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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
53.考える時間
しおりを挟む余計なことを考えるのはやめよう。
吹っ切るしかないって分かってるんだし。そうだ。過去の思い出をたどったって、何もいいことないし。うん。そうだ。
ふー、と長く息を吐いて、深呼吸。
なんか、琉生って、優しすぎる気がする。大学出てすぐの頃とか、もっとわーわーしてる感じじゃないのかなあ? すごく落ち着いてるし。ずっと、あんな感じの人なのかな。……実は学生時代はすごい遊んでたとか? それで今はすごく、落ち着いてる、とかかな……?
あ、でも、マスターは、琉生が声をかけられたくないからあんな風に全体的に真っ黒になってたとか言ってたっけ。
んー。でも私、春樹としか、そういうことしてないけど、琉生とするのは全然違ったんだよね。ってことは、やっぱり、慣れてるのかな。……って当たり前かな、あんなに素敵なんだし。女の子は放っておかないよね。
……それか、あれかな。一晩限りだと思って、私が、ちょっとおかしくなっちゃってたとか。それも、ありえるかもしれない。
うわぁ……恥ずかしすぎる。…………無理……もう考えるのやめよう。
……って。
「……ほんと私、何、考えてるんだろ……」
ふ、と、思わず声に出して呟いてしまった。
考えてることが、さっきから、あれこれ、あっちいったりこっちいったり。
……なんか、昨日から、ほんとおかしい。
色んなことがありすぎて、なんか現実感がない。
婚約指輪がもう、私のところに無い、とかも、実感がない。
お互いの実家に挨拶を終えたら、婚約指輪を指にはめようって言ってたけど。嬉しかったから、学校で着替えも何もなくて隠せていられる日や、頑張ろうっていう時とか着けたい気分の日は、指輪を首にぶら下げてた。外す時にいつも置いていた可愛いハートのトレイに指輪がないのが目に入ると、一瞬、あれ?と思って、どきっとする。でも自分でもちゃんと分かってはいるから、無くて当たり前と一瞬で思うんだけど。
でも、それだけ長く、私の元にあったってことで。
忙しいとか、担任としてもっと、とか、部活が、とか言ってないで、早く実家に行けばよかったのかな。私自身が、出来たら先生として少しは自信を持ててから結婚の話がしたいなあなんて思っていたから、遅くなって……こんなことになったのかな。
「――」
……ああ、でも。
さっきお姉ちゃんが言ってた、「結婚前で良かった」というセリフも一理ある気がする。
婚約指輪だけもらってそこからちゃんとはっきりしてなかったとはいえ、ずっと一緒にはいたわけだし、その間にこんなことになっちゃうんだから……結婚しても、そういうことあったかもしれない。
「…………」
ごろん、と転がってうつ伏せになって、枕をぎゅうううっと抱き締める。
ずっと、「お前、可愛くないなー」とか言われてきたけど、春樹は初めて、私に好きって言ってくれた人だった。その人が、私の後に選んだのが、ああいうタイプ、ってことが。結構、ショックなんだなー。私……。
だからほんとに……琉生の、好きっていう言葉は嬉しかった。
昨日も今日も、優しくて、素敵な人だとは、思う。
でも、待て待て、と自分にすごいブレーキがかかるのは……。
ここで、ウキウキ頷いても、私は結局、可愛いタイプじゃないし。恋愛を、一生懸命するタイプでも、無いし。
わりと早めに、やっぱり違ったって琉生に言われるんじゃないかなと、そう思っちゃうから。
琉生が嫌とか、婚約解消したばかりとか、そんな理由が一番じゃない気がする。
だから、琉生が、時間をおいて良いって言ってくれたのは、そう考えると、良かったのかも。
琉生にも、考える時間ができるってことだもんね。
多分一緒に先生をやってたら、私のことは、そういう対象じゃなくて、先輩の教師、ってことになっていくんだろうなと思う。うん。それでいいんだよね。
無理に断るとか考えなくても、多分私が今まで通り普通に接してたら、きっと、今までの男の人たちみたいな感じでそういう雰囲気もなくなってく気がする。
枕を抱き締めて、そんなふうに考えが落ち着いて。私はそのまま、眠りについた。
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