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◇幼く見える

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「先輩、オレは兄貴の事なんか、どーでもいいんですけど」
「――――……」

「まだオレ、この2年間のことめっちゃ文句言いたいし」

 そう言うと、先輩、ものすごい苦笑い。

「それに関してはオレも引き受けたし、何も言えないから……」
「先輩はもー良いです。惚れた弱みっつーか、もう完璧許してるというか、何とも思ってないです。元凶は兄貴です」

 オレの言葉に、先輩はオレをじっと見てから。

「……一応、志樹も、お前の事思ってたんだと……」

「あれはね、先輩。オレを思ってたんじゃなくて、オレの気持ちを無視して、ただひたすらに仕事を詰め込みたかっただけです」

「……だから……認められてるだろ、三上。今。部長とかもよく褒めてるよ」

 ふ、と先輩が笑う。


 ――――……うん。今、先輩がそうやって認めてくれてるのは、
 ただ、ひたすらに嬉しい。


 けど、兄貴のおかげとは、言いたくない。


「それになんか、許可とるとか、オレはオレの事だから、そんなことしなくていいですよ」
「でもさ。オレ元々、志樹の方が先に知り合って、友達な訳じゃん……?」
「そんなに兄貴の事、気になりますか?」

 むー、とため息を付いていると。

「え。何その質問」

 先輩がキョトンとしてオレを見る。


「オレとの話でしょ? 兄貴、どーでもいいですって」
「――――……別にオレ、志樹の方が大事だとか、そんなこと言ってないよね?」

「そうですけど……」
「……なんか三上、よく分かんないけど……」

 ぷ、と先輩が笑う。

「妬いてるんなら、全然違う話だけど……」
「――――……」

 ……え、オレこれ妬いてんの?
 いやいや、むかつくだけで……。


 何だかよく分かんなくなってきた所で、先輩はうーん、と考えながら続ける。

「許可って言っても……許可って言い方がいけないのか。とにかく、一応話、通さないとって、思うんだけど……違う?」
「――――……」

「兄貴の方と先に友達でさ、例えばその後、妹ともしかしてって時だって、普通に話すよね?」
「――――……まあ」

「それと一緒なんだけど……でも、弟だし、付き合う前に色々……っていうのが」
「……まあ分かりますけど」

「しかもなーマンツーマンの後輩……」

 と言いながら、先輩は、オレをじっと見つめてくる。


「なんかオレ、志樹に話すのが一番きついかもな……むしろ部長とかなら言えるかも。あ、そーなんだって言ってくれそう」

 めちゃくちゃ苦笑いで、先輩が言う。

 ああ、部長。確かに言いそう。へらへら適当な感じするもんな。
 ……何で部長なんだろ。まあ。仕事ン時は人変わるか……。


 ……兄貴って、先輩にとって相当強敵か。


「あ。先輩、次何飲みます?」
「なんか甘いやつが良い」

「祥太郎に任せていいです?」
「うん」

「了解です」

 立ち上がって、祥太郎の所に近付く。目の前の椅子が空いてたのでそこに座った。

「祥太郎、なんか甘いの、2種類作って」
「了解ーていうかお前も甘いの?」
「先輩に好きな方あげるから」
「――――……はいはい」

 呆れたように笑ってから、頷く。
 グラスを出して来て酒を作りながら、祥太郎がオレを見てくる。


「――――……好きなのは、分かった」

 祥太郎が呆れたように笑う。

「チラ見してるだけでも、駄々洩れすぎ。見つめすぎ。笑いすぎ。お前、バレても良いと思ってんだろ」
「んな事いっても今、他に誰もオレら見えるとこに居なかったし。会社だともう少しは隠してたぞ」
「つか、オレは居たけどな」

「お前どーでもいい」
「お前なー……」

 祥太郎は、苦笑いしながら。

「つか、デカい会社なんだからなるべくバレない方が良さそうだからな。そっちは気をつけろよ?」
「分かってる」

 返事をしながら祥太郎の手元を見ていたら。

「――――……あの人は、志樹さんと来てた時とは大分雰囲気違うな」

 そんな風に祥太郎が言い、オレは、首を傾げた。


「……そうなのか? どう違う?」
「んー……なんか、お前と居ると、幼く見える」

 ……ああ、なんか。ちょっと分かる気がする。



 オレと居る先輩、たまにすげー可愛いもんな。


 
 


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