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第02話 負けヒロインが覚醒して強すぎる。
しおりを挟むあの後の食事会はつつがなく終了した。
まぁ義妹と思っていた子が義姉だったっていう落ちはあったが。
その数日後、慌ただしく引っ越し業者が家に訪れ大物家具を設置、ダンボール製の壁を築くと嵐のように立ち去っていった。
そのうず高く積み上がったダンボール箱はまさに圧巻の一言に尽きた。
(これをどうにかするのかと……)
届いたばかりの見慣れない家具を目端で捉えながら、普段は日がな一日働き詰めのル〇バに変わり、忙しなく動き回る父を横目に愛飲の麦茶をしばきつつ現実逃避中の僕。
なんで女性の荷物ってのはこうも量が多いのか……
今までは「汚れで人は死なない」を家訓(w)とし、ハウスキーピングに勤めていた身としてはたまらない。
ぶっちゃけ母が出て行ってからは最低限の家事しかしてこなかったため、目の届かないところが結構汚なかったのだ。
かつて母の癇癪で開けられた壁の穴はポスターや家具で隠していたんだけど、新しい家族ができるのに前の女の痕跡があるのは気分が悪いだろうとのことで、今回業者を入れ補修と清掃を行い、特に水回りを新しいものに換えた。
そんなことを回想していると玄関のチャイムが鳴った。
「来たか」
「僕が行くから父さんは準備してて」
「た、頼んだ。父さんは最終確認をしてくる……」
小走りで声を上げながら玄関に向かった。
「お待たせしました」
玄関を開けるとそこには、龍蛇母母子が幾つもの紙袋を提げて立っていた。
女性にしては長身と言って差し支えない二人だが、女性の細腕には似つかわしくない量の大荷物を抱えている。
会うのは二度目だけど綺麗な人だ。
「持ちます」
「気にしなくていいのよ? あれ? お父さんは?」
「父は……心配性が発動したようで……」
「ふふふ……しょうがないわね」
などと笑う義母と、春姫さんの手から二人の荷物を両腕と脇に抱え部屋に入る。
「芳香剤の良い匂いがするわね」
「綺麗にしてるんだ」
「慌てて掃除しただけです。普段はロボット掃除機に頼ってますから」
そう言って今日も働いてくれている勤務歴3年のベテラン、ロボット掃除機に視線を向けた。
受け取った荷物をテーブルに置き、失礼にならないように中身を覗いた。
重さの正体は今日のご飯を兼ねたお土産だったようだ。
「ありがとう。重かったでしょ?」
「軽かったです!って言えればよかったんですけどね……受験で太っちゃって筋肉も落ちたみたいで」
「だったら……」
「お母さん!」
何かを話そうとする義母さんを春姫さんが大きな声で制する。
そこはかとなく固まる気まずい空気を、父の声が解きほぐす。
「迎えが出来なくて悪かったね」
「あら、勇気君からはいつもの心配性だと聞いていますから大丈夫ですよ」
「ぐっ……」
「ねえ勇気君、部屋見たいんだけど案内してくれるかな?」
「お、おう……」
廊下を歩いて階段へ足をかける。
「家広いね」
「まあ広いとは思うよ実際」
母の要望で家は広々とした三階立てになっている。
まあ親子二人では過分に持て余し、使っていた部屋は片手で足りるほどだが。
「ここが春姫さんの部屋です」
ドアを開け春姫さんを先に部屋に入れる。
「広いわ」
「家具を置けば狭く感じると思うよ」
「そうかも、取り敢えずベッドだけでも組み立てないと……」
「僕と父さんで家具を運ぶから、場所の指定だけお願い出来るかな?」
「もちろんよ」
………
……
…
引っ越し祝いの御馳走に舌鼓打ち、少し気分が晴れたもののやはりフラれたことが心にしこりを残している。
「夜風にでも当たろう……」
ワイヤレスイヤホンで動画を流すと、ボーっと月明かりに照らされた庭の木々を眺める。
『スポーツや部活に入ったことがない男は、ガチで危機感を持った方がいいと思う。厳しいって、モテないって、弱いって、ヤバいって、最後に死ぬ気で努力したのっていつよ?』
