63 / 105
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
51.ひとつの言葉。
しおりを挟む自分を落ち着かせて、何て返そうか考えている時。
続けて、ぽん、と入ってきたメッセージは。
『でも仕事モードの時はちゃんとします。中川先生。明日もよろしくお願いします』
それを、じっと見つめる。
敬語と、中川先生。……うん、これが普通だよね。そう思うのだけれど。少しよそよそしく感じるとか。いやいや、それでいいんだよ。と思うのに何だか、少し寂しいというか。
だめだー私……頭の中、ぐちゃぐちゃだよ……。
一度、深呼吸。
うん。そうだ。とりあえず、仕事で一緒なんだから、ちゃんとしないと。そうだ。妙に浮かれてる場合じゃないんだから。
清水先生。明日からよろしくお願いします。
そう打ってる途中で、不意に、電話が鳴り始めた。清水先生の名前が表示されている。
え、あれ? 電話? 焦って思わず、出てしまった。
「も……しもし……?」
『琴葉?』
ふわ、と笑う、少し遠慮がちな声。
『ごめん。なんか嬉しくて、でもあんまり浮かれてちゃダメかなと思って、中川先生って入れてみたんだけど……』
「――?」
『なんか自分から離れたみたいな気がして、入れなきゃよかった気がして。……でも、文字で書くより、電話で話した方が早いかなと思って。電話しないって言ったのに、ごめんね』
「……全然。いいよ」
それを、同じように、よそよそしく感じて。
それが当たり前なんだと思いこもうとしながらも、勝手に動揺してた、とは……言えない。
『もう、寝る準備できた?』
「……うん、できたよ」
『じゃあ、ゆっくり休んでね。また、明日』
優しすぎな位、優しい声。
私、昨日のこの時間は、この人と抱き合っていて。今朝は、職場で会って死ぬほど驚いて。一緒に飲みに行ったら、ずっと居た店員さんで。さらに、教育実習の時の生徒で……。
「うん、あの……」
『ん?』
それで……好きとか。
…………言われて。
「昨日も、今日も、びっくりすること、ばっかりで……」
『ああ……うん。そうだよね』
びっくりすることばっかりだったけど。
でも今一人になって思うのは。琉生に言いたいなと浮かんでくるのは、ひとつの言葉だけで。
「でも、色々……ありがとう」
『――』
……あれ?
返事、無い……。
「……聞こえてる?」
『うん。……琴葉』
「うん?」
『オレ、琴葉が、好きだよ』
「――」
『学校では、ちゃんとする。早く一人前になりたいから。でもオレ、琴葉が好きだから』
「…………」
『オレの言ってること、すぐ全部信じるのは無理かもしれないけど……オレ、ほんとに好きだから……好きになってもらえるように、頑張るつもりだから。……まず信じてもらえるように、かな』
「……あの……」
なんて言ったらいいのか分からなくて、それきり言葉が出てこない。
数秒、黙っていたら。
『まだ答えなくていいから。考えてくれなくていいし、悩まなくていいよ。答えもいらない。……普通にこれから過ごしてく中で、オレの気持ち、信じてもらえたら、そこから考えてくれたらいいから』
「……そんなので……いいの?」
『うん。ていうか、それが良い……だって、今答え出してとか言ったら、振られちゃうと思うし』
そんなことを言って、琉生はクスクス笑う。
17
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説
イケオジ王様の頭上の猫耳が私にだけ見えている
植野あい
恋愛
長年の敵対国に輿入れしたセヴィッツ国の王女、リミュア。
政略結婚の相手は遥かに年上ながら、輝く銀髪に金色の瞳を持つ渋さのある美貌の国王マディウス。だが、どう見ても頭に猫耳が生えていた。
三角の耳はとてもかわいらしかった。嫌なことがあるときはへにょりと後ろ向きになり、嬉しいときはピクッと相手に向いている。
(獣人って絶滅したんじゃなかった?というか、おとぎ話だと思ってた)
侍女や専属騎士に聞いてみても、やはり猫耳に気づいていない。肖像画にも描かれていない。誰にも見えないものが、リュミアにだけ見えていた。
頭がおかしいと思われないよう口をつぐむリュミアだが、触れば確かめられるのではと初夜を楽しみにしてしまう。
無事に婚儀を済ませたあとは、ついに二人っきりの夜が訪れて……?!
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
オフィーリアへの献歌
夢 浮橋(ゆめの/うきはし)
恋愛
「成仏したいの。そのために弔いの歌を作ってほしい」
俺はしがないインディーズバンド所属の冴えない貧乏ギタリスト。
ある日部屋に俺のファンだという女の子……の幽霊が現れて、俺に彼女のためのオリジナルソングを作れと言ってきた。
祟られたら怖いな、という消極的な理由で彼女の願いを叶えることにしたけど、即興の歌じゃ満足してもらえない。そのうえ幽霊のさらなる要望でデートをするはめに。
けれど振り回されたのも最初のうち。彼女と一緒にあちこち出掛けるうちに、俺はこの関係が楽しくなってしまった。
――これは俺の、そんな短くて忘れられない悪夢の話。
*売れないバンドマンと幽霊女子の、ほのぼのラブストーリー。後半ちょっと切ない。
*書いてる人間には音楽・芸能知識は微塵もありませんすいません。
*小説家になろうから出張中
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる