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◆第一章
3.
しおりを挟む目の前に立った人は。オレより、かなり背が高くて。
――――……黒い髪、長くて……。意志の強そうな瞳は、黄色っぽくキラキラして見える。通った鼻筋に、凛々しい眉に……文句なしの、イケメン。だけど。
……え?? ちょっと、待って?
呆然としてるオレの前で、その人は、口を開いた。
「――――……食事」
「……えっ? あ、食、事……?」
今度はちゃんと、耳から聞こえてきた。口も動いてる。
「食事……あ、いや……え、でもちょっと、待って、誰の……?? え、犬は……??」
人間、あまりに驚くと、頭が働かなくなるらしい。でも。必死で、色々考えた。
玄関の鍵は絶対にかけた。窓も、帰った時、閉まってた。だって、さっきそこから犬が外を見てたし! カーテンも、なびいてなかったし!
それでその後、誰も入ってきていない。
今、絶対、どこも開いた音はしていない。
ていうか……そんな話じゃない。
今。目の前で。
どう考えても、目の前で。
さっき連れてきた犬が。この人に。変身した……。
……いや、そんなはずはない。
ある訳ないし……。
「――――……あの……さっきの犬……は?……」
ここに居たのは、犬だった。
なのに今、犬は消えて、人が立ってる。
……いや、違う。
人? ――――……人じゃない。
「…………」
喉が、ごく、と唾を飲み込む音を立てる。
だって、耳がはえてる。
上半身は裸で……下半身も、裸で……。
……尻尾が生えてるように見えるけど……なんか後ろで、揺れてるけど……。
おもちゃ……なの? 尻尾……どうなってんの……?
作り物かもと一瞬掠めるけれど、そんなことを後ろに回って確認する余裕なんかあるはずもなく。
怖くて、確認もできない。
だって。
飾りの耳と尻尾をつけた全裸の人が、オレの家に居るっていうのも怖いし!!
……でも。飾りじゃなかったら。
それは、本当に……意味が分からない。
どっちも怖くて、確かめられない。
なんかもう。泣きたい気持ちで、せめて犬の姿を見たくて、下に視線を向けて、見回す。
……さっきの犬……どこに行っちゃったんだよ……。
「事態は、理解できたか?」
凛とした声。低いけど、良く響く声。
――――……さっき、頭の中に聞こえた声と、同じだった。
「……で、きて……ない……犬、は…………」
目が逸らせず、見つめあったまま、首を振る。
すると、仕方ないなと言いながら、唇の端を上げて、少しだけ笑いながら、オレを見下ろした。
……背、高いな。百八十位はありそう……。
「さっきの犬とオレがイコールなのは、理解してるか?」
「……そう、なのかなと……でも意味が分からない……」
そう言うと、その耳と尻尾つきのイケメンは、ふ、と笑った。
「さっきのは、人間界で動くための犬型だ。今が獣人型。あとは、本来のオオカミ型と、完全な人型にもなれる」
「――――……」
本来のオオカミ型……てことは、オオカミなの? 犬じゃなくて。
とにかく、うん、と頷く。
早く話を進めて、全部をとりあえず聞いてみたかった。
「人間界に用があって、獣人の世界から来たんだが、その用が終わるまで、世話になる人間を探していた」
「――――…………」
獣人の世界……。
――――……漫画の世界だけでなくて、本当に、あるのか……?
……世話になる人間……。
世話になる????
何だかもう、全部夢かなと思いながら、目の前の耳と尻尾の生えたイケメンを見ていたら。……なんと。目の前で、一瞬で、さっきの犬に変化した。それから。どう見ても、オオカミにしか見えないという姿にも、変化。
「これで納得か?」
また、脳に直接聞こえるみたいな声がしている。
……さっきの男は、どこにも居なくて。
もう、ダメ押しみたいな変身だった。もう、認めるしかない。
辛うじて頷くと、再び、耳と尻尾の生えた、人間の姿になった。
「――――……納得したか?」
「……うん」
目の前で変身されたら、もう意味が分からなくても、頷くしかない。
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