メンズコーチジョニーとかいう動画投稿者の動画が流れて来た。
この動画は僕みたいなスクールカースト最底辺のナード……よりキツイ言い方をするのなら弱者男性を嘲笑しているように聞こえるものの、彼なりに発破をかけているようにも聞こえた。
心が疲れ果てた僕にはそんな正論が重くのしかかる。
「はあ……」
「何してるの?」
後ろから声を掛けて来たのは春姫さんだった。
「気分転換かな……」
「気分転換?」
「そう、気分転換」
とっさに答えた言い訳を自分に言い聞かせるように繰り返す。
「それって卒業式のことに関係がある?」
「……」
「話したくなければ話さなくていいのよ? でも私は血がつながらないとはいえ、家族が辛い目に合っているのに何もできないのが辛いのよ。話したくなったら話をして、ね?」
暫く沈黙が続きぽつりぽつりと僕はあの日のできごとを話し始めた。
「……卒業式の終わりでテンションが上がった僕に檜山さん……好きな女の子に体育館裏への呼び出しをされたんだ。
告白されたんだけどそれが嘘告白で、それを檜山さんの取り巻き&一軍男子達に馬鹿にされたんだ!」
「……」
「僕みたいなデブが女の子に期待すること自体が大間違いだったんだよ!!」
僕は涙を流しながら吼えた。
恥も外聞も投げ捨てて感情の赴くままに声を荒げた。
それは酷くみっともないものだった。
「それであの日から数日経った今も嘆いてばかり。で、何か行動は起こしたの?」
「……」
「勉強は努力しているみたいだけど……それ以外は努力したの? フラられた相手を見返そうとは思わないの!?」
「そんな気力、今はないよ……それに努力してモテるのはイケメンだけだよ。『ただしイケメンに限る』『人は見た目が八割』って言うだろ? 僕には関係ないよ」
「うじうじうじうじ、やらない言い訳ばかり。君を笑った連中はもう君のことを忘れてるんだよ? 加害者ってのはね、いつもそうなのよ……」
その言葉にはなぜか実感が籠っていた。
「春姫さんは虐められた経験があるの?」
「……母がハーフだから髪色や顔付きで虐められたわ。
それが悔しくてストレスでいっぱい食べて太ったら、今度は『白豚』って呼ばれたわ。それがこのころの写真」
そう言って見せられたのは確かに春姫さんだった。
しかし丸い。
「酷いぐらい太ってるでしょ? 顔もテカってニキビだらけ……でもね、分け隔てなく接してくれる先輩がいたの、それで告白したらお察しのとおりフラれたわ。それから私はダイエットしたの、痩せてからは手の平を返したようにモテてモテて、モテまくったわ」
「つまり僕も痩せればモテまくると言いたい訳?」
「焦らないで、そこまで簡単ではないわ。『めちゃモテ道』は人によって道程と難易度は違うもの……私の言う通りにすれば、イケメンに勝つことは出来なくても並ぶことは出来るわ」
(言い方は気いらないが今の俺には彼女の言う通りにする以外、自分を改善する方法をしらない。ならば乗るしかない! このビックウェーブに!!)
「なら春姫さんの提案に乗るよ。僕は何をすればいい?」
「そうね早起きは得意かしら? 明日は朝六時に起床してね具体的なアレコレは明日説明するわ」
―――――――――――――――――――――――――――――
※3話から努力シーンが始まります。
お色気シーンなど読みやすい工夫をしたつもりですが、苦手な方は第二章まで飛ばしてください。
前書きにそこまでのあらすじを乗せています。
14、15話はSide回なので早く本編を読みたいよと言う方は16話から読んでください。
もし該当シーンを読んでいることが前提の描写がされる場合は、補足説明や冴えカノ方式の第何巻何ページ何行を見てくれ!表記を採用する予定です。
え、嘘……冴えカノって最終巻と劇場版からもう五年経ってるの? この夏(執筆時点)一番のホラーだ……
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