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◆第二章
3.「暗示?」
しおりを挟むにしても。琥珀を見てる人たち、琥珀の正体知ったら、驚くだろうなぁ。
……オレもほんとはまだ、驚いたまま、頑張って理解してる、て感じだけど。
「千翠」
「ん?」
「ここ、人多いけど」
「うん」
「やっぱ、お前みたいな色の人間は居ないな」
「……そうなの? 何色だっけ?」
「ものすごいキラキラした緑」
て言われてもなあ。オレにはその緑は見えないわけだし。
「どこらへんが緑に見えるの?」
「オーラって、分かんないか?」
「……なんとなく。オレの周りに見えるってこと?」
「そう」
「ふうん……」
「まあ、お前、変わってはいるよな」
クスクス笑って、琥珀はオレを見る。
「こんな簡単に受け入れるしさ」
「……受け入れたっていうか。相当努力してだからね」
「多少、暗示を使うかって思ってたんだけどな」
「……は?」
なんですと?
「あまりに理解してもらえなくて無理だったら、ちょっと弄って、オレを受け入れやすい暗示でも使おうかなとは思ってたから」
「――――……そんなことできんの?」
「まあ、簡単なのなら。オレがずっと友達だった、とか、恋人だった、とかそういう暗示?」
「……オレに使った?」
「使う必要がなかったから使ってない。しかも暗示かけた相手に、暗示をかけたなんて、ばらさねえよ」
クスクス笑って言うけど。
「怖いー、暗示……なんでもできるの、獣人って……」
「んーまあ、オレは、出来ることが多い方かもな。そういうの使える魔力がないやつも、結構多い」
「なるほど……」
獣人じゃなくて、琥珀が怖いんだな。
気をつけよ。暗示。……ってどう気を付ければいいんだろ。しばらく気を付け方を考えた後。
オレは、諦めた。
「……あのさぁ、琥珀」
「ん?」
「オレにはさ、暗示ってのしないでね」
「……」
「しないで、話してよ?」
「――――……」
「こうなったら、見つかるまではちゃんと付き合うから。……でも、操られたりするなら、やだかんね」
気を付けることはできなそうなので、直で頼んでみることにして、そう言ってみたら。
「するつもりがあったら、言ってないって。そのまんまで面白いから、良い」
「……面白いって何」
「そのまんまの意味だけど」
むむむ。
面白いっていうけど。
こんなことあったら、大体皆、慌てるからね。
ほんと、昨日の、琥珀を拾うまでのオレからは、信じられない世界なんだからさ……。
そんな話をしながら、山のふもとについて、なだらかな坂を上り始める。
「千翠、向こうは?」
「あっちは公園。山に行くならここの階段を上るけど」
「ん」
一緒に階段を上り始める。
斜面を削って、丸太を差し込んで作ったみたいな、階段。結構急。
「お前……軟弱過ぎないか?」
オレがはあはあ言い出したら、琥珀が苦笑いで振り返る。
「……るさい、なあ……」
日頃の運動不足を呪いながら、階段を上っていると、琥珀が手を差し出してくる。
「ひっぱってやろうか?」
「…………」
とりあえず、手をのせてみると、グイ、と引かれる。
あ、ずいぶん楽ちん。
「楽?」
「うん、楽」
まあ誰かが見てたら手をつないでるとしか見えない姿だけど、でも、誰も居ないし。
よいしょと足に力を込める瞬間に、ふわ、と引かれる。
「楽ちん」
「あ、そ」
苦笑いの琥珀は、でも全然軽々と一歩先に行って、オレを引っ張る。
「はあ。ありがと」
頂上までついて、ふ、と息をつくと。
「ほんと、軟弱……」
ニヤニヤ笑う琥珀。うるさいな、と言いながら。
「それで? 見つかりそう?」
「多分、あの塔のあたり」
「塔?」
指さすところを見ると、城の跡地に建てられた、城型の資料館。
「あれが城だよ。ってか、正確には、お城の形で建てられた資料館だけど。昔の資料が見れる。……入ってみる?」
「あぁ」
二人で、歩き出しながら、琥珀を見上げる。
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