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◆第一章
18.「耳のシステム」
しおりを挟む食べ始めたら静かな琥珀を、オレは、少し覗き込むようにして、顔を見た。
「……あのさ。おいしい?」
「まあ。……食べれないこともないな」
「微っ妙な答えだね?」
笑ってしまうと、琥珀がサラダをフォークで刺す。
「この緑色の野菜が苦手」
「レタス? 嫌い?」
「向こうでは食べないな」
「オオカミって野菜食べないの? そういえば肉食だもんね?」
オレが言うと、琥珀はまた、嫌そうな顔をした。
「……だから、獣人だから。オオカミとはまた別物だって思えよ」
「……そっか」
「人間も、猿と人間で、分けて考えてるだろ?」
「……ああ、なるほど……」
それは分かりやすいかも。
「オレが今、純粋にオオカミだったら、こんなところに座ってないで、お前のこと、食べてるんじゃないか?」
うぅ。確かにそうか。
獣「人」だから、食べないのか。
「ねね、緑の野菜って、琥珀が嫌いなの? それとも、獣人が食べないの? 向こうにはサラダってないの?」
「……オレが嫌い」
その答えに、えっと眉を顰めてしまう。
「なんだよもう。じゃあせっかく作ったんだら、食べてよ?」
「…………」
我儘王子だなーもう。
なんか琥珀はムッとしてるけど、無理とは言わず、すごく嫌そうだけど少しずつ食べ始めてはくれるらしい。
「――――……?」
あれれ?
ふと気づいて、オレは琥珀の耳をじっと見つめる。
めちゃくちゃ嫌そうに口に入れる時。
普段はピンと立ってる耳が、ふにゃ、と寝る、みたい。
……んん?
ぴよ、と寝て、ぴくぴくしてるのを見ていたら。
何だか可愛くて、笑ってしまいそうになる。
本人は、オレの目の前で至って真剣なので、何とか堪えて、コーヒーのマグカップを口元に持ってきて、飲んでるふりで隠した。
「……」
何とか食べ終わったらしいけど、その後、水で流し込んでたりして。
飲み込み終えると、琥珀の耳は元通り、戻った。
――――……ぷぷ。そういうシステムなんだ。そか、嫌な時、畳まれるんだな。
……可愛い。
これは、面白いから言わないでおこう。
「どうしてもさ、嫌いなものは食べなくていいと思うけど……頂きますって食べ物に感謝してちゃんと食べますっていう挨拶だから。なるべく残さないようにしてくれたらいいんだけど」
「人間は、面倒なことをするんだな……」
「挨拶は大事だよねってこと……とくに日本人はそうなのかも」
海外には、いただきますとかの習慣はないって聞いたような。
食べましょう、とかそういう掛け声はあるところもあるらしいけど。
まあ、琥珀には言わなくてもいいや。
挨拶一緒にしてくれた方がいいし。
「これはなんだ?」
マグカップを持って、のぞき込む。
「コーヒーだよ?」
「――――……」
コーヒーは無いんだ、と思いながら見ていたら。ごく、と飲み込んだ琥珀の耳が。
また、へにゃっと下がった。
――――……あ、嫌いなのかな?
もうほんとは、すっごく笑ってしまいたいのだけれど。
これを言って、やらなくなってしまったらもったいないので、笑うのをこらえる。
「これも、美味いのか分からない」
あ、やっぱり。
……オレは琥珀と違って、心は読めないけど。
すごーくわかりやすい、可愛いとこを見つけてしまって、ちょっと、ほくほくしている。
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