国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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シザク王の死

初めての出張3

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 翌朝、食事を済ませた後、会議で使う資料を手にルウクはセレンの部屋を訪れた。

「まだ少し時間があるよな。……ルウクの淹れた紅茶が飲みたいな……」
「畏まりました! ティーポットや茶葉はどこにしまってあるのですか?」
「いや、すまん。冗談だ。この部屋にはそんなものは置いてない。メイドに頼めば届けてくれるらしいのだが……」
「ああ、そうなんですね。じゃあ、僕らの部屋から持ってきます。カップは……、あるようですね」
「え? なんだ、お前たちの部屋には置いてあるのか?」
「はい。僕らの部屋は主のお供が泊まる部屋なんでしょう。それなりの物が準備されてあります」

 ちょっと待っててくださいと言いおいて、ルウクは割り当てられた部屋へと戻り道具を持って戻ってきた。

「すぐお淹れします」

 ルウクは手早く準備して、セレンの前に差し出した。

「僕も一緒に良いですか?」
「もちろんだ」

 セレンはテーブルの上の資料を片付け、ルウクにも座るように促した。

「昨夜はよく眠れたか?」
「はい、おかげさまで。……セレン様は?」

「私もだ。久しぶりの長旅で疲れていたのかもしれいな。だがおかげで今日は頭もスッキリしているから、却って良かったのかもしれないが」

 そう言ってルウクの淹れた紅茶の香りを嗅ぎ、目を伏せてカップに口を付けた。

「……美味いな」
「ありがとうございます」

 ルウクも自分の淹れた紅茶を一口飲み、ホッと一息吐く。そして、マルコたちと一緒にいるよりもリラックスしている自分に心の中で苦笑した。

「どうした?」
「あ、やっ…。な、何でもないです!」

 慌てて真っ赤になる従者に一瞬目を丸くしたセレンだったが、「変な奴」と一言呟いておかしそうに笑った。

 ルウクはまるでいつものセレンの部屋にいるような雰囲気に、ついついリラックスモードに入り始めてしまう。セレンもそれを良しとしているようで、他愛のない話をし始めた。だが、その時間もあっという間に終わりを告げる。会議まではまだまだ時間があるはずなのに、誰かがドアをノックした。

「はい」

 セレンの代わりにルウクがドアを開けると、そこにはナイキ侯爵が立っていた。

「なんだ、ルウクも来ていたのか。セレン様は?」
「はい、いらっしゃいます。セレン様、ナイキ侯爵がいらっしゃいました」
「早いな。入れてくれ」

 セレンの返事に、ナイキ侯爵が資料を片手に足早に部屋に入る。

「おはようございます。配下の者から報告がありました。カチューン国から無事に身代金が届いて、今日にでも王妃らは解放されるそうです」

「そうか。相変わらず仕事が早いな。……一体侯爵はどこにどれだけの部下を潜伏させているのだ? 私らの知らない事も多々あるのではないのか?」

「まあ、それは……。前王はすべて知っておりましたけどね。ただ、知らなくても良いことは常にあるものですよ」

 そう言ってナイキ侯爵は薄っすらと笑った。どうやら今のところ、彼はセレンに全てを説明する気はないようだ。もしかしたら前王に密命でも受けていたのかもしれない。そしてそれは、綺麗な仕事とは言えない事も含まれているのかもしれなかった。

 セレンはそれにさほど驚く素振りも見せなかった。「そうか」とだけ呟いて、カップに残っていた紅茶を飲み干す。そして、脇に除けていた資料を手に取りおもむろに立ち上がった。

「そろそろ行くか。……侯爵の部下はどうしているのだ?」
「マルコたちなら、先に会議場に行っているはずです」
「あっ……! もしかして、何かお手伝いすべきことがありましたでしょうか?」

 ナイキ侯爵の言葉にルウクは慌てふためいた。どう考えても彼らよりも下っ端の人間が、ここで主とのんびりしているのはおかしな話だ。今からダッシュで行っても間に合うだろうかと、ルウクは焦りだした。

「ああ、いやいや。そういう訳ではないから安心しなさい。準備はサントー伯爵の方でされることになっている。ただ時間までには着いているようにと指示しておいたから、することがなければ議場に向かっているだろうと思っただけだ」

「そ……、そうなんですか。あの、セレン様……、僕は先に行った方が良いと思いますか?」

 心細げに己を見つめる忠義な従者は、まるで困った子犬のようだ。セレンはクスリと笑って、「ほら」と、バツアーヌの資料をルウクに差し出した。そのセレンの行為に、ルウクは同行の許可を与えられたことを理解して、嬉しそうな顔で資料を預かった。

 時間前に会議場に到着した一行だったが、すでにみんな席に着いていた。ルウクはセレンが席に着いた際に資料を渡し、円卓から離れた個所に設けられているテーブルへと向かった。

「遅くなりまして、すみません」

 こそっと、隣のダンジーに詫びを入れるが、ダンジーは笑って「気にするな」と返事をした。そして壁に掛けてある時計を指さした。確かに、会議が始まる時間までにはまだ十五分程ある。ほかに目をやれば、ルーファス側の面々も資料を片手に内容を詰めているようにも見える。彼らの方も、国からの援助を得る絶好のチャンスを生かそうと必死なのだろう。

 もう五分もすれば会議を始める時間になるという所で、サントー伯爵が立ち上がった。

「時間より少し早いですが、皆様もご集まりですので早速会議に入らせていただきたいと思います。まずはお手元にあります資料をご覧ください。各々のバツアーヌの埋蔵量と採掘の難易度も併せて提示しています。詳細は、ここにいる技術主任のスーキズが説明します」

 サントー伯爵に紹介されたスーキズが一度立ち上がりペコリと挨拶をした後、バツアーヌに関する様々なことを説明していった。
 バツアーヌがいかに優秀な熱源となり得るのか、そしてコストパフォーマンスがいかに優れているのかも分かり易く説明していく。

 何よりルウクが凄いと思ったのは、バツアーヌの開発次第ではそれ自身をさらに増幅させ、埋蔵量以上の量を資源として使える可能性があるという事だ。それにはセレンも感心したように頷いていたが、隣のナイキ侯爵も熱心に聞き入って、何やら色々とメモを取っているようだった。

 その後は技術レベルの話に入り専門用語が多くなり、聞いているルウクにはチンプンカンプンだった。だが、分からないからと言ってポカンと過ごすわけにはいかないので、ルウクは分からないなりに一生懸命、後に役に立つかもしれないと一生懸命ペンを走らせた。
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