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第4章「先生としてって言ったけど」
1.日常
しおりを挟む千里と話した翌朝、また集まった皆と朝食を食べて、それから河原に散歩に行ったり、お昼は庭でバーベキューをしたり。琉生とは、河原で話した後は、皆の前で普通に話すだけで、それ以上は話さなかった。
帰ってきたのはもうずいぶん遅い時間だったし、皆と駅で別れて、週が始まった。
新学期が始まって二週目が進んでいくと、提出する書類なども片付くし、クラス替えでふわふわしている雰囲気も大分落ち着いて、通常の学校生活になっていく。
頑張って覚えた生徒たちの名前も、呼んでいる内に自然と出るようになってきた。琉生ももう大体覚えたみたいで、名を呼びながら会話してるのを見かけるとすごいなぁと思ったりしつつ、先輩として指導しながら、今週もやっと金曜日。
部活の見学も始まったので放課後も結構忙しくて、瞬く間に過ぎた気分。
六時間目が終わって、部活に行く前の少しの時間。
私と琉生は、準備室で席に着いた。
「清水先生、これ、年間の計画表。最初に貰ったと思うけど、一応見えるとこに置いておいてください」
「あ、はい」
準備室で、琉生にプリントを渡すと、それに目を走らせて、ふっと私を見る。
「五月に体育祭ですよね……結構大変だったような記憶があります」
「うん。でも、先生の方が大変だったんだって、分かるかも……」
「あーなるほど。準備ですよね」
苦笑しながら、琉生は学生時代を思い出しているのか、頷いている。
「そう。生徒の時は、自分の種目だけですけど……たくさんある種目の準備とか、生徒の見守りとか。ダンスとかは得意な生徒が中心になってくれるんですけど。使うものとかは買って準備しなきゃいけないですし」
「忙しそうですね」
「種目も、体育祭の実行委員が決めるので、毎年色々違いますしね。先生が出るように求められたりもするし。去年私、リレー出されました……」
「ああ……」
琉生はクスクス笑って、私を見つめる。
「中川先生、足、速いですか?」
「全力で走るなんて、なくなってるので……もうあの後、全身痛くて」
「今年は無いといいですね」
なんだかずっとクスクス笑われてる。
「清水先生は、運動してます?」
「大学の仲間とサッカーやるんで」
「じゃあもう先生が出る競技はお任せしたいですね」
そう言うと、「なにか一緒に出れたらいいですね」と、琉生は楽しそうに言う。
「競技によりますよー。ダンス一緒にとかなったらほんと大変ですよ」
「拒否権ないんですか、先生に」
「あるんですけど、無いような感じですね」
はは、と笑って琉生が、なるほど、と頷いている。
「あと、中間試験もその後すぐ、ありますし」
「ですよね。忙しそうですね」
そんな風に言いながらも、琉生の口調はなんだかのどか。
「清水先生は、焦らないですよね。落ち着いてて、ほんと、すごいなって思ってます」
「内心焦ってる時もあるかもですけど。中川先生には、じたばたしてるとこ見せたくないので」
クスクス笑いながら、ちょっときわどいことを言ってくるけど。
今は二人なので、そういう意味では焦らないけど。
……何て答えていいかは、分からない。
と悩む前に、琉生がぱっと私を見つめる。
「あ、そうだ。中川先生、今日、ご飯、行きませんか」
不意のお誘いに、琉生を見ると、ふ、とキレイに微笑む。
「今週忙しかったし、どうかなと思ったんですけど」
「今日は、友達と予定があって。大学の友達に会うんです」
そう。……春樹とのこと、話さないといけない。結婚式出てくれるって言ってた子たち。
「そうなんですね。いいですね、楽しそう。じゃあどうしようかなー……」
「どうしようかなって?」
「なんか美味しいもの食べたかったんです。お酒飲みながら」
そう言う琉生に、誘えばだれでもついてきてくれそうだけど、と思った時だった。
「失礼します」
琉生の同期の、山本先生と竹田先生が顔をのぞかせた。
「中川先生、今大事な話されてますか? 清水先生と話しても……? 仕事の話じゃないんですが」
山本先生の言葉に、大丈夫ですよと答えると、二人が中に入ってきて、琉生の前に並ぶ。
「今日、初同期会しませんか?」
「私たち今日空いてたので、清水先生誘ってみようってなって」
竹田先生と山本先生の言葉に、琉生が、「あ、いいですね。行きます」と即答。
時間を決めて、二人が部屋を出ていくと、琉生が、クスクス笑った。
「速攻予定が埋まりました」
「ですね。おいしいもの食べてきてください」
「中川先生も」
はい、と頷いて、ふふ、と笑いあう。
「あ、でも――今度、ご飯食べに行きましょうね?」
少し静かな口調で言われて。目が合うと。
なんだか少しだけ、どきっ、とするけど、それは出さず、そうですね、となんとか、普通に返した。はず。
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