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第一章
なんでそこに座った?
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今の私、ハムスターみたいになってはいないか?
「後で寮に伺おうかと思っていたので、またお会いできて嬉しいです!」
笑顔で近寄ってきたアンネが私の椅子の近くに立ったのでものすごく焦った。
(待って待って、まだ口の中に入ってるし慌てて飲み込むのも勿体無いからちょっと待って!)
ムースで良かった。砕いてあるクッキーで良かった。
出来るだけ口を動かさずに舌を駆使して口内の甘みを処理していく。
私は口元に弧を描きながら、何か用があったのかと目で問いかけながら首を傾げた。
伝われ!
「お礼を伝えたかったんです!」
さすがアンネ!
伝わった!!
お礼というと図書室のことだろうか。
本をとってあげた後、千切れんばかりに何度もお辞儀しながらお礼を言われた気がするけれど。
なんとかケーキを味わいきって紅茶を一口飲む。
「本のことならもう充分、お礼を言われていたと思うんだが?」
「もちろんそれも何度お礼を言っても足りません!でも、言い忘れていたのは梯子のことです!」
「……梯子」
確かに、梯子を倒さないようにしたのは私だが、それで助かったのは梯子にぶつかって倒れていた生徒だ。
アンネのことを助けたのはアレハンドロだ。
それに、私が梯子を元に戻したことは特に言っていないはずだった。
「梯子が倒れなかったことか。よく私だと分かったな」
「貴様以外に居るか」
アンネの一歩後ろに立っているアレハンドロが腕を組んだ。
誰かの一歩後ろにいる皇太子殿下、とても貴重だ。
「そんなこと、分からないだろう。しかしまぁ、実際私だがな。どういたしまして」
あの場には色んな生徒がいたのだ。
魔術が得意な人間も他にいるだろうに。
この2人が知り合いである私の仕業だとすぐに判断したのは分からないではないけども。
「本当にありがとうございました! おかげで怪我をする人が出ませんでした」
梯子が倒れたのはアンネが悪いわけではない。
しかし本人は、自分が使っていたものが倒れたことを気にしていたようだ。
気持ちが軽くなったなら何より。
「お茶をしに来たなら、空いている席に座ったらどうだ?」
せっかく2人でデートのチャンスなんだろう、2人で別の場所へ行け、とアレハンドロに目配せする。
アレハンドロは婚約者がいる身だが、親が決めた政略結婚なので今くらい好きに恋愛すれば良いと思ってしまう私がいる。
貴族なんて、愛人がいてなんぼ。
うーん、婚約者のラナージュ嬢には気の毒か。
難しい。
本人の恋愛感情も大事だがプライドが傷つくかなー今度それとなく声かけてみたいなー。
いつも通り忙しい脳内会議を開いている私の心など知りもせず、アレハンドロは椅子を引いて座った。
私と同じテーブルに。
「……。なんでそこに座った?」
デートしてこい。
「……」
アレハンドロはハッとした顔をしている。
「間違えた!」と顔に書いてある。
おそらく、寮では私と親しくしているために条件反射で同じテーブルについてしまったのだ。
愛すべき馬鹿だ。
その馬鹿は脚を組んで背もたれにふんぞり返った。
「私はこの位置が気に入った。貴様、どこか別の場所に行け」
「どうしてそうなった」
決して自分は間違えたわけではない、と暴君を発揮して誤魔化そうとしている。
誰がその理不尽に乗るものか。
「先に座っていたのは私だ。ここに座っている権利は私にあるはずだ」
「知るかそんなこと。私はたった今、ここに座る気分になった」
「聞き分けのない子どもかお前は」
呆れて額に手をやると、アレハンドロはプイッと外方を向いた。
何がなんでも動かないつもりだ。
宥めながら説得するのが面倒だ。
我が子が他人に迷惑をかけているわけでもなし。
折れてやることにした。
なんだかまた周囲がざわつき出した気がしてきたし。
こいつといると本当に目立つ。
仕方ないんだけど目立つ。
「そこまで言うなら仕方がない……」
あからさまにため息を吐いてみせながら腰を浮かせる。
「あ、あの! シン様、よろしければご一緒にどうですか?」
おそらく我々の意図など汲み取れていないおさげちゃん。
良かれと思って誘ってくれた。
アレハンドロと目を見合わせる。
(遠回しに2人きりになるのを断られたのでは?)
