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第一章
11.
しおりを挟む学校につくと、昇降口の所の窓ガラスにクラス名簿の書かれた紙が掲示されていて、そこに人が集まっていた。彩と二人で確認しにいく。
「ぁ、心春、同じクラスだよ」
彩が笑顔で私にそう言った。
「ほんとに? よかった」
素直に、嬉しい。
他の人のことは知らないので、とりあえずもうその人だかりからは離れて、自分達のクラス、一年三組に彩と向かった。
校舎の二階。一年は五組まであるので、ちょうど真ん中。
クラスの前で、多分担任の先生だと思う、わりと若い男の先生が立っていた。
「先生の前で、名前を言ってー」
と呼び掛けている。
彩と二人で、先生の前に行って、自分たちの名前を伝えた。
すると、その先生は、手に持った二つの、「入学おめでとう」と書かれた花のバッジを私達に差し出しながら。
「あー…………二人は、相沢悠斗君と同じ中学ですよね?」
「あ。……はい」
思いがけない所で出てきた、悠斗の名前。彩が、固まってる私に視線を流しながら、頷いた。
「本当なら、彼も、このクラスでした。――――……本当に残念ですが……彼の分も、頑張って、生きましょうね。何か思うことがあったら、なんでも言って下さいね」
「はい。……ありがとうございます」
彩が、頷いてそう言って、私の腕を引いて、教室に引き入れてくれた。
「心春。……平気?」
……本当なら。同じクラスだったんだ。悠斗。
そうなんだ。
……聞きたかった、ような。
――――……聞きたくなかった、ような。
手の温度が。急速に冷えて。
なんだか、冷たい。ぎゅ、と手を握った。
多分。先生に、悪気とかは、ないんだと思う。
――――……悠斗が、私の、一番大切な人だったなんて、知るはずもないし。思いもしないんだろうな。
同じ中学の同級生が、亡くなって、心穏やかじゃないと思って。それできっと、今のセリフ。
「心春……?」
「うん。……だい、じょうぶ……」
彩の声に、そう答えたけど。
――――……同じクラスだったんだ。悠斗と。
ああ、やっぱり。聞きたくなかった、ような。
ほんとなら一緒のクラスで。
毎日、ずっと一緒に、過ごせたはずだったと。思ったら。
――――……ここに悠斗が居ないことを。
また、再確認させられたみたいで。
あ、ヤバい、泣いちゃいそう。――――……トイレ……。
思った瞬間。
目の前に。黒い影。
咄嗟に、涙目のまま、見上げた瞬間。
そこに立っていたのは。
「え」
「あ」
私の、え、と。
目の前の人の、あ、が。同時だった。
零れ落ちそうだった涙は。驚きのあまり。
……一気に、引いた。
「ふ、りょ――――……」
「不良さん」と、言いかけて、自分の口を、ぱっと塞いだ。
昨日公園で会った。よく分からないこと言ってた、変な、不良さん。
……昨日から、「不良さん」って私、呼んでるけど、それも変だし。
…………て。
何でここにって。
答えは一つしか、無い気がする。
この人。
おなじ年なの?
高校一年生?
大人っぽすぎて。
――――……絶対年上だと思ってた。
やっぱり、ここで見ても。
皆と同じ制服を着ていても、ものすごく目立つその人は。
「上宮 伊織」という名前で。
近所にある「上宮神社」の神主の息子だって。
中学の時も目立ってて、よく喧嘩したりで騒ぎを起こしていたと。
彩が誰かから聞いてきて。
やっぱり「不良」なのかなと思う反面。
神社の息子さん。
だから、あんなこと。言ったのかなとは、思った。
なんにしても、入学式の朝、ぼろ泣きするという、失態をおかさずに済んだのは。……驚きすぎて、涙が引いただけなんだけど。
でも。とりあえず、彼のおかげかなとも、思って。
……怖いけど。
……ていうか。この先、クラスで、どう関わっていくんだろう。
せめて違うクラスがよかったな……と思いながらも。
学校初日、入学式は、とりあえず、無事に、終わった。
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