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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
52.ちょっと悔しい
しおりを挟む『オレは、自分の気持ちを琴葉に伝えるけど、琴葉はそんなに考えないでいてくれていいよ。とりあえずは、オレの指導よろしくお願いします、て感じかな」
最後、少しハキハキした感じで言って、琉生はまた笑う。
笑い方が、優しいなあ、と、すごく思う。
「うん。……とりあえず、分かった……ありがと」
『うん。よろしく。オレ、頑張るから。……じゃあそういうことで、もう寝るでしょ? ……あ、そうだ。琴葉、明日、しおり持ってきてね?』
「あ、うん」
『買った時以来だから……思ってるのと違うかも。店で選んでそのまま包んでもらったから。あんまりそういうことしたこと無くて、緊張してたし、あんまり覚えてなくて』
高校生の男子が、慣れずに緊張しながらプレゼント包装を頼んでる姿を思い浮かべると、なんだか、ちょっと可愛く思えてしまって、クスクス笑ってしまう。
『そこ、笑わないで』
苦笑した感じの琉生に、「ごめんね」と言って、でもまた、ふふ、と微笑む。
『じゃあ、早く寝ようか』
「うん。そだね」
『じゃあまた、明日ね。おやすみ、琴葉』
「うん。……おやすみなさい」
最後にそう言って、電話を切って、そのままベッドに仰向けに転がった。
春樹以外の人と、おやすみを言い合って、眠るのは、いつ以来だろ。
そんなことが、頭に浮かんだ。
毎日毎日、基本、おはようとおやすみは言い合ってた。
電話だったり、用事ですれ違う日はメッセージを送ったり。何もしない日は無かった気がする。
そもそも春樹、朝弱いから、おはようコールは必須だったし。
……そういえば、朝、起きれるのかな。
……って。
私が心配することじゃ、もうないんだった。
はー。なんか、バカだなあ、私。春樹は、私との、おはようもおやすみも、もういらないって決めたから、別れを告げたのに。
……起きれるか、心配しちゃったのが、ちょっと悔しい。私の心配を返してほしい。……何だかなあ。もう。
琉生のおかげで、涙は、あまり流さずに済んでる気がするけど。割り切ることも、ずっと早くできそうだとは思うけど。
やっぱり長く付き合った分だけ、私の日常に色々深く入り込んでて、とっさに春樹が出てくるのは……やっぱり悔しいな。もう。
そうだ。悔しいから、春樹の悪いとこ、考えちゃおう。
一番は……朝起きれないことでしょ。
あとは……好き嫌い、結構多くて、普段の食事もだし、たまに学校行事とかでお弁当作ってあげるのも、大変だったし……。
人の話、たまに聞いてないでしょ。忘れちゃうし。
なんか不器用で。サプライズとかできる人ではなかった。なんなら、記念日とか忘れちゃうし。
…………あとはー……なんだろ。あとは。
好きとか。可愛いとか。
……普段は全然、言ってくれなかった。
「――」
でもたまに。私が落ち込んでる時。
……琴葉はそのままでいいよって言ってくれてた。
私はその言葉が嬉しくて。
――。
じわ、と涙が滲む。
……ああもう。なんで、私。
わざわざ泣きたくなるようなこと、思い出してるんだろ。
悪いとこ並べて、心の中で決別していこうと思ったのに。
やっぱりまたちょっと悔しい。
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