「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第一章

12.

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 入学式が終わったら、もう今日は下校。彩と途中まで一緒に帰ってきて、私は公園に寄ると、咲いてない桜の樹の下に立った。


「……入学式、行ってきたよ」

 桜になのか。悠斗になのか。
 分からないけど。

 つい、声に出して、言っていた。


「悠斗、ほんとはね、同じクラスだったんだって。私達。彩も一緒だったんだよ」

 ふ、と微笑んで。樹に触れてから。くるりと反転して、背を樹に凭れさせた。

 ――――……何年もここで、寄りかかって。
 悠斗と、話したなあ……もう、二度と。話せないんだな。

 喉の奥が、痛くなって。目頭が、熱くなる。
 毎年撮ってた写真も。撮れない。ああでも。今年は、この樹、咲いてないから、この樹の下では、撮れなかったんだ。

 何だか不思議な気持ちで、上を見上げる。

 つぼみがこんなにあって。咲かないなんて。ほんとに、おかしい。
 昨日から、何回も、思う。悠斗が居ないからじゃないかって。
 桜って。不思議な力が、ありそうだもんね……。桜の樹の精とか居るんじゃないのかしら。

 悠斗の死を悲しんでるなら。お友達になりたい位。

 そんな、不思議なことを少し本気で考えながら。
 ああ、私、ちょっと病んでるのかなあ、なんて思ったりして。


 ぽつ、と零れ落ちた涙に気付いて、そっと、涙を拭ったその時。
 風が、急に強くなった。

 
「――――……また泣いてンのか」

 呆れたような、そんな声がして。
 もう、声で、分かっていたけど。声の方を見て、確認して、ため息を付きそうになる。

 ……この人、どうして、ここに来るんだろう。


「……今日……びっくり、した」
「え? ああ。学校か?」

 彼は、苦笑いしながら、聞き返してきた。


「……うん。年上だと、思ったから」

 昨日あんなに得体のしれない怖い「不良さん」だったけど。
 同級生となると、少し、見方が変わるみたいで。

 怖い、という気持ちは、ちょっと引いていた。
 それでも噂の、喧嘩してたとか。そういうのは少し、頭をよぎるけど。
 

「オレは昨日制服見たから。もしかしたら会うかとは思ってた」
「――――……」

 やっぱり話してる内容は、そこまで荒々しくはない気がする。
 

「同じクラスとは思わなかった。……つーか、お前、朝もあれ、泣くとこだったろ」
「――――……」


 号泣しそうな所。あなたのおかげで、びっくりしすぎて、泣き止みました……。
 と、ちょっと言葉は浮かんだけど、言わなかった。


「泣いてるの、良くないって、言ったろ」
「……どうして、そんなこと、言うの……?」

「どうしてって?」

「……神社の息子さん、だから?」
「……ああ。聞いたのか」


「…………私が泣いてたら……悠斗は、どうなるの?」
「――――……どうなるっつーか。一般論で言ってる。思い出すのはいいけど、悲しみすぎて、いつまでも泣きすぎるのは良くないってこと」

「…………」

 そっか。
 ……一般論。


 ……そうだよね。
 別に。悠斗が、私の涙で、引き留められてるとか。そう言ってる訳じゃないんだよね。……当たり前か……。


「わかった。……ありがとう」

 そう言って、とりあえず、家に帰ることにした。

 ……この人は、また、帰らなそうだし。

 ……この桜の樹が、好きなのかなあ。咲かないから、気になってるとか……?
 そんなタイプには見た目は、見えないんだけど。不思議……。


「じゃあ……帰ります」
「……ああ」


 短く挨拶して、もう一度樹を見上げてから、桜の樹の下を、離れた。




 ――――……なんか。あの人が、来る時って。
 昨日も今日も、強風。……風連れて現れてるみたい。

 ……変な人……。


 上宮伊織くん、だっけ。

 ――――……上宮神社は、ここから、徒歩10分。
 小さい頃から、夏祭りや秋祭り、初詣や節分、七五三もそこだった。ここらへんの人達は皆、多かれ少なかれ、お世話になってる、愛されてる神社、な気がする。

 悠斗と一緒に、よくお祭りいったなぁ。
 神主さんの顔は知ってる。おじいちゃんの神主さんも知ってるし。

 ……てことは、あの人もその内神主さんなのかな……。


 ……成仏、か。
 普通の人が言うよりも。――――……すごく。気になっちゃうかも……。


 ――――……て。言ってる場合じゃない。


 家に帰ってご飯を食べたら。着替えて。

 ――――……行ってみないと。



 昨日から考えていたこと。
 絶対実行しようと決意して。私は、家まで、足を速めた。





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