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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
4.どうかしてる
しおりを挟む千里と琉生のところに戻ろうとした先で、千里は他の先生に呼ばれて、離れて行ってしまった。私が席に近づくと、琉生が立ち上がって、にっこり笑った。
「行きますか? 中川先生」
「あ、はい」
返事をして、二人で職員室を出て、歩き出す。
「中川先生、今、秋坂先生が来て」
「あ、はい」
「今日飲みに行きませんかって言われたんですけど、それって先生も行きますか?」
「あ、何て言ってましたか??」
「今日飲みに行きませんか、琴葉も……のところで、至急でって呼ばれて行ってしまったので」
「あ、なるほど……」
ものすごい途中だ……。
「あの……清水先生と話してみたいって昨日から言ってたんです。ほんとは昨日、今週飲みに行けるか聞いてきてって言われてたんですけど、私、忘れちゃって」
「そうなんですね……中川先生は、行けますか?」
「……あ、はい……」
少し頷くと、清水先生はクスッと笑った。
「じゃあ行きましょうか。秋坂先生、面白そうなので、話してみたいです」
「……あ、じゃあ後で、言っておきますね」
そう言いながらも。
千里と琉生がお互い面白そうって言ってるのが。どうしてか、ドキドキする。
◇ ◇ ◇ ◇
数学準備室に、おはようございます、と声をかけながら入って、ホームルームと授業の準備。
出席簿からしおりを取り出して、じっと見つめる。
まだ周囲の先生たちは来てないので、今のうちに、と思って琉生にそれを差し出した。
「清水先生、これ……」
「――あ」
私からしおりを受け取って、琉生が、微笑みながら見つめる。
ハートのモチーフぶら下がっていて、ひっかけるタイプの、お洒落なステンレス製のしおり。
「……ああ。見たら、これだなって思いました。持っててくれて、ありがとうございます」
ふふ、と嬉しそう。
「いえ。私こそありがとう。愛用してたから」
「良かったです」
そう言うと、琉生はクスクス笑いながら、私にそのしおりを返してくれた。
「あの……清水先生」
「はい?」
「実はこれ、さっきまで、小山先生のところにあって」
「……?」
「春休み前に小山先生に貸した本に入れちゃってたみたいで……私、春休み、全然本を読めてなかったから気づかなかったんですけど……朝家で探したら見つからなくて……そしたら小山先生が持ってきてくれてて」
「あ、それでさっき慌ててたんですか?」
「なんか、失くしちゃったと思われちゃうかと思ってちょっと変に焦って」
「なるほど……」
「そんな焦る必要もないのに……なんだか動きが怪しくて、すみませんでした。」
そう言って、琉生を見やると、琉生はちょっと苦笑いで。
「……仲いいんだなーと思いました」
こそっとそんな風に言ってくる。……仲いいんだな??
「え?」
「小山先生と」
「仲はいいかも、ですけど?」
「そういう仲じゃないのは分かってるんですけど、すごく仲良しなんだなぁと。昨日から」
「すごく、かどうかは分かんないですけど……気は合うかもしれませんけど」
何が言いたいんだろう。その言い方って……。
「なんか内緒話みたいで、中川先生と仲良くて、ちょっといいなと思っ……たんですけど、すみません、忘れてください」
言わなきゃよかった、みたいな照れた顔をして、口元を軽く握った拳で押さえながら、琉生は苦笑してる。けど。
……なんか、可愛いなぁ、もう。
…………とか思う、頭の中の私は、どうかしてると思う。
こんな見た目の人で、一昨日の琉生なんて、余裕がある大人みたいに見えたのに。
なのにそんなことで、ちょっとヤキモチみたいな気持ちを言われるなんて。
そんな可愛い感情からは、なんか私、随分離れている気がして。
うーん、若い。可愛いな。
なんて、一昨日とのギャップに、なんだか困る。
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