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第01話 こちらにはリア充は一切入っておりません

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「私と付き合ってください!」

「はっ、はい!」

 告白した側でもないのに緊張のあまり声が裏返り、思わず頭を下げ手を伸ばしてしまう。

 普段はボールが跳ね、掛け声や靴のグリップ音が響く体育館も、今日が卒業式と言うこともあって静まり返っている。
そんな体育館裏で僕に告白をしてきたのは、同級生檜山ひやま冬華とうかだった。


 はじまりは空っぽのハズの机に入った1枚の手紙だった。
式のあと一人で体育館裏に来て欲しいと言う内容に、卒業式の熱気に当てられたままホイホイと出向いた。


 中学の三年間、いや小学生の頃から檜山さんのことが好きだった。
 目をみはるほどの容姿って訳じゃないけど人当たりが良く、愛嬌があって陰キャな僕にも優しい気になるクラスメイト。
オタクに優しいギャルとか〇〇さん系のヒロインのような女子。

 経験が豊富ではない僕は、そんな彼女の向日葵のような笑顔に撃ち抜かれていた。


 だから中学で彼氏が出来たらしい、と聞かされた時には涙で枕を濡らし、風の噂で卒業済みらしいと聞けば血涙も流した。
 
この三年で約十人との交際、ビッチだの尻軽だのと噂が流れたが僕はそれでも彼女に惹かれていた……のに……

…………いつまで経っても取られることのない僕の手。

痺れを切らして顔を上げると、申し訳なさそうに視線を逸らしている檜山さんがそこに居た。


 体育館裏と言ってもウチの中学校は広くない。
僕が来たのと反対側からガサガサと音を立て出て来た生徒達は、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。

「テッテレー、ドッキリ大成功~ぶふッ! あははははははははっ!」

 まるでテレビのドッキリ企画のような効果音と共に現れた女子は、途中で堪え切れなかったように爆笑し、周囲の男女も釣られたように笑い始める。

(嘘告白ってことかよ!)

 キュっと胸が締め付けられ、全身からぶわっと汗が噴き出す。
怒りに震えるがそれを表にだすほど、僕は子供じゃない。
この場を穏便に治めるには「なーんだ嘘告かよ(笑)」と道化を演じるのがベターなのだが、言葉が口から出てこない。

「…………」

 『なんだドッキリかー』『だよなー、檜山さんが僕なんかに告くる訳ないもんね』など、幾つか道化としてのセリフを思いつきはしたが、数年物の恋心を弄ばれたのに作り笑いなんてできるわけない。


冬華とうかがキミに告白するわけないじゃん「「ねー」」」

 この女子達は僕をとことん馬鹿にしたいみたいだ。
この時期特有の容赦ない集団悪意に、僕は拳を固く握り込む。
その後ろにいるチョイ悪男子達の圧もあって暴力的にすらなれない。


 情けなさに思わず涙が出そうになる。
握り込んだ拳が白くなり、爪が刺さり血が滲んでじんじんする。
浮かれてた。この熱病のような空気に……僕がこんな可愛い子に好かれる訳なんてないんだ。

(なんだよこれ……結局、僕の妄想だった。
もう誰も何も信じたくはない……)

「勇気くん……あのっ! 本当に……」

 檜山さんは僕の名前を呼ぶ……けどもう心が動かない。
たぶんその先に続くであろう謝罪の言葉も聞きたくもない。
そんなものに一円の価値も見いだせない。

 あんなにあった檜山さんへの想いすら、何だかとても薄っぺらで馬鹿馬鹿しい気がしてきた。
残されているのはやりようのない怒りと羞恥と悲しみだけ。
この世のどん底にでもいる気分だった。

