国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

文字の大きさ
61 / 83
様々な問題

ギルリスタムの資料

しおりを挟む
 備蓄庫へ行き、いつもの茶葉を受け取って執務室へと戻った。ケリーは執務室のドアの傍で待機して、入って来ようとはしない。
 執務室ではルウクが戻って来たことでお茶の時間を期待してか、セレンが伸びをして持っていたペンを置いた。

「あの、陛下」
「んー?」
「実は先ほどケリー見習士官に教えていただいたんですが、ギルリスタム地域の資料が公安にあるようなんです」
「公安? 地域公安部のことか?」
「そうです」
「そうか……、そんな所にあるとは考えもしなかったな」

「はい……。それで、今そのケリー見習士官に来てもらっているんですが、一緒にお茶をいただいてもらって、それから公安部の部隊長に取り次いでもらって来てもよろしいですか?」

「ああ。もちろんだ。呼んできてくれ」
「畏まりました」

 ルウクはドアを開けて、そこに待機しているケリーに声をかけた。

「ケリーさん、陛下が中に入るようにと仰っています」
「え? いや、俺はここでいいから。俺は単なる見習士官だし、ルウクを案内するだけだからここで待っているし……」
「それは困ります。ケリーさんを連れてくると明言してしまいましたから」

 ルウクの返答に、ケリーは頭を掻いた。

「……分かった。じゃあ、言葉に甘えて……」

 ケリーがそう返事をすると、ルウクはホッとしたように笑顔になる。扉を大きく開けて、ケリーを招き入れた。

「ケリー見習士官、ルウクから聞いた。有益な情報を感謝する」
「恐縮です」

 軍人らしく礼儀正しく一礼するケリーに、セレンは軽く笑って座るようにと促した。勧められるまま応接セットのソファーに腰掛けようとして、ケリーはクラウンと目が合った。見覚えのある上官の姿に、思わずビシッと敬礼する。

「クラウン大尉。お久しぶりでございます」

 縦社会の厳しい軍に属するケリーにとって、この反射的な行動は身に沁みついた習性のようなものだ。クラウン自身も軍隊に居たときはそうだったなと思い起こし、少し懐かしい気持ちでケリーを笑って手で制した。

「いや、俺は退役したからもう大尉ではない。元気に頑張っているようだな」
「はい!」
「クラウン、お前もここに来て茶を飲め。ルウク、すまないが頼むな」
「はい、畏まりました」

 ギルリスタム地域の件に関しては、まだまだ資料の確保に時間がかかると皆がそう思っていたのだ。それがもしかしたら今日中にでも解決できそうな目途が立ち、セレンの表情も、ここ最近の疲れを吹き飛ばすかのように明るくなっていた。

「どうぞ」

 皆に紅茶を配り、秘書室へも足を向けてシガ達にも運んで行った。そして同じようにギルリスタム地域の資料を探しているハイドに、これから公安部に行き資料を手に入れてくると伝えた。

「うっわ。凄いな、軍での訓練が功を奏したな」
「はい」

 良かったーと、晴れ晴れとした顔でハイドは資料を閉じる。そして美味しそうに紅茶を啜った。シガも良くやったと親指を立てて見せた。

 ルウクは執務室に戻り、皆と一緒にお茶を楽しんだ後、ケリーと共に地域公安部へと向かった。

「失礼いたします」

 地域公安部に向かい部隊長に許可を得て、資料室長のグラッシーを訪ねる。

「やあ、ケリー。久しぶりだな、パイロン大尉から訓練に励んでいると聞いているぞ」
「……恐れ入ります」
「うん? この坊やは?」

 ケリーの後ろで控えているルウクを見て、グラッシーが首を傾げる。軍のことは大体把握しているつもりだったが、ルウクのことは見たことが無かった。

「失礼いたしました。私は、国王の第一秘書を任されているルウク・ターナーと申します」

 ペコリと一礼するルウクに、グラッシーは目を瞬いた。色々な噂は聞いていたが、実際の人物を目にするのは初めてだった。

「失礼いたした。私は地域公安部資料室長のトーマ・グラッシーだ。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 一通りの挨拶が終わったのを見て取って、ケリーが口を挟む。

「室長。陛下が、ギルリスタム地域の資料をお借りしたいそうなんです」
「ギルリスタム?」

 怪訝な表情をするグラッシーに、ルウクが領地争いになっていることを手短に説明した。

「……なるほど、それは驚きだな。まさかあの地に金が埋まっているとはな……。ちょっと待っていなさい」

 そう言い残してグラッシーは資料が埋まっている本棚の奥へと入って行き、すぐに戻って来た。手には、その資料だろう。かなりの古さを物語る、黄ばんだ分厚いファイルがあった。

 グラッシーは、青い付箋が貼られている箇所を開いてルウクに見せる。そこには、皆が一生懸命探していたギルリスタムの名前が記されていた。

 ルウクはグラッシーとケリーに深々と頭を下げて礼を言い、執務室へと急いだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク 両親は村を守る為に死んでしまった 一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。 神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。  そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...