「こ、こっち……」


 背後からは小畑の「あーー取られたー!! もうちょっと福田で遊びたかったのにー!!」という文句が聞こえてくる。

 も、もうちょっとオレで遊びたかった……だと?

 まさか小畑はこれをいじめではなく遊びの一種として捉えているとでもいうのだろうか……ということはもしや遊びという名目上でさりげなくそういうことを教えていけば、もっと楽しみながらしてくれるのでは……?


 ニヤリ。


 オレは結城に引っ張られながらも将来ガチで有望な小畑に心の中で親指を立てた。


 ◆◇◆◇


 その後結城に連れてこられたのは保健室。

 職員室とか教師がいるところじゃなくてよかったぜ……2人のことをチクられたらオレのパラダイスが一気に崩れ去っちまうからな。
 オレは娯楽が守られたことに安堵。 深いため息を吐いた。


「福田くん、その……痛いとこ、ない? 大丈夫?」


 オレが落ち込んでると思ったのか、結城がオレに顔を近づけてくる。


「ゆ、結城……さん?」

「さっきあの子に顔やられてたから……ここも痛くない? ちょっと赤いけど」


 結城がオレの頬をツンツン突く。


 それは興奮してたからです!! ……などとそんな本音は言うことはできないオレはシンプルに「大丈夫だよ」と返答。
 ていうか結城の突き方よ。 なんかこう……初めて見るものを触るような、腫れ物を触るようなこの柔らかい触り方、いいね。 癖になりそうだぜ。


 オレがそんな結城のソフトタッチに癒されていると、次に結城は「頭は? 打ってない?」とオレの髪を掻き分けタンコブの捜索を開始。


「え、ちょ……ゆ、結城さん?」

「痛いところあったら教えてね」


 うおおおおおお!!! 近い!!!


 目の前には結城の体。
 ほんのりかいた汗の香りが直に鼻を通り脳を刺激する。

 世の中の芳香剤会社は【JSの汗の香り】というアロマ商品を開発するべきだ。 世の中の疲れた男性がこぞって買いに走るだろうよ。

 ただこのまま嗅ぎ続けているとそう……色々とまずいので、オレは本当に大丈夫だということをアピールして結城のたんこぶ探索を中止させることに。
 その後どうしていじめを止めに入ったのか聞くことにしたのだが……


「だって私、福田くんにたくさん助けてもらった……から」


 え。

 
 思わぬ返答に驚き結城の顔を見上げると、結城はやはり恥ずかしがり屋さんなのかすぐに視線を逸らしてくる。


「え、えーと……オレが助けた? 結城さんを?」

「うん」


 結城はそう小さく頷くと、指折り数えながらオレにしてもらった?ことを話し出した。
 

「西園寺さんたちにいじめられてた時……福田くん、自分が代わるからって。 私を逃がしてくれた」


 ーー……あぁ、あったな。 久々に動物園開きたいぜ。


「リコーダー隠されて、誰も貸してくれなくて困ってたら……貸してくれた」


 美味しゅうございました。


「週末いつものように家に帰れないから外で悲しくなってたら福田くん……助けてくれた」


 うん、気づいたのは姉の優香だけどな。


「お風呂も……福田くんのベッドも貸してくれて……」


 あれさ結城、お前が家に帰った日の夜にベッドの香り嗅いだんだけどいい匂いしたぞ!! ありがとう!!


「でもね、一番嬉しかったのは……」


 結城が保健室を見回す。


「ーー……??」

 
 結城の視線を追っていると、突然結城がオレの手を包み込むように両手で優しく握りしめてくる。
 小畑や多田のとはまた違い、温かさに満ち溢れた両手。
 オレはそんな温かみを直に感じながら結城に視線を戻すと、偶然にも結城と目が合い……しばらくの沈黙の後。結城はようやく口を開いた。


「上履きにいたずらされてどうしようか不安で泣きそうだった時、手を差し伸べてくれたことが一番嬉しかった。 安心……した。 あの後教室で思い出して私、嬉しくて泣いたんだよ? みんなは私がいじめられて泣いてたと思ってるんだろうけど」


 結城が涙を流しながらオレに「改めてその……ありがとう」微笑みかけてくる。
 もちろんこんなド直球な青春会話は初めてなわけで……


 ズキュウウウウン!!!!!


 待ってくれ、これは……マジか?
 結城が……結城がめっちゃ可愛く見えだしたんですけどおおおおおお!!!!


 え、もしかしてオレ、リアルJSにガチ恋しちゃった??

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