80 / 141
第三章
18.「会える」*真奈
しおりを挟む少しの間、無言で凌馬さんにじっと見つめられる。
「俊輔が真奈ちゃんを側に置いてるって聞いて、集会で会った時さ」
「……はい」
「それまであいつの周りに居た誰とも違うし。最初見た時は不思議だったけど」
「……」
「……あいつが求めてたのがこんな感じなのかって思うと意外で笑えるけど……まあでも、分からなくはねえなとちょっと思ってきた」
「そう……ですか?」
「……友達の為に乗り込んできたり。結構ひでえことされてんのに俊輔をかばったり。少しお人よし過ぎるけど……気に入ってんのかもな。あとは、体の相性もいいとか? よっぽどじゃなきゃ、男にハマる奴じゃないと思うんだよね、あいつ。……まあそういうの全部ひっくるめて……気に入ってんだろうな」
……相性云々は答えにくすぎるので、ただ黙って見つめ返していると、凌馬さんは話をどんどん進めて、そう言って、ふっと笑った。
「……真奈ちゃん、あのさ」
そう言って、いったん言葉を切って、凌馬さんはオレをまっすぐ見つめた。
不意に変わったその雰囲気に、何となく息を止めて見つめ返した。
「憎んでないのはさっき聞いた」
「……はい」
「俊輔のこと少しでも良い……好きって、思うか?」
「……」
「全部好きな訳ねえよな。けど……今の時点で、少しだけでも、好きか?」
「……」
普通に見たら、俊輔のしてる事なんて、全部全部ひどい事でしかないと、思う。
何で、憎んでないのか、自分でも、不思議でならない。
だけど……オレは、多分。
……多分。
「……全部が嫌いな訳じゃ……ない、です」
凌馬さんをまっすぐに見つめ返したまま告げた言葉に。
少しだけ黙っていた凌馬さんは、クスっと笑った。
「まあ、今は、十分かな」
何でかとっても嬉しそうな表情に、言葉を返せずにいると。
凌馬さんは、オレの毛布を掴んで、少し上に引き上げた。
「あいつ来ても、いきなりはここに連れてこねえし……安心して、少し眠ってな?」
「……」
「熱、高すぎるしな」
眠りたい気分ではなかったけれど、熱のせいか、目を開けているのが辛い状況であるのは確かで。
……オレは、頷くと、そっと目を閉じた。
どれくらい、そうしていたのか。 少し、ウトウトしかけていた時。
下の方で、バン、という、大きな音が聞こえた。
ほんの少し眠りながらも、いつ辿り着くのかとびくびくもしていたので、かなり敏感になっていたのかも。
目を開けると、凌馬さんと、目があった。
「来たかな?……つか……乱暴だな……」
凌馬さんの苦笑いが混じったのんびりした口調に、何だか余計に自分は焦ってしまう。
階段を何段か飛ばしてる感じで、駆けのぼってくる音。
昇りきった足音がして、同時に。
「凌馬!」
聞き違うこと無く、俊輔の声。
「!」
びくん。体が震える。
う、わ。 今更だけど…… すっげ……怖い……。
思考や理屈よりも、今咄嗟に浮かぶのは、感情で。怖い、が先に立つ。
……あの夜以来見ていないから、余計に、あの夜の俊輔がよみがえる。
思わず、身を竦ませてしまう。
握り締めた手が震えるのを抑えるだけで精一杯だった。
そんなオレを見ていた凌馬さんは、ぽん、とオレの頭を軽く叩いた。
「……だいじょぶ。あれは、心配して早く確認したいってだけだから。完全に落ち着かせてから、部屋入れっから。 しばらく待ってな」
言うと、凌馬さんはゆっくり立ち上がり、部屋を出ていった。
凌馬さんの言葉に、ほんの少しだけ、ほっとする。……怖すぎるけど。
すぐそこに、俊輔が、居る。
俊輔に、もう一度、会う。
そう、思うと……鼓動が、早くなる。
怖すぎる、と思う気持ちと。
逃げ出してきた自分が、どうされるのかという、そんな恐怖が、ほとんどなんだけれど。
あのままにならずに、もう一度会えるんだと……。
ほんの少しだけ。
全然自分でも、どうしてなのか、意味も分からないけれど。
確かに、そう思う自分が居るのも、なんとなく、感じていた。
140
お気に入りに追加
1,404
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-
悠里
BL
高3の時、義理の弟に告白された。
拒否して、1人暮らしで逃げたのに。2年後、弟が現れて言ったのは「あれは勘違いだった。兄弟としてやり直したい」というセリフ。
逃げたのは、嫌いだったからじゃない。ただどうしても受け入れられなかっただけ。
兄弟に戻るために一緒に暮らし始めたのに。どんどん、想いが溢れていく。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファのお嫁さん
藍沢真啓/庚あき
BL
大学卒業後Y商事で働く香月桔梗(こうづき ききょう)が出勤すると、不穏な空気と共に社長から突然の解雇を言い渡される。
「貴様は昨夜、わしの息子をオメガのフェロモンで誘惑しただろう!」と。
呆然とするまま会社を出た途端、突然の発情《ヒート》に襲われる。パニックになった桔梗は徒歩での帰宅を決めたものの、途中でゲリラ豪雨に見舞われてしまう。
そこで偶然見つけたカフェ&バー『la maison』のオーナー寒川玲司(さむかわ れいじ)に助けられたが彼はアルファで、桔梗の発情《ヒート》の影響を受け発情《ラット》してしまう。
そして、合意のないまま桔梗に番の契約をしてしまい──
孤独に生きてきたアルファとオメガの幸せになる為の物語。
壮絶な過去を持つ腹黒アルファ×孤独に生きてきた薄幸オメガ
※オメガバースの設定をお借りしています。また、独自設定もありますので、苦手な方はご注意を。 また、Rシーンの回には*を表示します。
また他サイトでも公開中です。

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる