国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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緑への回帰

応援演説会

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「……陛下は、本当に総理大臣になりたくないんでしょうか?」

 不機嫌極まりない態度を崩そうとしないセレンを見て、カンナがぽつりと呟いた。

「陛下は本当は王宮での暮らしよりも庶民の……、額に汗して働くことの方に興味があるお方なんだよ。農業や私らの生活を支える仕事に対して、誇りのある仕事だって仰って下さるような方だから」

「そうなんですね……。そのような国王だからこそ、僕……私ら貧しい平民にも、高校や大学に進学できるような制度を作ってくださったのですね」

 感慨深く納得するカンナに、ルウクも頷く。

「私は……、私はどのようなお気持ちで陛下が総理大臣と言うものを作ろうとなさっているのかは分かりませんが、私ら平民にとっては、やはりこの国の舵を取っていただきたいお方は陛下以外にはいらっしゃらないと思います」

「カンナ……」

 それはきっとカンナの嘘偽りのない気持ちなのだろう。そして、もしかしたらそれは、平民のほとんどの者が思う切なる願いなのかもしれなかった。


 王宮広場では、かなり熱のこもった応援演説会が行われていた。
 ナイキ侯爵の配下の者達の、貴族だけに限らないあらゆる層の国民たちへの広報活動が功を奏したのだろう。この広場に来れるであろう最大限の人数だと思われる多くの民で、王宮広場前は溢れかえっていた。

「――ご清聴ありがとうございました」

 今、二人目の演説が終わったところだ。他の者に推薦されたわけでは無く自ら立候補した者こそが意欲があり、優先的に発言されるべきだろうという観点から、立候補をしたカラリス・マーサ・ギンジョー男爵とコルトン・シンガル・マット・ザイアン伯爵が、先に聴衆に対して自らが考える政治姿勢を訴えた。

 もちろん彼ら2人にも彼らを支持し応援する者達がいるので、その代表となる各1名ずつが応援演説を行った。

「――それでは次は推薦者の代表としてナイキ侯爵ジョージ・ゴンズ殿に、セレン・スコット現国王の応援演説をお願いします」

 司会進行を務めているのはハイドだ。彼の呼びかけにナイキ侯爵が席を立ち、未だ渋り続けているセレンを促した。

「ご紹介に預かりましたナイキ侯爵ジョージ・ゴンズです。私はシエイ王の時代に宰相と言う任を賜り、それ以来王家との関りを持つ中で陛下を知る機会を得ました。陛下はお小さい頃から優秀で、シエイ王やシガ殿の教えを吸収し利発な青年へと成長しました」

 とくとくと話を続ける侯爵の横で、候補者として立たされているセレンの表情が微妙なものとなる。幼いころのことを誉めそやされても嬉しさなんてあるわけもない。羞恥心が募るだけだ。

「ですが私が陛下をこの国のトップとして君臨し続けて欲しいと思う理由には、陛下が優秀だと言う事実よりも、もっと別の理由があります。陛下の一番の興味であり大事にされていることは、この国の民の平和と繁栄です。そのためには何をすればいいのか、どうしたら人々が幸せに暮らせるのかと、そればかりを常に考え行動していらっしゃいます。現に誰も考え付かなかった教育改革を成し遂げました。それだけでもすごいことだと思うのですが、あろうことか陛下はこの国の最高位に立っておられながらもそれを惜しげもなく捨て去って、優秀で、なおかつ民に選ばれる人望のある者に譲渡しようとこの総理大臣と言う職を新設しました。しかもその権利を国民総てに与えられたのです。私はこれほど優秀で平等精神に溢れた方を陛下以外には知りません。どうか皆さん、この国の為に皆の幸福のためにも、是非とも投票日には陛下の名前を書いていただきたい。――ご清聴ありがとうございました」

