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第二章
5.
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春休み。
空手に通う朝夕と、昼を家で食べに帰る時もあるからそういう時は昼も。
たまに居ない時はあるけど、大体悠斗は桜の樹の下に居る。
ここに寄るのも、何日目だろう。
なんだかものすごく、仲良くなってる気がする。
――――……悠斗が、人懐っこいというか。そういう奴だからだと思う。
で。何だか、同情してしまっているオレが居て、とても無視できないのもある。
あとは……なんだかほんとに、良い奴な気がして。
生きてる時に会いたかったな、なんて、よぎったりもした。
「朝居なかったけど……お前、オレと居ない時、何してんの?」
悠斗にそう聞いてみる。
「……何もしてないかなあ。ここで、ここに来る子供達を見ながら。心春のこと、考えてるだけ。なんかたまに、ふっと気が遠くなってる時があるけど。……なんか幽霊の時間ってさ、あっという間なんだよ。あんまり退屈とかもないし。――――……ここから動ければ、もっと楽しいかもね。……って、楽しいっていうのも変だけど」
悠斗の言葉に、そっか、と呟きながら。
桜の樹に寄りかかると。隣に同じように立つ悠斗。
「なあ、伊織は、好きな子居る?」
「いや?」
「……モテそうなのにね」
「――――……モテるけどな」
「ちょっとは否定したら?」
悠斗はクスクス笑って、オレを見る。
幽霊と、笑いながら、話すとか。
――――……ほんと、おかしい。
お前もモテそうだけど、と言いかけて、何だか複雑で口を閉じる。
「……もし、伊織にさ、好きな子できたら」
「――――……」
「即、告白するのをおススメするよ」
悠斗の苦笑交じりの言葉に、ちら、と悠斗を見て。
「……ちょっと、重すぎる。そのおススメ」
言うと、悠斗は、あは、と笑った。
「……ほんと、オレ、何で言わなかったんだろ……あんなにいつもずっと側に居たのにさ。――――……いつでも言えると、思い込んでた」
「――――……そういうもんだろ」
「……そうだよね。誰も思わないよね。あのタイミングで、とかさ」
ふー、と息を吐いたまま、悠斗が黙る。
いたたまれなくなって。
「……オレが、言ってやろうか?」
「え?」
「お前が生きてる間に、オレが聞いてたって事にして」
「――――……うーん……」
「霊から聞いた」じゃ、怪しまれるのがオチだけど。
生前に聞いてたって、それならいいんじゃねえかな?
「伝えられたら、お前が思い残すこと、なくなるか?」
「……そう、かもしれないけど……無理かもなぁ」
ふ、と悠斗が苦笑い。
「無理って?」
「……伊織みたいなのがオレの友達なんて、心春が信じないと思うんだよね……」
クスクス笑う、失礼な幽霊。
確かに。一理ある気がする。が。
「つか、お前、失礼だな」
「だから生きてたら、言ってないって。完全に避けてると思う、伊織の事」
ますますおかしそうに笑う悠斗。
「――――……」
何でオレ幽霊にディスられてんの。
むむ、と口を閉ざしていると。
「――――……伊織に会ってすぐさ、不良なのか聞いたじゃん?」
「……ああ」
「あの時、さ、悪い事はしてないとか言ってたけど――――……。空手強くて、そんな茶髪で見た目ちょっと怖いしさ。普通の子からは怖がられるし、怖い人には目をつけられるし。大変じゃない?」
「別に。今までずっとそうだしな」
「……それで良いなら良いけど。オレとこんな風に話してくれるとこ見ると、本当は優しいんだからさ。もう少し、笑顔とか話し方とか、少しだけで良いから、変えてみたら?」
……幽霊に、思い切り、注意された……。
「……お前は、オレのじーちゃんか……」
「おじいさんにも言われてるの?」
悠斗は面白そうにクスクス笑っている。
「ん。まあ……とりあえず聞いとくわ」
「ん」
「――――……また明日寄る」
「うん。――――……またね、伊織」
ふと笑って、手を振ってる。
――――…… ほんと。変な幽霊……。
つか。――――……オレもおかしいか。