(そんなわけがあるか。いや、そもそもそう言う意図はない!)
「後で寮に伺おうかと思っていたので、またお会いできて嬉しいです!」
笑顔で近寄ってきたアンネが私の椅子の近くに立ったのでものすごく焦った。
(待って待って、まだ口の中に入ってるし慌てて飲み込むのも勿体無いからちょっと待って!)
ムースで良かった。砕いてあるクッキーで良かった。
出来るだけ口を動かさずに舌を駆使して口内の甘みを処理していく。
私は口元に弧を描きながら、何か用があったのかと目で問いかけながら首を傾げた。
伝われ!
「お礼を伝えたかったんです!」
さすがアンネ!
伝わった!!
お礼というと図書室のことだろうか。
本をとってあげた後、千切れんばかりに何度もお辞儀しながらお礼を言われた気がするけれど。
なんとかケーキを味わいきって紅茶を一口飲む。
「本のことならもう充分、お礼を言われていたと思うんだが?」
「もちろんそれも何度お礼を言っても足りません!でも、言い忘れていたのは梯子のことです!」
「……梯子」
確かに、梯子を倒さないようにしたのは私だが、それで助かったのは梯子にぶつかって倒れていた生徒だ。
アンネのことを助けたのはアレハンドロだ。
それに、私が梯子を元に戻したことは特に言っていないはずだった。
「梯子が倒れなかったことか。よく私だと分かったな」
「貴様以外に居るか」
アンネの一歩後ろに立っているアレハンドロが腕を組んだ。
誰かの一歩後ろにいる皇太子殿下、とても貴重だ。
「そんなこと、分からないだろう。しかしまぁ、実際私だがな。どういたしまして」
あの場には色んな生徒がいたのだ。
魔術が得意な人間も他にいるだろうに。
この2人が知り合いである私の仕業だとすぐに判断したのは分からないではないけども。
「本当にありがとうございました! おかげで怪我をする人が出ませんでした」
梯子が倒れたのはアンネが悪いわけではない。
しかし本人は、自分が使っていたものが倒れたことを気にしていたようだ。
気持ちが軽くなったなら何より。
「お茶をしに来たなら、空いている席に座ったらどうだ?」
せっかく2人でデートのチャンスなんだろう、2人で別の場所へ行け、とアレハンドロに目配せする。
アレハンドロは婚約者がいる身だが、親が決めた政略結婚なので今くらい好きに恋愛すれば良いと思ってしまう私がいる。
貴族なんて、愛人がいてなんぼ。
うーん、婚約者のラナージュ嬢には気の毒か。
難しい。
本人の恋愛感情も大事だがプライドが傷つくかなー今度それとなく声かけてみたいなー。
いつも通り忙しい脳内会議を開いている私の心など知りもせず、アレハンドロは椅子を引いて座った。
私と同じテーブルに。
「……。なんでそこに座った?」
デートしてこい。
「……」
アレハンドロはハッとした顔をしている。
「間違えた!」と顔に書いてある。
おそらく、寮では私と親しくしているために条件反射で同じテーブルについてしまったのだ。
愛すべき馬鹿だ。
その馬鹿は脚を組んで背もたれにふんぞり返った。
「私はこの位置が気に入った。貴様、どこか別の場所に行け」
「どうしてそうなった」
決して自分は間違えたわけではない、と暴君を発揮して誤魔化そうとしている。
誰がその理不尽に乗るものか。
「先に座っていたのは私だ。ここに座っている権利は私にあるはずだ」
「知るかそんなこと。私はたった今、ここに座る気分になった」
「聞き分けのない子どもかお前は」
呆れて額に手をやると、アレハンドロはプイッと外方を向いた。
何がなんでも動かないつもりだ。
宥めながら説得するのが面倒だ。
我が子が他人に迷惑をかけているわけでもなし。
折れてやることにした。
なんだかまた周囲がざわつき出した気がしてきたし。
こいつといると本当に目立つ。
仕方ないんだけど目立つ。
「そこまで言うなら仕方がない……」
あからさまにため息を吐いてみせながら腰を浮かせる。
「あ、あの! シン様、よろしければご一緒にどうですか?」
おそらく我々の意図など汲み取れていないおさげちゃん。
良かれと思って誘ってくれた。
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