「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

文字の大きさ
19 / 41
第二章

6.

しおりを挟む

 空手の練習と、悠斗と会う事で、春休みが過ぎていく。


 桜のつぼみが開かない事が、オレと悠斗の気がかりの一つで。

 明日は開くかとか言い続けて、日々、 花は咲かずに過ぎて行った。


 春休みも明日一日を残すとなった日の夕方も悠斗と話してから家に帰り、部屋のベッドで寝転がっていた。

 特に何を考えるともないのだけれど、何だかすごく。
 心がモヤモヤするというか。落ち着かない。


「伊織ー」

 父さんの声が台所の方から聞こえる。

「んー?」
「ごめん、手伝ってくれるー?」
「今行く」

 そう返事をして、台所に向かう。
 父さんが忙しそうに、夕飯の準備をしていた。


「仕事がものすごく長引いちゃってさ、夕飯遅くなっちゃいそうだから、手伝って? あ、大きいお皿を出してくれる?」

 言われるまま皿を出しながら。

「……長引いたそれって、除霊の仕事?」

 そう聞くと、「そうだよ」と返ってきた。
 大体、予定外に長引く時は、そういう時が多い。
 
「……どんな?」
「恨みの念が強い霊でね。ちょっと大変だったかなー」
「……ふうんそっか……じいちゃんは?」
「疲れて、今、お風呂」

 今日は二人で行ったのに、そんなに長引いたのか。


「そっか。ほんとお疲れ。……なー、父さん」
「ん?」

「すっげー穏やかな、変な霊が、居るんだけど……」

 不意に父さんが、オレをまっすぐに見つめた。

「……伊織、また憑かれてる?」

「あ、いや。――――……憑かれてはないかな。そいつは他に思いがあるから、別にオレには、憑いてない」

「そっか。まあ確かに連れて帰ってはきてないしね。……んー。害の無い霊もいるけど……やっぱり、生きてる人間とは違うからね。気を付けて」

 ――――……気を付けるとか。そんな必要なんか、全然無さそうな存在な気がするけど、あいつ。


「――――……公園の、桜の樹の下の、あいつなんだけどさ」
「……ああ、あの子か」

「……自然と、消えるまで、居ても平気かな?」

 オレの問いに、父さんは、一度手を止めた。

「ん。父さんも、今日見かけたけど。今の所は大丈夫だと思うよ」
「……そっか」

「でもあくまで霊だから。……人間とは違うから、それは覚えといて、気を付けておいて」
「分かったけど……何を気を付ける?」

「……霊と、見える能力のある人との間にね、波長みたいなのがあるんだよ。伊織とあの子が、すごく波長が合うってなると……」

「良い事だろ?」

「……波長が合いすぎると、逆に、何があるか分からないというか……」

 よく分からない。
 波長が合わないと、衝撃が生まれそうだけど――――……。

 合うと余計に?
 疑問に思いながら、質問を続ける。


「でもあいつ、全然。悪霊じゃないけど?」
「――――……それでも、危険な事もあるんだよ。とりあえず、なるべく、触れないようにして?」

「触った事はないけど」

「触れた時に――――……波長が合いすぎてると……」
「何があんの」

「――――……んー。まあ……それは、今はっきりとは言えないんだよね。正直、父さんでも、分からない部分多いし……」

「――――……」


 まあ。……大変だからこそ、除霊はいつも長引くんだろうけど。

 でも悠斗は、大丈夫そうだと。
 思ってしまうこれが、波長が合ってるという事なら。

 ……何か、危険なんだろうか。



「とりあえずさ、気を付けよう、とは思っといて? あと、距離は保って」


「ん。……分かった」



 頷いてその話を切り上げて、夕飯の支度を本格的に手伝い始めた。





しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

君の左目

便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。 純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。 それもまた運命の悪戯… 二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。 私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

カモフラージュの恋

湖月もか
恋愛
容姿端麗、文武両道、しかも性格までよし。まるで少女漫画の王子様のような幼馴染な彼。 当たり前だが、彼は今年も囲まれている。 そんな集団を早く終わらないかなと、影から見ている私の話。 ※あさぎかな様に素敵な表紙を作成していただきました!

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...