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三章
66話 一息
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ティーグレが荒い息を吐き出し、頬に流れてくる汗を手の甲で拭う。
「倒した端から檻にぶっ込むしかねぇか」
「ほな俺、檻を直す係したるわ」
特大ペンギンが頭を突っ込んでいる石壁周辺に、瓦礫に混ざって檻がぐちゃぐちゃになっている。3人の返事を聞く前に、ローボはそちらへと狼を走らせ戦闘を一時離脱した。
ローボ本人は「火力が低い」と言うが、抜けた穴は大きい。気合いを入れ直したピングたちは、周囲が暗くなったことに気がついて顔を上げた。
大きな影が競技場を覆ったからだ。
「みんなー!」
「リョウイチ! アトヴァル!?」
影の正体はアトヴァルのシャチだった。
2人でシャチに乗って流星を楽しんでいるところに、騒ぎを発見してわざわざ来てくれたのだ。
ホワイトタイガーが浮いているところまでシャチを下ろしたアトヴァルは、闘技場の惨状に眉を潜めた。当然である。
「何事なんだこれは」
「巨大ペンギンの顔が闘技場の壁に埋まってる……」
リョウイチが唇を引き攣らせて指差した方向を確認して、アトヴァルは何か言いたげにピングに冷たい色の瞳を向ける。
ピングは背筋が凍るような視線から逃げたいのを堪えて、いつもリョウイチが謝罪する時にするように手のひらを合わせて見せる。
愛するリョウイチの仕草を真似したせいか、アトヴァルはため息を吐きながらも叱ったりはしなかった。
「何をしたら良いですか」
アトヴァルの問いかけに、ピングは闘技場内を見渡す。
現状、オルソとティーグレ、ピングの3人で無力化した魔獣をローボが檻に入れてくれている。
順番に直している檻の大きさに合う魔獣を選ばないといけないし、別の檻を直している間に魔獣が回復してしまうこともある。
確実に魔獣を捕らえてはいるが、まだ効率が悪かった。
「アトヴァルはティーグレたちと魔獣の鎮静にあたってもらおう。リョウイチは私と魔獣を檻に押し込むのを手伝ってくれるか?」
「了解!」
リョウイチはすぐに朗らかに頷いてくれる。アトヴァルは改めてピングに真面目な顔を向けた。
「教師への報告は」
「で、出来れば秘密に……」
「……」
「ダメか?」
ピングは体を半分ティーグレの影に隠しながら、眉を下げて瞳を揺らす。
そうすると皇后はいつも「仕方がないですねピング」と微笑んでくれていたが、アトヴァルはどうか。
「騒ぎに気づかれる前に片付けるんですね。承知いたしました」
皇后とは違う、一緒にいたずらをする子どものような目でアトヴァル口端を上げる。意気揚々と艶やかな金髪を後頭部で束ね、戦闘準備は完璧だ。
冗談が通じないと思っていた異母弟は、この学園に来てから年相応の若者の顔をするようになってきた。
ピングは一大事を起こした張本人にも関わらず、嬉しくなってきてしまう。
リョウイチと共に地上に降り、倒れている魔獣を檻に移動させる魔術を掛けていく。
ローボは次々に檻を直して脱走できないように魔術を行使し、その間に残りの3人は魔獣たちをどんどん無力化していった。
炎、雷、氷、水、風と、様々な魔術が飛び交っていく。
程なくして、全ての魔獣を檻に入れることに成功した。
「はー……これで、最後だー!」
ピングは胴体が長い猫のような魔獣の檻を閉め、パチンッと手を叩く。
皆が地上に降りてきて、ホッと一息吐いた。
「これ絶対一生分働いたでー! 報奨金とか出ぇへんの皇太子様ー」
ローボが足を投げ出して地面に座る。唇を尖らせて見上げてくる赤い瞳に、ピングは勢いよく頭を下げた。
「すまない皆! 褒美とかは無い!」
「頭を上げてください。皇太子殿下の為に働けたことが何よりの褒美です」
背筋を伸ばしたオルソが胸に手を当てて見下ろしてくる。大人と子どもほどの体格差があるピングは、圧迫感に身が縮む思いだった。
「そ、そこまで言われると申し訳なさが増すな……」
「奴隷根性、凄まじすぎやろ騎士様」
「誰が奴隷だ」
ローボのからかいに対し、オルソの鋭い眼差しが更に険しくなる。せっかく和やかな空気だったのに険悪なものにするわけにはいかないと、ピングは2人の間に入って慌てて口を動かした。
「え、えっと、今度私のデザートをやるくらいなら……」
「本当にー? じゃあプリンの時お願いしよっと」
「リョウイチ! もう少し手心を!」
肝が据わっているのか魔獣が眠る檻に背中を預けて手を上げるリョウイチと、背伸びしてリョウイチのローブの襟元を掴むピング。
祭り中らしい楽しげな光景を見ながら、ティーグレは腰に手を当てて空を見上げた。
まだ止まる様子なく星が流れているのを紫の瞳に映し、それを閉じ込めるように目を閉じた。
「何はともあれ、これで元通りだ」
「魔術をこんなに全力で使えることも少ない。良い経験になったな」
ティーグレの隣に立つアトヴァルは、満足げな表情で束ねた髪を解く。背に流れていく金髪を眩しそうに眺めたティーグレは、晴れやかな横顔に笑いかけた。
「アトヴァル殿下、本当に良い顔するようになりましたね」
「貴様が言うと気持ち悪いな」
「ほら、そういうことすら前は……っ!?」
ティーグレは話を続けることができなかった。
体が飛んでいったのだ。
まだ直してない石壁の瓦礫が、ティーグレの体がぶつかった拍子にガラガラと音を立てて崩れた。
「え……」
誰もすぐには反応できなかった。
なんの前触れも無かった。
ピングが認識できたのは、黒い影がティーグレの体を打ったこと。
続いて、その黒い影が。
ずっと闘技場に横たわっていたペンギンの羽だったことだ。
「倒した端から檻にぶっ込むしかねぇか」
「ほな俺、檻を直す係したるわ」
特大ペンギンが頭を突っ込んでいる石壁周辺に、瓦礫に混ざって檻がぐちゃぐちゃになっている。3人の返事を聞く前に、ローボはそちらへと狼を走らせ戦闘を一時離脱した。
ローボ本人は「火力が低い」と言うが、抜けた穴は大きい。気合いを入れ直したピングたちは、周囲が暗くなったことに気がついて顔を上げた。
大きな影が競技場を覆ったからだ。
「みんなー!」
「リョウイチ! アトヴァル!?」
影の正体はアトヴァルのシャチだった。
2人でシャチに乗って流星を楽しんでいるところに、騒ぎを発見してわざわざ来てくれたのだ。
ホワイトタイガーが浮いているところまでシャチを下ろしたアトヴァルは、闘技場の惨状に眉を潜めた。当然である。
「何事なんだこれは」
「巨大ペンギンの顔が闘技場の壁に埋まってる……」
リョウイチが唇を引き攣らせて指差した方向を確認して、アトヴァルは何か言いたげにピングに冷たい色の瞳を向ける。
ピングは背筋が凍るような視線から逃げたいのを堪えて、いつもリョウイチが謝罪する時にするように手のひらを合わせて見せる。
愛するリョウイチの仕草を真似したせいか、アトヴァルはため息を吐きながらも叱ったりはしなかった。
「何をしたら良いですか」
アトヴァルの問いかけに、ピングは闘技場内を見渡す。
現状、オルソとティーグレ、ピングの3人で無力化した魔獣をローボが檻に入れてくれている。
順番に直している檻の大きさに合う魔獣を選ばないといけないし、別の檻を直している間に魔獣が回復してしまうこともある。
確実に魔獣を捕らえてはいるが、まだ効率が悪かった。
「アトヴァルはティーグレたちと魔獣の鎮静にあたってもらおう。リョウイチは私と魔獣を檻に押し込むのを手伝ってくれるか?」
「了解!」
リョウイチはすぐに朗らかに頷いてくれる。アトヴァルは改めてピングに真面目な顔を向けた。
「教師への報告は」
「で、出来れば秘密に……」
「……」
「ダメか?」
ピングは体を半分ティーグレの影に隠しながら、眉を下げて瞳を揺らす。
そうすると皇后はいつも「仕方がないですねピング」と微笑んでくれていたが、アトヴァルはどうか。
「騒ぎに気づかれる前に片付けるんですね。承知いたしました」
皇后とは違う、一緒にいたずらをする子どものような目でアトヴァル口端を上げる。意気揚々と艶やかな金髪を後頭部で束ね、戦闘準備は完璧だ。
冗談が通じないと思っていた異母弟は、この学園に来てから年相応の若者の顔をするようになってきた。
ピングは一大事を起こした張本人にも関わらず、嬉しくなってきてしまう。
リョウイチと共に地上に降り、倒れている魔獣を檻に移動させる魔術を掛けていく。
ローボは次々に檻を直して脱走できないように魔術を行使し、その間に残りの3人は魔獣たちをどんどん無力化していった。
炎、雷、氷、水、風と、様々な魔術が飛び交っていく。
程なくして、全ての魔獣を檻に入れることに成功した。
「はー……これで、最後だー!」
ピングは胴体が長い猫のような魔獣の檻を閉め、パチンッと手を叩く。
皆が地上に降りてきて、ホッと一息吐いた。
「これ絶対一生分働いたでー! 報奨金とか出ぇへんの皇太子様ー」
ローボが足を投げ出して地面に座る。唇を尖らせて見上げてくる赤い瞳に、ピングは勢いよく頭を下げた。
「すまない皆! 褒美とかは無い!」
「頭を上げてください。皇太子殿下の為に働けたことが何よりの褒美です」
背筋を伸ばしたオルソが胸に手を当てて見下ろしてくる。大人と子どもほどの体格差があるピングは、圧迫感に身が縮む思いだった。
「そ、そこまで言われると申し訳なさが増すな……」
「奴隷根性、凄まじすぎやろ騎士様」
「誰が奴隷だ」
ローボのからかいに対し、オルソの鋭い眼差しが更に険しくなる。せっかく和やかな空気だったのに険悪なものにするわけにはいかないと、ピングは2人の間に入って慌てて口を動かした。
「え、えっと、今度私のデザートをやるくらいなら……」
「本当にー? じゃあプリンの時お願いしよっと」
「リョウイチ! もう少し手心を!」
肝が据わっているのか魔獣が眠る檻に背中を預けて手を上げるリョウイチと、背伸びしてリョウイチのローブの襟元を掴むピング。
祭り中らしい楽しげな光景を見ながら、ティーグレは腰に手を当てて空を見上げた。
まだ止まる様子なく星が流れているのを紫の瞳に映し、それを閉じ込めるように目を閉じた。
「何はともあれ、これで元通りだ」
「魔術をこんなに全力で使えることも少ない。良い経験になったな」
ティーグレの隣に立つアトヴァルは、満足げな表情で束ねた髪を解く。背に流れていく金髪を眩しそうに眺めたティーグレは、晴れやかな横顔に笑いかけた。
「アトヴァル殿下、本当に良い顔するようになりましたね」
「貴様が言うと気持ち悪いな」
「ほら、そういうことすら前は……っ!?」
ティーグレは話を続けることができなかった。
体が飛んでいったのだ。
まだ直してない石壁の瓦礫が、ティーグレの体がぶつかった拍子にガラガラと音を立てて崩れた。
「え……」
誰もすぐには反応できなかった。
なんの前触れも無かった。
ピングが認識できたのは、黒い影がティーグレの体を打ったこと。
続いて、その黒い影が。
ずっと闘技場に横たわっていたペンギンの羽だったことだ。
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