「――っ!」

 きびすを返し僕は走りだした。いたたまれなくてにげだした。

「勇気くん! まって……」

 記念撮影などで残っている生徒や保護者の視線が痛い。
彼らにはこんな出来事、青春の1ページのその背景でしかない。
 

 見慣れない制服の綺麗な子が居る、よけなきゃそう思った時だった。
ふわっと広げたりょうの手でいきなり、彼女は僕の腕を摑んだ。

「え?」

「キミ、岩野いわの勇気ゆうきくんでしょ?」

「どうして僕の名前を?」

「私は竜蛇母たつだも春妃ハルヒ
キミの姉になるものよ、よろしくね」


 ~姉を名乗る不審者が現れた~

先ほどまでの荒々しくも悲しい感情すら忘れ、一歩離れて思わずまじまじとこの姉を名乗る『不審者』を観察した。
それこそ頭から爪先までじっくりと、だ。

 光の加減によっては金色にすら見える亜麻色の長髪は、つややかに腰まで伸びている。
生地が厚く体型が分かりづらいハズの冬季制服でも判る凹凸、垣間みえる素肌は白く、躍動感あるスラリとした脚へとつづく。
実物は見たことないけどまるでモデルか芸能人みたいだ。


「姉って……僕には『いとこ』も『近所のお姉さん』も『幼馴染』も居ないんですよ?」

 そう指を立てて一つづつ数える僕の言葉に、彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべ、いきなり近づいてきて僕の手を取るとその小さな顔の近くで示指を立てこう言った。

「ちっちっち『義姉』と言う選択肢があるでしょ?」

「あっ……」

 確かに一つ失念していた。
今日が父の再婚相手との初顔合わせの日であることを。

「で、でも! 父から見せられた兄妹になる娘の写真はもっと幼かった気が……」
 
 確かに以前見せて貰った写真の子の年は小学生くらいで、綺麗な子だなって思った憶えもある。
写真の子の面影はあるが目の前に立ってる娘は同年代。
娘というより嬢だし、なんなら写真の子の母親って言われたほうが納得できる。

「あーそれね。私、写真があまり好きじゃなくて少し前の写真しかないんだ。で、でも! 今年からバンバン撮ってくつもりだから!!」

 と、やけに口数が多くなる。
 僕には彼女が何かを隠していたいようにも見える……。

(怪しい……)

 僕は、右京さんやポワロのような名探偵ではない。
 怪しんだところで何の証拠も掴むことはできないのだ。
 僕は本題を切り出すことにした。

「そうなんだ。それで、どうしてここに?」

「そうだった! 実は予約しているレストランの時間が間違っていたみたいで……もう時間がないの!」

 そう言って竜蛇母たつだもさんは、校舎の時計を指さした。
 時刻はおよそ十二時。

 竜蛇母たつだもさんのお母さんの都合で、顔合わせはディナーではなく遅めの昼食にするハズだったのだが、話を聞いてみるとどうやらレストラン側の都合で早めに来て欲しいとのことだった。

「ヤバいじゃん!」

「そうなのよ! お義父さんが車を校門の前に止めてるから早く来て……」

 そう言って彼女は僕の腕を引いた。

………
……


「なあアレ岩野じゃないか?」

 男子が指さした先に居たのは、確かに岩野くんでした。
背が高く大きな体は凄く目立つ、だから最近の私はよく彼を見ていた。だけど隣にいる金髪の女の子を私は見覚えがありませんでした。

「金髪でスタイル抜群オマケに美女って……あいつ壺か絵でも買うのか?」

「確かにww」

「でもなんか見覚えあるんだよね……」

「あっ! 清中セイチューの女神さまだよ」

「知ってる! 芸能事務所にスカウトされたらしいよね」

「はー、顔だけでご飯が食べられるって漫画の主人公が言っていたけど、納得できる人初めて見たわ」

 『清中の女神』私もその言葉に聞き覚えがありました。
 他校との大会であまりの美しさで男子の間で有名になったと、中浜さんが話しているのを訊いたことを思い出しました。

(でも、どうして岩野くんと『清中の女神』さんが……)

 私は胸がモヤっとするのでした。
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