13 / 41
第一章
12.
しおりを挟む入学式が終わったら、もう今日は下校。彩と途中まで一緒に帰ってきて、私は公園に寄ると、咲いてない桜の樹の下に立った。
「……入学式、行ってきたよ」
桜になのか。悠斗になのか。
分からないけど。
つい、声に出して、言っていた。
「悠斗、ほんとはね、同じクラスだったんだって。私達。彩も一緒だったんだよ」
ふ、と微笑んで。樹に触れてから。くるりと反転して、背を樹に凭れさせた。
――――……何年もここで、寄りかかって。
悠斗と、話したなあ……もう、二度と。話せないんだな。
喉の奥が、痛くなって。目頭が、熱くなる。
毎年撮ってた写真も。撮れない。ああでも。今年は、この樹、咲いてないから、この樹の下では、撮れなかったんだ。
何だか不思議な気持ちで、上を見上げる。
つぼみがこんなにあって。咲かないなんて。ほんとに、おかしい。
昨日から、何回も、思う。悠斗が居ないからじゃないかって。
桜って。不思議な力が、ありそうだもんね……。桜の樹の精とか居るんじゃないのかしら。
悠斗の死を悲しんでるなら。お友達になりたい位。
そんな、不思議なことを少し本気で考えながら。
ああ、私、ちょっと病んでるのかなあ、なんて思ったりして。
ぽつ、と零れ落ちた涙に気付いて、そっと、涙を拭ったその時。
風が、急に強くなった。
「――――……また泣いてンのか」
呆れたような、そんな声がして。
もう、声で、分かっていたけど。声の方を見て、確認して、ため息を付きそうになる。
……この人、どうして、ここに来るんだろう。
「……今日……びっくり、した」
「え? ああ。学校か?」
彼は、苦笑いしながら、聞き返してきた。
「……うん。年上だと、思ったから」
昨日あんなに得体のしれない怖い「不良さん」だったけど。
同級生となると、少し、見方が変わるみたいで。
怖い、という気持ちは、ちょっと引いていた。
それでも噂の、喧嘩してたとか。そういうのは少し、頭をよぎるけど。
「オレは昨日制服見たから。もしかしたら会うかとは思ってた」
「――――……」
やっぱり話してる内容は、そこまで荒々しくはない気がする。
「同じクラスとは思わなかった。……つーか、お前、朝もあれ、泣くとこだったろ」
「――――……」
号泣しそうな所。あなたのおかげで、びっくりしすぎて、泣き止みました……。
と、ちょっと言葉は浮かんだけど、言わなかった。
「泣いてるの、良くないって、言ったろ」
「……どうして、そんなこと、言うの……?」
「どうしてって?」
「……神社の息子さん、だから?」
「……ああ。聞いたのか」
「…………私が泣いてたら……悠斗は、どうなるの?」
「――――……どうなるっつーか。一般論で言ってる。思い出すのはいいけど、悲しみすぎて、いつまでも泣きすぎるのは良くないってこと」
「…………」
そっか。
……一般論。
……そうだよね。
別に。悠斗が、私の涙で、引き留められてるとか。そう言ってる訳じゃないんだよね。……当たり前か……。
「わかった。……ありがとう」
そう言って、とりあえず、家に帰ることにした。
……この人は、また、帰らなそうだし。
……この桜の樹が、好きなのかなあ。咲かないから、気になってるとか……?
そんなタイプには見た目は、見えないんだけど。不思議……。
「じゃあ……帰ります」
「……ああ」
短く挨拶して、もう一度樹を見上げてから、桜の樹の下を、離れた。
――――……なんか。あの人が、来る時って。
昨日も今日も、強風。……風連れて現れてるみたい。
……変な人……。
上宮伊織くん、だっけ。
――――……上宮神社は、ここから、徒歩10分。
小さい頃から、夏祭りや秋祭り、初詣や節分、七五三もそこだった。ここらへんの人達は皆、多かれ少なかれ、お世話になってる、愛されてる神社、な気がする。
悠斗と一緒に、よくお祭りいったなぁ。
神主さんの顔は知ってる。おじいちゃんの神主さんも知ってるし。
……てことは、あの人もその内神主さんなのかな……。
……成仏、か。
普通の人が言うよりも。――――……すごく。気になっちゃうかも……。
――――……て。言ってる場合じゃない。
家に帰ってご飯を食べたら。着替えて。
――――……行ってみないと。
昨日から考えていたこと。
絶対実行しようと決意して。私は、家まで、足を速めた。
21
あなたにおすすめの小説
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
カモフラージュの恋
湖月もか
恋愛
容姿端麗、文武両道、しかも性格までよし。まるで少女漫画の王子様のような幼馴染な彼。
当たり前だが、彼は今年も囲まれている。
そんな集団を早く終わらないかなと、影から見ている私の話。
※あさぎかな様に素敵な表紙を作成していただきました!
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる