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第195話 セーフ?
しおりを挟む「じゃあ、今の材料が作り終わったら、屋台は終わりだな」
昼も大分過ぎた時、集まった皆に、颯が言う。
「オレは、今から最後、売り歩いてくるから、屋台の方は、大体の残りの数が分かったら、並んでる人に断るようにしてって」
「はーい」
「終わったらもう、看板とかは下ろして、紛らわしいから」
「はーい」
「何か質問は?」
「ないでーす」
「じゃあそれで。最後までよろしく」
「よろしくお願いしまーす!」
颯の声にそろって答えて、集まって輪っかになってた皆は解散した。
「ふふ」
時計を見てる颯の隣に行って、笑ってしまうと、「ん?」と微笑まれる。
「なんか颯が指示出してるとこって、すげー好き」
「――そう?」
「うん。すげー良い」
「……ありがと」
ふ、と瞳を細める颯は、本当に、カッコいい。優しいし。
「なあ、最後、売りにいくの、ついていっていい?」
「いいけど。屋台の方、平気か?」
「うん。オレ今当番じゃないし。最後一緒に行きたい」
「いいよ」
やった、と思って、屋台に居る昴を振り返った。
「昴―! 一緒に売りに行ってくるー」
そう言うと、はいはい、てな感じで頷いてる昴。じゃねーと手を振って、颯の隣に並ぶ。一緒に行く皆とも話しながら、歩いてると。
「すみませーん、焼きそばくださーい」
いきなり話しかけられた。颯は「いくつですか?」と笑顔。皆がお金とかやり取りして、颯が焼きそばを手渡す。
きゃっきゃと楽しそうな女の子たち。
――あ、こういうことか。
すぐ売り切れるって、と、オレは悟った。
その後も、一応皆、焼きそばどうぞ―っとかは言ってたけど、別にその呼び込みが無くても、颯に引き寄せられてくる女子達が、すごく多いって感じ。
「ていうか、これ、颯がそこに立ってたら、列、できんじゃねーの?」
オレがちょっとムーッとしながら言うと、皆が「そうかもな」と笑う。
「怒んな怒んな。ていうか、慧んとこにも列できるって」
「そーだよ、お前も話しかけられてるじゃんか」
「そうかなあ。ていうか、オレのことはどーでもいいんだけど」
むむ。颯ってば、二日間、こんな感じで売りさばいてたのか。
どうりで、大量に持ってっても、売切れたーって帰ってくるわけだな。
すごいなぁ。なんか。
……オレの旦那さまだけどね。
なんだか得意げな気分なような。ちょっとむむ、とヤキモチなような。
――でも中高の時は「負けるかー」ってなってたから、あの時の気持ちに比べたら、えらい違いだ。
これ売り終えて、屋台とか片付けて――その頃から、後夜祭。
イケメンコンテストが始まるんだよな。
今すでに、事前投票はされてるみたいだけど――どうなってるのかなぁ。
うー。そわそわする。
ってまあ、颯には誰も勝てないって、オレは、思ってるから。
信じてるから、大丈夫かなっていう心配のそわそわというよりは……。
――何だろうなぁ、このそわそわは。
颯がカッコいいの、皆に知られると思うけど。
……外見だけがカッコいいんじゃないんだよなあ。
インタビューとか、あるなら、颯の中身が知られるような質問とか、してくれたらいいな。なんて思ったりもする。
よく考えたら、皆、颯はクールだとか、少し冷たそうとか。熱くならなそう、とか。笑い方とかも、あんな風に笑うんだ、みたいなこと、たまに聞くし。
……颯、結構楽しそうに笑うし。そういうの、知ってほしいなあ。たまにちょっと可愛いんだよ、とか。
……むりか、そんなとこでは。
まあオレが知ってるから、良いんだけどさ。
あと、あれだな。
花束渡すっていうのが加わったから、余計今、そわそわしている。
「どした?」
「え?」
「なんか楽しそうだから」
…………だからオレ!
昴に言われたじゃんかー! 顔顔顔……!
「――い、いや……颯、モテる、なぁ、と思って……」
辛うじて言った言葉に、颯と周りの皆が笑い出した。
「それ、楽しいの?」
クスクス笑う颯。
「……ま、ぁ。旦那がモテるのは。まあ、嬉しい……けど」
「けど?」
面白そうな顔で、颯はオレを見下ろす。
「……ちょっとは、ムッとする……かも……? いや、でも、嬉しいけど」
どっちだよ、と周りに突っ込まれて、笑われるけど。
颯には、めちゃくちゃ優しく笑われて、頭をくしゃくしゃ、撫でられた。
……セーフ?? だったかな? と思いながらも。
撫でられて、嬉しい。
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