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第12話

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【周辺マップ:https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/news/16818093076248536036】

 ニーベル・フロシュ両男爵軍が攻めて来たのは、ニカが陣頭指揮を執るように命じられてから一時間後の事だった。
 見張りの兵からの報せを聞き、物見塔から向こう岸を行軍してくるニーベル・フロシュ両男爵軍を眺める。
 兵数は凡そ100と言ったところ。
 守備兵を残して出陣してきたことが、外様であるニカでも見て取れた。

 行軍も早く、バナー子爵本家の継嗣だけあって部隊の装備も整っているように見える。

 対するこちらの軍の総数は130に加え堅牢なプロテゴ城がある。負ける要素がない。

ふうっとニカは深い溜息を付いた。

「ニカ様、敵の兵数が少なくありませんか?」

 私は従者の言葉で気が付いた。

「万全を持って落すなら、複数の城から兵を出せるハズ……一体何を狙って……」

「――!? メラ男爵やファウンテン神殿などは潜在的な敵勢力……自身の親族と派閥だけでこの城を落城させようと言うの?」

 私は思考を巡らせる。
 内政に力を注いでいると伝え聞く、傾奇者のアークが正道通り兵数を揃えずたった100人ぽっちで、堅牢なプロテゴ城を攻めるだろうか?

……何か、何か裏があるハズだ。

 少数戦力で城を落す場合、何が必要か考える……兵糧攻めや火砲や魔術師などの攻城兵器。

 他には……奇襲《・・》。

 不意にその単語が脳裏を過った。

 件の襲撃事件を起こしたのは、ファウンテン神殿の北方を流れる川付近の森だと聞いている。
 その方向に向けてニーベル男爵アークさまを捉えるため騎兵を出している。

 しかし、捜索が難航しているのか報告は未だ来ていない。

まさか……

「直ぐに捜索に出した騎兵を呼び戻しなさい!」

「なぜですか? 敵軍は川向にいる100程度ではありませんか?」

「ニーベル男爵! アークの行栄は未だ掴めていない。これはタイニーバナー男爵に保護され捜索隊が壊滅していると考えた方が良いわ」

「……なるほど……それでは兵を東に裂きますか?」

「私達の勝利とプロテゴ男爵家の勝利はイコールじゃないわ」

「……判りました。私が上手く誘導しておきましょう」

「苦労を掛けるわ」

「それが私の役目ですので……」


………
……



 駆鳥《カケドリ》に騎乗した騎士が駆けてくる。

「報告します。哨戒中と思われる。プロテゴ男爵の騎兵十騎を討取りました」

「損害は?」

「騎士は軽傷者が三名、落馬した者が一名でその時に駆鳥《カケドリ》一羽の足が骨折、後に介錯。馬十頭の内死亡が二頭、逃亡が二頭、捕獲が六頭で内一頭には駆鳥を失った騎士が騎乗しております」

「奪った馬に乗ったモノは、後方に回せ。馬の采配は、ヴィクトリカ殿にお任せる」

「……アーク様であればご自分で差配できるのでは?」

「俺には兵を指揮できる部下がまだ育っていないのだ。ヴィクトリカ殿の仕事を見させて欲しい」

「判りました。馬は……騎士家の子共にくれてやれ騎兵戦力は有効だからな」

「はっ!」

 伝令に来た騎士はそう言うと後方へ駆鳥を走らせた。

「騎兵戦力を増やすと同時に、騎士爵家の子弟の士気を向上させたのですね」

「陣地や陣形や武器によって有利不利は別れますが、最も重要なのは士気……つまりは “やる気” です。如何に精強な兵と言ど不味い飯が続き、酒や女も無い時間が続けばやる気を失うものです」

 俺もヴィクトリカの意見に同意する。
 少数の兵でも戦場で勝つことが出来る理由の何割かは、やる気によるところが大きいと思っている。

 徒歩30分の場所が戦地の程度の小競り合いでは、兵站や補給は軽視できる。
 しかし、本来の戦争では補給線こそ最も重要な要素である。

 ヴィクトリカは優秀な将だ。だがそれは、原始的な戦闘による個人の武勇で評価されているだけだ。
 この地方を治める野望を持った俺には、欲しい人材だ。

 しかし、ヴィクトリカは異母弟ロードの家臣、何とかして俺の家臣にしたいものだ。

 斥候によると、河川敷の辺りにニーベル、フロシュ、オールド・・・・ベソル・・・男爵軍が隊列を組んでいるとの事だ。

「重畳だな……」

「兄上、父上……バナー子爵とベソル男爵の軍が来ているとは本当ですか?」

「居城があるオールド男爵領の旗があるらしい」

 異母弟ロードの質問に答えつつ、思考を巡らせる。

 父上が兄弟であるプロテゴ男爵を討つため、即日兵を差し向けるとは考え辛い。
 恐らくは爺の差し金だろう。

「それではこの戦の勝敗は決したようなものですね!」

 と笑みを浮かべる弟に俺は思わず苦笑いを浮かべた。

「それはどうかな?」


………
……


【scene:プロテゴ城 side:ニカ・フォン・シンネヴァー】

「タイニーバナー方面に兵を固めるですと?」

 家宰であるヒル騎士爵の嗣子マーティンは、小馬鹿にしたような声で、ニカの進言を袖にする。

 兵法の何たるかをも判らない木っ端騎士風情が、判ったような口を訊く……

「はい。向こう岸に陣取っている四男爵の軍はブラフ。本命はタイニーバナー男爵軍と思われます」

「いいか? プロテゴ城は、細く伸びた台地の先端に位置し背後を川幅150mの小川に預けたこの城は、ケイプヒル伯爵との小競り合いでは前線だったんだぞ!」

「存じております……」

「ならば判っているだろう? ニーベル城のような進攻のための拠点ではく、プロテゴ城は防衛の拠点。目的からして違うんだよ」

 確かにプロテゴ城は堅牢だ。
 しかしそれは、川の反対側に対してそれも十分に兵を割いていることを前提としたものだ。

「では、我が家の騎士と兵30をタイニーバナー城方面に割くことをお許し願いたい」

「……フン! 勝手にしろ城主さまにはお前が仕事を投げ出したと伝えるからな!!」

 そう言うと肩を怒らせて小ヒル騎士爵は部屋を後にした。

「……全く、小ヒル騎士爵にも困ったものだ」

 従者しかいなくなった部屋でポツリと独り言を呟いた。

 これが聡明なホーン騎士爵が家宰なら……もしも、を考えても意味がない。
 今回の戦いは元をただせば、ホーン騎士爵の嫉妬に原因がある。

 元来、『プロテゴの両腕』と讃えられていたホーン騎士爵家と、ヒル騎士爵家だがヒル騎士爵の倅……つまり、さきほどのボンクラの小ヒル騎士爵こと、マーティンの並びなき出世によって両家の力の均衡が崩れ功を焦り、バナー子爵本家嗣子の家庭教師を暗殺すると言う手段を取った。

 つまりお優しく決断力に乏しいプロテゴ男爵の招いた結果と言える。
 バナー子爵に日和見ながら味方する我が家として決断が出来た。

「これで踏ん切りがついたのでは?」

「ええ、ツーグ様には悪いけど私達はこの戦から早々に抜け出させて貰うわ」

「しかし、騎士として一戦も交えないと言う訳には行きますまい」

「全く面倒だわ……武器を取れ! これより戦を始める!」

 ニカの双眸は怪しく輝いた。



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