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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

28.実家の夜。

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 琉生とゆっくり歩いて帰ってきて、お風呂に入って寝る準備を終えると、私と千里が一緒、琉生と健司さんが一緒で、二部屋に別れた。

「おやすみなさい」 
 それぞれ言い合って、ドアを閉めて、千里と二人きりになる。

「小さい明りつけとく?」

 千里が頷くので豆電球をつけたまま、並んで敷いてある布団に入って、ふー、と息をつく。ふたりでうつぶせで肘をついて、顔を見合う。

「なんかすっごい賑やかで、楽しかったな」
 千里がそう言ってくれるので、ふふ、と笑みがこぼれた。

「一人だったらこんなに楽しく居られなかったよ」

 そう言うと、千里はクスクス笑った。

「清水先生とのお散歩、どうだった?」
「ん……うん。楽しかった」
「そっか。良かったね。何か、話した?」
「……好きって。言われた」
「まあそれは言わなくてももう分かってるけど」

 笑う千里に、んー、と少し声が漏れる。

「なんか進展、あった?」
「……ん。でも結局、しばらくはこのままでいいってことになったかな……」
「そうなの?」
「うん。琉生も、ちゃんとした先生になりたいから、頑張りますって」
「ふうん……」

「早く一人前になれるように頑張るから、その内、そういう目で見てもらえたら嬉しいって」
「へー。そうなんだ」
「うん」

「へー……」

 そのまま二人ともちょっと黙る。

「じゃあ、ただの先生同士としてしばらくは行くの?」
「ん……学校では、先生としてちゃんとするから、それ以外のところで、ちょっと迫るかもって」
「あは。おもしろ。なんて答えたの?」
「――答える前に、答えなくていいって言われた」
「何で?」
「今言われても困るのは分かってるからって。でも、ご飯とかから、行きましょうね、だって」
「そっか。まあでも、いきなりぐいぐい来られても困るし、清水先生、良い判断だと思うよ」

 千里はクスクス笑いながらそう言う。

「好きなのは、覚えててくださいって言われて……ついつい言っちゃったんだけど」
「なんて?」
「一応覚えてるけど、そうじゃなくなったらすぐ言ってくださいって」
「――清水先生は、なんて?」
「振られない限り無いですよって、言われた」
「あはは。なんか、面白い会話」

 千里はそう言って笑うと、んー、と少し考えてる感じで。
 ふふ、と笑った。

「なんか琴葉はびっくりしただろうけど、ここに清水先生連れてくる案出したのは、良かったかも」
「そう思う?」
「どんな人か、なんとなく分かったというかさ。とりあえず、敵に回さない方がいいなって思ったけど」
「え?? どうして?」

 何か怖いことでもあった? と、千里の方に視線を向けると。

「なんか、ほんと人たらしというか……味方でいた方がいいなって思ったよ」
「そういう意味かぁ……それなら、なんだか、分かる気がする」

 頷いてから、また少し沈黙。

「ねえ千里」
「ん?」

「千里はさ、四つも下なのは気にならない?」
「うん。ならない」

「……すごくモテそうな人っていうのは?」
「うーん……モテそうではあるし、モテるのかもしれないけど……」
「うん」

「モテてチャラい、とか。そういうんじゃない気がするんだけどな」
「――――あ。なんかね、バーの店員さんの時、モテたくないからって、黒い眼鏡とか帽子で黒ずくめの人みたいになってたんだって。琉生の先輩の、マスターが、モテてくれた方がお客がくるのにって言って笑ってた」

 そう言うと、千里は、なんか分かる気がする、と言って笑う。

「まあ、あれだよね。先生として過ごすうちに、琴葉も、春樹のこと、完全に吹っ切ってさ。うまくいけばよし。うまくいかなくてもまあ……可愛い後輩ができるってことで。そんな至急で見極めなくても良いと思うよ」
「――ん……」


 一応頷いてから、枕に、ぽすっと沈み込んだ。

「なんか……今週月曜日までは、春樹と婚約してたのにね。なんか……ほんと、変な感じ」

「んーまあ。そうだよね」

 千里は頷いてから。

「でも、清水先生のおかげで、琴葉が落ち込むの大分軽減されただろうし。そういうのもめぐりあわせだからね。良かったってことにしよ」
「……ん。そっか。そだね」
「そうだよ。それに、そっちの件は、琴葉に非はないから、忘れて大丈夫」

 そう言われて、ふと千里を見つめる。

「ん?」
「……なんか琉生にも、おなじようなこと言われた」
「琴葉は悪くないって?」
「うん……なんかそういう感じのこと」
「まあだって、悪くないもんね」

 あはは、と笑ってくれる千里に。

 でも、そうなった原因は私にもあるかもと思いつつも。
 なんとなく、言わなくていいかな、と思いながら、明るい笑顔に微笑み返した。

 それから、今日の楽しかったことなんかを千里と話してる内に、どちらからともなく眠りについていた。
 そんな風に――――ひとりだったはずの実家の夜は、楽しく更けていった。
  


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