毎日、通ってるとか。じいちゃんに言ったら、絶対、文句言われるな。
空手に通う朝夕と、昼を家で食べに帰る時もあるからそういう時は昼も。
たまに居ない時はあるけど、大体悠斗は桜の樹の下に居る。
ここに寄るのも、何日目だろう。
なんだかものすごく、仲良くなってる気がする。
――――……悠斗が、人懐っこいというか。そういう奴だからだと思う。
で。何だか、同情してしまっているオレが居て、とても無視できないのもある。
あとは……なんだかほんとに、良い奴な気がして。
生きてる時に会いたかったな、なんて、よぎったりもした。
「朝居なかったけど……お前、オレと居ない時、何してんの?」
悠斗にそう聞いてみる。
「……何もしてないかなあ。ここで、ここに来る子供達を見ながら。心春のこと、考えてるだけ。なんかたまに、ふっと気が遠くなってる時があるけど。……なんか幽霊の時間ってさ、あっという間なんだよ。あんまり退屈とかもないし。――――……ここから動ければ、もっと楽しいかもね。……って、楽しいっていうのも変だけど」
悠斗の言葉に、そっか、と呟きながら。
桜の樹に寄りかかると。隣に同じように立つ悠斗。
「なあ、伊織は、好きな子居る?」
「いや?」
「……モテそうなのにね」
「――――……モテるけどな」
「ちょっとは否定したら?」
悠斗はクスクス笑って、オレを見る。
幽霊と、笑いながら、話すとか。
――――……ほんと、おかしい。
お前もモテそうだけど、と言いかけて、何だか複雑で口を閉じる。
「……もし、伊織にさ、好きな子できたら」
「――――……」
「即、告白するのをおススメするよ」
悠斗の苦笑交じりの言葉に、ちら、と悠斗を見て。
「……ちょっと、重すぎる。そのおススメ」
言うと、悠斗は、あは、と笑った。
「……ほんと、オレ、何で言わなかったんだろ……あんなにいつもずっと側に居たのにさ。――――……いつでも言えると、思い込んでた」
「――――……そういうもんだろ」
「……そうだよね。誰も思わないよね。あのタイミングで、とかさ」
ふー、と息を吐いたまま、悠斗が黙る。
いたたまれなくなって。
「……オレが、言ってやろうか?」
「え?」
「お前が生きてる間に、オレが聞いてたって事にして」
「――――……うーん……」
「霊から聞いた」じゃ、怪しまれるのがオチだけど。
生前に聞いてたって、それならいいんじゃねえかな?
「伝えられたら、お前が思い残すこと、なくなるか?」
「……そう、かもしれないけど……無理かもなぁ」
ふ、と悠斗が苦笑い。
「無理って?」
「……伊織みたいなのがオレの友達なんて、心春が信じないと思うんだよね……」
クスクス笑う、失礼な幽霊。
確かに。一理ある気がする。が。
「つか、お前、失礼だな」
「だから生きてたら、言ってないって。完全に避けてると思う、伊織の事」
ますますおかしそうに笑う悠斗。
「――――……」
何でオレ幽霊にディスられてんの。
むむ、と口を閉ざしていると。
「――――……伊織に会ってすぐさ、不良なのか聞いたじゃん?」
「……ああ」
「あの時、さ、悪い事はしてないとか言ってたけど――――……。空手強くて、そんな茶髪で見た目ちょっと怖いしさ。普通の子からは怖がられるし、怖い人には目をつけられるし。大変じゃない?」
「別に。今までずっとそうだしな」
「……それで良いなら良いけど。オレとこんな風に話してくれるとこ見ると、本当は優しいんだからさ。もう少し、笑顔とか話し方とか、少しだけで良いから、変えてみたら?」
……幽霊に、思い切り、注意された……。
「……お前は、オレのじーちゃんか……」
「おじいさんにも言われてるの?」
悠斗は面白そうにクスクス笑っている。
「ん。まあ……とりあえず聞いとくわ」
「ん」
「――――……また明日寄る」
「うん。――――……またね、伊織」
ふと笑って、手を振ってる。
――――…… ほんと。変な幽霊……。
つか。――――……オレもおかしいか。
毎日、通ってるとか。じいちゃんに言ったら、絶対、文句言われるな。
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