 ナイキ侯爵が最後の言葉を締めくくった直後、割れんばかりの拍手喝さいが沸き起こる。凄い人数が詰めかけているにも関わらず、静かさを保っていた広場が一変して熱気に包まれた場に変化していた。
 その様子にナイキ侯爵とフリッツは笑みを深くし、バサム伯爵は只々その熱気に呆気にとられる。だが、逆にセレンだけは複雑な表情をしていた。

 応援演説は推薦者が何人いても代表者一人と決められていたので、次はセレンが名を呼ばれた。目をキラキラと輝かせながら己を見つめる国民らに、セレンはため息を一つ吐いて壇上に上がった。

「今日は各候補者の演説を聞きに来てくれて感謝する」

 国王としてまずは儀礼的な挨拶をしただけなのだが、聴衆からはもの凄い拍手が返ってくる。その過剰な反応を返す聴衆に、セレンは苦笑いを零した。

「……まず、この総理大臣と言う新しい職を作った経緯を説明させて欲しい。今までは、この国のトップであり舵を取って来たのはいわゆる世襲で決められた国王だった。国王が世襲で決まるのはまあ良しとしても、その国王が国のトップとして君臨し続けるのには大きな問題がある」

 セレンはそう言った後、フッと一つ息を吐いて聴衆を見渡した。みんな今回の、事実上の国の責任者を決める重大な権利を与えられたことに、興味津々な様子で真剣な顔でセレンの言葉に聞き入っているようだった。

「――例えば、国王となったものが、政治に興味のない目先の快楽に溺れるような者だったら? 大事な民から徴収した税金を、ギャンブルや豪遊に使ってしまうような人物だったら……? ――今までのこの国の制度では、それでも世襲でこの国のトップと決まった者を国王の座から引きずり下ろすことは出来ない事になっている。だから本気でその国王の座を退いて欲しいと思うのなら、物騒な話、暗殺しか手が無いのだ」

 それこそ物騒な説明をするセレンに、広場は水を打ったような静けさになる。そんな聴衆を静かに見渡した後、さらにセレンは言葉を続けた。

「私の本心としては、今回のこの選挙に私は立候補するべきでは無いと思っていてる。だが一方で、これは公平に進められなければならない選挙だということも理解している。優秀で政治経験のある者ならば誰でもが立候補すべき物でなければならない。今回は他薦と言う形でここに居るお三方が私を押してくれたので参加しているが、みんな私に遠慮することは無い。私は国王だがこの場では皆と平等な立場でいる。他の候補者の演説も吟味して、自分が本当に推したいと思える人物は誰なのかをしっかりと考えて投票してほしい。――私からの言葉は以上だ。ご清聴、感謝する」
 
セレンが演説を終えた後、皆が一斉に拍手を送る。だが先ほどのナイキ侯爵の演説を聞き終えた時のような高揚感は少なく、特に男性は表情を引き締め真面目な顔をしている者が多かった。

「確かになー、みんな色々と俺の理想とあってるところや違うところがあるからな」
「でも、さすが陛下だよな。仰ることが俺らとは違うわ。あの方なら、俺としては今までと一緒で安心なんだがな」
「ああ~、それにしても陛下ってホント素敵よね~。行動力もあるし、高尚で顔も綺麗で……!」
「お前なあ……」
「分かるわ、分かる! 私も陛下ぐらい素敵な方が傍に居たら、すぐにでも結婚するのに!」

 真面目に政治を論じる男性らの隣で、女性らが頬を染めてセレンを眺めている。
 少々ざわつき始めた広場に、ハイドが司会の進行をしようと声を発した。

「お静かに! それでは最後になります、アルギス在住、リンガルム・ラサン・コムナー殿です。推薦者はお二方で、アルギス領主のコットナー・マサリ・イデギナー侯爵とバンコック・ラス・ツッキー殿です。では、イデギナー侯爵、応援演説のほどよろしくお願いいたします」

 ハイドの言葉に呼ばれた3人が前に出てくる。広場はまた静かになり、次の候補者が何を話すのかと注目した。
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