【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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三章

55話 弱点

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 このまま手をとって、背後のベッドに引っ張ったらティーグレはどんな顔をするのだろう。
 本当に、弱点をピングに曝け出してくれるのだろうか。

 ティーグレが触れている部分からじわじわと熱が広がって、鼓動が早くなっていく。
 見つめあったまま、逸らせない。
 何か返事しないと、と唇を開こうとすると。 

「なんてね。冗談なんで困らないでください」

 熱が離れていって、軽く笑うティーグレにピングはハッと我に帰る。

 ローボたちには「恋心と体の関係を直結させるな」と全力で否定したくせに、誘惑に乗りたくなってしまっていた。
 もしも実際にベッドに二人でいったとしても、ティーグレにとっては友人同士の戯れだ。ピングは虚しくなるだけだろう。

 バツが悪くなって薄桃色に色付いた顔を足元に向けた。

「う……いや、私が不躾なことを聞いてしまったな。私ばっか知られてるのは不公平だと思って」
「それは確かに」

 意外にもティーグレは頷いた。顎に手を当てて考える仕草をすると、俯くピングの目の前に三本立てた指を差し出してくる。

「じゃあ、三箇所言ってみてください。当てられたら答えてあげます」

 ピングは顔を上げた。やはり、どうしようもなく気になってしまう。
 知ったところで何かする勇気があるわけではないが、好奇心には勝てない。

「んー……」

 目の前に座るティーグレを観察する。
 銀色の髪、整った甘い顔、制服に隠れている逞しい体、男らしく骨張った手と長い足。

 弱点は登場人物一人一人違うと考えるのが自然だ。先ほど聞いた他の登場人物たちの弱点とは違う場所となると、選択肢は限られる。これが意外と難しい。
 おそらく皮膚の薄い場所、くすぐったくなる場所だろうことピングは予想した。

 人差し指をティーグレの体の中心へと向ける。

「……腹?」
「違います」

 では、と、もっと下に向けた。

「膝?」
「結構ニッチなとこ責めてくるなぁ」

 真剣に考えているのに、ティーグレが笑いだしてしまう。
 ピングは拳を握りしめて地団駄を踏む。絨毯が衝撃を吸収してくれるのを感じながら、ティーグレに一歩分乱暴に近づいた。

「分からんー! どこだどこだ! 全身触らせろ!」
「それはずるいでしょ」

 両肩を掴んで揺さぶると、ケラケラと笑っている。余裕そうなのがとても腹立たしい。
 ここはなんとしてでも当てて、猫ちゃんになってしまうというのがどのくらいのものなのか試してやりたい。

 ピングはキッと顔を上げた。膝に置いてある手首を掴み持ち上げる。

「じゃあ手の指!」
「残念でしたー」
「悔しい……! っわぁ!」

 突然背中に衝撃が走る。
 楽しげに肩を揺らすティーグレを見て、歯軋りした瞬間だった。
 ピングはティーグレの上に倒れ込んだ。ホワイトタイガーと遊んでいたペンギンが背中にぶつかってきたのだ。

「……わ、わ!」

 顔を突っ込んでしまった先は緩く足を開いて座っていたティーグレの股間。完全に、急所とも言える場所に顔をぶつけてしまってピングは慌てる。

「す、すまない!」
「あはは、良い眺めーペンギングッジョ……っん」
「ん?」

 痛くもなかったらしく、軽く流してくれようとしたティーグレが言葉を切った。
 ティーグレの太腿に手を置いて立ち上がろうとしていたピングが首を傾げると、形の良い唇は不自然な弧を描く。

「なんでも、ないです」
「……もしかして……ここか?」
「……っ!」

 ピングは浅葱色で覆われている内腿を揉む。質の良い筋肉で柔らかいそこがピクッと反応し、ティーグレが息を飲んだ。
 見たことのない幼なじみの反応を、ピングはイタズラっぽく見上げる。

「ほほぅ」
「ピング殿下、やめましょう? ……っ」
「そうか、ここも皮膚が薄いしくすぐったいもんな」

 ティーグレの足の間で両内腿の筋を親指で辿り、全体に円を描くように手のひらでゆっくりと撫でた。
 上から降ってくる視線が熱を帯びてきて、ピングの胸が昂ってくる。

「ほんっ、とに……!」

 荒い息が吐かれるのと共に、大きな手がピングの細い肩を強く抑えた。調子に乗りすぎたかとすぐに手を止めれば、ティーグレが腰を屈めて耳元に唇を寄せてくる。

「我慢できなくなって襲いますよ」
「……っ!」

 耳に直接吹き込まれた湿った吐息と、背筋を震わせる低音。
 ピングは咄嗟に耳を押さえてティーグレの足の間から飛び退いた。

 カーペットに尻餅をついて顔を上げると、紫の瞳の奥で炎が燃え盛っている。青空色の瞳が捕らえられたように目が離せない。

 顔が熱い。鼓動が早い。
 互いの呼吸音だけが部屋を満たしている。

「なんーて。2回も引っかかるなんて、心配になるな。……そろそろ夕飯ですね。行きましょうか」

 先に表情を緩めたのはティーグレだった。
 炎の冷めたいつもの柔らかい目と声で笑っている。さっき交わした視線が嘘だったかと思うほどの豹変っぷりだ。
 ピングは戸惑いながらも、首を縦に振る。

「あ、ああ。うん……そうだな」

 そろそろと立ち上がり、力の抜けた足でティーグレから目を逸らして部屋のドアを向いた。
 後ろでティーグレが動くのを感じながら、顔が改めてほてってくる。

(猫ちゃんになる、だと……?)

 獲物を見つけた猛獣のような瞳を思い出し、ピングはティーグレの弱点に軽々しく触れないことを決めた。
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