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第196話 幸せなのだと。
しおりを挟むて言うかオレ今、旦那とか言ってしまった。……そんなことに気づいてちょっと恥ずかしい……。けど多分気にしてるのはオレだけだから、何も言わず過ごそうなんて思いながら、颯を見上げる。
「颯は何時から、準備しにいくの?」
「学祭が十六時迄で片付けの時間で。十六時半から十七時半まではステージで、バンドとかダンスの発表だって。オレは、十七時には着替えに行くよ」
「そっか。見送りに行く??」
「ん? 見送り?」
「着替えるとこまで。見送りに行っていい?」
「――いいよ」
少しの間見つめられて、ぷ、と笑われてしまう。
「何で笑うの」
むむ、と見上げると。
「いや? ……可愛くて」
クックッ、と笑ってる颯。
「いいよ――というか」
「?」
至近距離に颯が近づいてきて――ちゅ、と頬にキスした。
ちょうど、校舎の下の通路になってるところで、あまり人が居なかったから、だとは思うけど。
「見送りにきて?」
キスされてびっくりしてるオレを、超至近距離でじっと見つめて。
颯がそんな風に言う。――息、止まるってば。
「ん、行く」
こくこく頷いていると、後ろを歩いてた皆からの冷やかし。
「ちょっと暗くなるとすぐいちゃつくってどういうこと」
「そうだそうだー!」
「いくら新婚っても、いちゃつきすぎ」
「るせ。見るな」
颯がオレの首に手を掛けて、ぐい、と自分の胸元に。
――ぅわ……。
皆が、はー、とため息をつくのが分かる。
「颯がこんな風に甘々になるとは思わなかったよなー」
「しかも相手が、慧ー」
あははーと、皆笑ってる。
それには答えず、颯はオレを見つめると、髪の毛をくしゃくしゃ撫でながらオレの背に触れて、皆の前を歩き出す。颯はなんだかすごく楽しそう。
「どーして慧は、そんな可愛いんだろうな」
「――……つか、オレって可愛い?」
「ん」
そーかなあと思うのだけれど、でも、颯の顔が。
優しくて楽しそうだから、それ以上は何も言わず、颯を見つめ返す。
「スーツ姿、楽しみにしてるね」
「――ん。まあ……カッコつけて出てくると思うけど。笑うなよ?」
「絶対笑わないよ」
「そう?」
颯はクスクス笑いながら、オレを見る。オレは、一度、うん、と頷いたけれど。
「――あ、でも颯は、カッコつけなくてもカッコいいから」
「ん?」
「普通にしてるだけで一番カッコいいと思うけど」
「――」
颯にじっと見つめられて、「ん?」とみあげた時。
後ろを歩いてた皆に。
「慧は、素で、颯をほめすぎだよなぁ」
「まあ、なんか、これは可愛いの、分かるかも」
「つか、颯のこと、めちゃくちゃ好きすぎだよなー、慧」
あっはっは。
皆がふざけた感じで言いながら、オレ達を通り過ぎて行く。
「もーほぼ売り切れてるから、そのまま二人で、デートしてきな」
「変なことすんなよー」
「マジでそれー!」
オレ達に反論の余地も与えず、皆が口々に言いながら、じゃあなー、と歩き去ってしまった。
「――むむ……」
何なの、あいつら。
むむむむ。
何だかちょっと恥ずかしくて、むー、と眉を顰めていると。
颯が、ぷ、と横で笑った。
「素で褒めまくりて……」
まあでも、そんな感じか、と颯は笑う。
「じゃあ、カッコつけないで、普通で出る」
「――ん。うん!」
それが一番、カッコいいと思うし。
ふふ。
楽しみすぎ。
「少しデートしよ、慧」
ぽん、と背に触れられて。
カッコよすぎる笑顔に、一瞬見惚れる。
――多分ずっと、憧れてたんだと思う。颯に。昔から。
素直に、好きって言える今が。
意地張らないで、カッコいいって、言えちゃう今が。
オレは、すっげー幸せなのだと、思う。
うん、と頷いて。颯と一緒に、歩き出した。
(2024/11/5)
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