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12 ビッチなのかそうでないのか

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 十二話  ビッチなのかそうでないのか


 姉・優香の疑惑めいた落し物。

 オレはそれが気になりすぎて夕食の味すら分からないほどに。 そしていつしか就寝時刻……。


「んあああああ!! 我慢できねぇ!!」


 オレはベッドからローリングして床に着地。 そのまま優香の部屋へと突撃した。


 ◆◇◆◇


 優香の部屋の扉を開けてみると、優香は勉強机の前で座りながらスマートフォン中。
 そしてオレに気づいたのか視線をこちらに向けてきて「どうしたのダイキ」と尋ねてくる。

 うわぁ、部屋中に溢れる甘いフローラルな香り……これがJKの匂いかぁ。
 オレは部屋に入るやいなや魅惑の香りに心を奪われる。


「ん? ダイキー?」


 ーー……はっ!! いかんいかん!!

 当初の目的を思い出したオレはすぐに行動にでることに。
 ちなみに何をするかって? そんなの決まっているだろう……問いただすんだよ、あの件を。


「あのさ、お姉ちゃん」

「ん?」

「家に帰ってきたときに落としてたあの小ちゃな四角い袋ってなんなの?」

「え!?!?」


 優香はオレの質問にわかりやすく動揺。

 彼氏がいるのかいないのか。 はたまた清楚な見た目をしたビッチなのか。
 これが判明しない限りオレは気になって寝られないんだああああ!!!


「ど、どうしたのダイキ。 きゅうにそんな……」

 
 優香が顔を赤らめながらスマートフォンを机に置く。
 これは……黒なのか白なのか。

 ーー……ここは無知っぽくジワジワと攻めてみるしかなさそうだ。


「あれなに? お菓子?」


 そう尋ねると優香は「違う違う! あれ食べ物じゃないよ!」と全力で首を左右に振って否定する。


「じゃあアレなに?」

「うんとねぇー…」


 優香が腕を組んで考えだす。
 おそらく優香的には何か上手い言い訳を考えているんだろうが……だったらもうど直球に聞いてやろう。


「もしかして彼氏からのプレゼント?」

「か、彼氏なんて!! お姉ちゃんに彼氏なんかいないよ!」


 まさかの即否定。 

 優香はそう答えるとスマートフォンの画像フォルダをオレに見せて一気にスクロール。
 確かに写っているのはスイーツや小物写真……あとは何故か金髪のギャルの写真と……男の写真は1枚も入っていない。
 これは……本当にいないっぽいぞ。


「え、ほんとにいないの?」

「いないよ!! なんでいるって思ったの!?」

「だってお姉ちゃん美人だし彼氏いてもおかしくないって思ったから」
 
「え……えぇ!? お姉ちゃん美人……えぇ!?」

 
 優香に彼氏はいない。

 そのことを確信したオレはこうして自然な会話を続けてはいるが、内心はかなり動揺していた。
 今も優香はオレに何かを言っているものの、動揺のあまりまったく頭に入ってきていない。

 だって仕方がないだろう。
 彼氏いないのにアレを持ってるってことはもうつまりそう、優香は……


 ビッチ確定じゃねえかああああ!!!!
 オレなんか20代後半になってたにも関わらず、卒業できなかったんだぞおおおおお!!!


 なぜかいろんな感情が入り混じった結果、オレの目からは大量の涙が。
 清楚系ビッチ……本当に実在したんだ。 オレ的には都市伝説だと思ってたのにこうも身近に……しかもそれが自分の姉だなんて。


「え、なんでダイキ泣いてるの?」

 
 身体を震わせ涙を流していると、優香がオレのもとに近寄り顔を覗き込んでくる。


「泣いてるかな、んぐっ……!」

「どうみても泣いてるよ。 何かあったの?」


 ちくしょう……ビッチなのに、ビッチなのになんなんだこの包容力は!!
 劣等感バチバチなのに心が癒されるじゃねーかあああああ!!!

 こんな将来有望な女の子が若いうちに道を踏み外してはいけない。 ここはオレがなんとか正してあげないと……!


「お姉ちゃん」


 オレはまっすぐ優香を見上げる。


「なに?」

「あの落としてた四角い袋……オレに頂戴」

「ーー……え? えええええええええ!?!?!?!?」


 優香が驚きのあまり立ち上がると、一歩下がってオレから距離をとる。


「な、なんで!?」

「なんか分かんないけど頂戴!」

「いやいやダイキにはまだ早……!」

「お姉ちゃんたくさん持ってるんでしょ! だったら一個くらい頂戴よ!」

「持ってないよ! だってあれ、保健の授業で配られただけなんだからああ!!」


 優香がより顔を赤らめながら叫ぶ。


「ーー……え? 保健の授業?」

「そうだよ!! でも貰った手前どうすればいいのかお姉ちゃんも分かんないの!!」


 あー、確かに高校生あたりでもそういう授業があったような気もするぞ。

 てことは優香は完全な白?

 そうわかった途端に優香の姿がより一層眩しく光り、安心して一気に冷静になったからなのだろう……オレは自分がとんでもない会話をJKとしていることに改めて気づく。


「黙っちゃってどうしたのダイキ?」

「いや、ごめんなさい。 寝ます」

「ダイキ?」
 
「おやすみなさい」

「え? うん、おやすみ」


 オレは急いで自室に戻ると扉を勢いよく閉めた。


「ーー……っはあ!! やべぇ、あのままあそこにいたらやばかった!!」


 オレはベッドに腰掛けながら深呼吸をする。

 じゃあなんだ? オレは尋問しようとしていたつもりだったのに、実際はただただ未経験の純白の女の子に言葉でセクハラしてただけじゃねーか!!


 まさかJKにセクハラする日が来るなんて。


 あの時優香はオレの質問を聞いて何を想像していたのだろうか……オレはニヤケながら布団に潜り込んで妄想を開始。
 一晩中布団の中で「あー! たまらん!!」と叫んでいたのだった。
 
 
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