【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
55 / 83
三章

54話 攻略対象

しおりを挟む
 軽快な笑い声がピングの自室に響く。
 勉強机の椅子に座ったティーグレが、涙の滲んだ目元を親指で拭っている。

「おっかし……そりゃ災難でしたね」
「笑うな! もう……本当に、二人の会話はレベルが高すぎた!」

 ピングはいつものようにベッドに横たわり枕を投げつけるが、やはりいつものようにホワイトタイガーが大喜びで咥えていった。その白い背にはペンギンがピッタリと張り付いて喜んでいる。

 闘技場での出来事を話したのだ。
 もちろん、ティーグレのことは伏せて「もし好きな人ができたら」と言う風に話を変えて。
 するとティーグレは「俺もその場に居たかった」と笑いだして止まらなくなってしまった。

 ティーグレがいたらあそこまでの話にはなっていないはずなのだが、ローボとオルソなら分からない。
 大きく息を吐いて呼吸の落ち着きを取り戻したティーグレは、とにかく楽しそうに口を動かす。

「ローボとオルソも、リョウイチの恋人候補なんですよ。攻略対象っていうんですけど」
「な、なんだって!?」

 ティーグレといいアトヴァルといい、揃いも揃って美形揃いの恋人候補だ。リョウイチは優秀で男らしいタイプが好きなのだろうか。
 悪役だというピングは相当無謀な戦いを挑んでいたようだ。

 ピングは「攻略対象」の姿を頭の中で並べてみる。もし魔力が暴走して全員がピングに向かってきたら、ピングはひとたまりもないと身震いした。

「ろ、ローボはともかく……リョウイチとオルソなんて、私からしたら巨人族の恋だな……」
「意外と良い声で鳴くんですよオルソ。タチ専なんて、BLじゃあ受けって言ってるようなもんですしね」

 ティーグレがイキイキと喋っている。
 何を言っているか分からないし理解しない方が良いとピングの本能が告げているが、オルソがティーグレについて言っていたのと似たような内容であることは分かってしまう。

 ピングは呆れ返り、寝そべったままベッドに頬杖をついた。

「お前たちは一回ベッドで勝負してきたらどうだ」
「俺が勝つに決まってるじゃないですか。弱点知ってますもん」

 恐ろしく自信満々な言葉が形の良い唇から流れるように出てくる。ピングは訝しげに眉を顰めた。

「弱点?」
「登場人物には一人一人、触られたら猫ちゃんになっちゃう弱点があるんですよ。アトヴァル殿下は口、ローボは胸、オルソは首、シュエット先生は足の指」
「シュエット先生!?」

 誰がどこが弱いなどと言う話は最後に突然出てきた登場人物の名によって吹っ飛んでいった。

 中性的で透明感のある、しかし眼鏡の奥にある瞳の圧が強い担任を頭に思い浮かべる。
 リョウイチとシュエット、2人が恋愛関係になるなんて想像ができない。

「先生も攻略対象なんですよねー実は」
「恋愛に興味なさそうなのに」
「そこがいいですよね」

 ティーグレは鼻の下を伸ばしているが、ピングにはよく分からない。

 どんなにピングが上手く魔術が使えなくとも見捨てずに教えてくれる、とても良い人だとは思う。
 彼は王宮の家庭教師たちと違って、ピングを誰かと比べたりしなかった。
 物語の中のリョウイチは、そういうところに惹かれたのかもしれない。

 話しながら、ピングはあることに気がついて体を起こす。

「ティーグレもその……コウリャクタイショウだったな?」
「そうですよ」
「弱点はどこなんだ?」

 ピングはドキドキしながら聞いてみる。

 ティーグレとリョウイチが恋愛する可能性があるならば当然、「猫ちゃんになる」弱点があるに違いない。
 ピングの問いかけに対し、ティーグレは一旦目を閉じた後、にっこりと笑う。

「……ちなみにピング殿下は耳です」
「私はコウリャクタイショウじゃないんじゃ」
「違うんですけど、設定資料集に書いてました」
「そ、そうか……そうなのか……」

 紫の瞳がねっとりとまとわりつくように見てくるので、思わず両手で耳を覆ってしまった。指摘されると恥ずかしい。視線だけで犯されそうだ。

『耳、弱いですよね』

 魔術薬準備室で言われたことを思い出す。なんでピング本人が知らないことまで知っていたのか不思議だったのだ。
 ピングは唇を尖らせてティーグレを睨みつけた。

「ずるくないか?」
「こればっかはしょうがないですよねぇ」
「く……! ところで誤魔化されないぞ」
「はい?」

 ベッドを降りて、ピングはティーグレが座る椅子の前まで荒い足取りで歩いていく。腕を組んで端正な顔を見下ろした。

「お前の弱点はどこだ」
「ベッドの中でなら教えてあげますよ」
「……」

 何を考えているのか読めない表情で、ティーグレが頬に触れてくる。熱い指先に胸が小さく跳ね、ピングは少し迷ってしまった。

しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

平民なのに王子の身代わりをすることになり、氷の従者に教育されることになりました

律子
BL
牢に捕まった平民のカイルが突然連れていかれた場所はなんと王宮! そこで自分と瓜二つの顔を持つ第二王子に会い、病弱な彼の「身代わり」をさせられることになった! 突然始まった王子生活でカイルを導くのは、氷のように冷たい美貌の従者・アウレリオ。 礼儀作法から言葉遣い、歩き方まで──何もかもを厳しく“教育”される日々。 でも、そうして過ごすうちにアウレリオの厳しいだけではない一面が見えてくることに。 二人は「身代わり生活」の相棒となり、試練を乗り越えていくが…。 だんだんと相手に向ける感情が『相棒』に向ける信頼だけではなくなっていく…!?

処理中です...