国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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様々な問題

ギルリスタムの資料2

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「これがギルリスタムの資料か」

 セレンの机の上に、先ほど借りてきた資料を広げる。クラウンはもちろんのこと、シガやハイドも秘書室から出て来て、興味津々にその資料を覗き込んだ。

 そこには公安部では有名な地域だと言っていた理由がしっかりと書かれていた。

 それは今から126年前に起きた事件だった。ギルリスタムの隣の村サマスンで、常軌を逸したカルト集団、バナナン改革隊がテロ行為を行ったのだ。

 バナナン改革隊はソルダン王国を批判し、その打倒を掲げていた。もちろん国王側もその存在を確認し警戒もしていた。だが本当の意味で、そのカルト集団の行動を予測できてはいなかったのだ。

 そして事は起こった。カルト集団バナナン改革隊が刃物を振りかざし銃を撃ち、多くの人々を殺めたのだ。

 最初にサマスンの小領主、ドヌーブ男爵を暗殺。その後商家を初め、何件もの一般の民家に強盗に入り金目の物を盗んでは家人を殺し、挙句の果てには火を放ち家屋を焼失させたりと、周りの人々を恐怖に陥れていた。

 集団を率いていた男の名は、アレム・ハイリンガム。この男は残虐な性格も甚だしかったが、カリスマ性はあったらしい。それほど大きな集団では無かったが、アレムに対する忠誠心は固いものだったようだ。

 アレムは狡猾で機転も利いたため、追う自警団や衛兵らの裏を掻き、一団を率いてほとんど開発がなされていない山深いギルリスタムに逃げ延びた。だが、それもそこで終息を迎えることになる。

 必死でバナナン改革隊を捕えようという自警団や衛兵らの執念に押され、一週間近く続いた死闘の結果、バナナン改革隊は自警団らに確保される事となる。

 そしてアレム・ハイリンガムは公衆の面前で死刑に処せられた。

 この事件はソルダン王国に大きな教訓を与えた。当時のソルダン王国は治安も良く、そんな残忍な事件は初めてのことだったため、そう言う事を想定したマニュアルや訓練は一切なされていなかった。だがその事件を契機に、色々な事を見直すきっかけになった。

 地域公安部が出来たのは、それから一年後の事であった。

「なるほどね……」

 資料を読み進める内に、アレム・ハイリンガムの処刑を認めるサインが入っていた。

「我が領地、サマスン、ギルリスタムで起きたテロ行為を起こした首謀者、アレム・ハイリンガムの絞首刑を認める。マルタス領主、ハーマード・レオン・ムサン侯爵! やったな、でかしたぞ、ルウク!」

 セレンが嬉しそうに顔を上げて、叫ぶ。

「いえ、これを知らせてくれたのは、ケリーさんです。僕は何も……」
「謙遜するな。これもお前の人徳だろう。軍で頑張っていた姿を見ていたから、ケリーも声を掛けてくれたんだろうから」
「あ、ありがとうございます。恐縮です」

 ペコリと頭を下げるルウクに、セレンは微笑んだ。

「さてと。では、早速この件を片付けてしまおうか。……シガに行ってもらいたいところだが、今は教育改革の案件で手一杯だろうから……。公安の方から誰か行ってもらうかな。ギルリスタムに関しては、私らよりも遥かに詳しいらしいし」

「そうですな。そうして戴ければこちらも助かります」

「分かった。クラウン、軍のことはお前の方が話も早いだろう。地域公安部に行って事情を話し、ギルリスタムの領地問題を解決するために派遣する人員を選んでもらってくれ」

「畏まりました」

 クラウンは一礼して執務室を出て行った。それと同時にシガやハイドは、仕事に戻るため秘書室へと戻って行く。セレンも、予算を通すための資料作りにと意識を戻していった。

「図書館に資料を戻して参ります」
「ああ、頼む」

 セレンの頭の中は既に教育改革の案件でいっぱいになっているようだ。視線はそのままに、手を動かしながらの返事であった。

 (僕もさっさと戻ってきて、セレン様の負担を減らさなくちゃ)

 ルウクは忙しない主を横目に、借りっぱなしになっている資料を図書館に戻すため、それをカートへと積み込み図書館へと急いだ。
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