【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
63 / 83
三章

62話 魔術演武

しおりを挟む
 炎を纏った狼が華麗に舞う。
 獣の咆哮が轟き、巨大な熊が目の前の獲物を引き裂く。
 雷鳴と共に走る白い虎は、背を向ける影に食いつき地面に引き倒した。

 円形の舞台には砂塵が立ち込めている。それでも観客たちは目を細めてなんとか見ようと試みた。

 流星祭最終日、祭り中一番の見せ物である魔術演武の真っ最中だ。

 優秀な生徒3人が魔獣と戦う様子を、皆が大興奮で見守る。
 皇族のみが座れる特等席で、ピングは手に汗を握っていた。隣にいるアトヴァルも食い入るように見ている。

「……っと、ちゃんと見てもらわな意味ないやんなー」

 鼻歌まじりにローボの褐色の指が天に魔法陣を描けば、一瞬で観客たちの視界は晴れる。

 競技場の地面には、多様な魔獣たちが虫の息で倒れていた。立っているのは3体だけだ。
 巨大な熊の隣に立つオルソは足元を見下ろして凛々しい眉を顰める。

「手応えがないな」
「まぁ、見せ物だからな。不必要なくらい派手な魔術でそこそこの敵を倒すのが目的って言っただろ?」

 ティーグレは自ら風の魔術を纏って空高く飛び上がる。観客から歓声が上がると、片目を閉じて手を振った。
 そしてその手を地面に向け、呪文を唱える。

「ローボとオルソは避けろよー!」
「えー? 嫌やでー」
「どうせなら受け切らせていただきます」
「いや、そういうんじゃねぇからなこれ!」

 軽口を叩きあいながら、ティーグレは雷の雨を舞台上に降らせた。
 観客席に被害が及ばないように範囲を円形に制御している。器用なものだとピングは感心した。
 あっという間に、残っていた三体も地面に体をつく。

 舞台上にいたローボとオルソはというと、それぞれの使い魔が代わりに雷を受け切ったようだ。
 本人たちはきちんとその後ろに避けていて、ピングはホッと胸を撫で下ろした。

「すごいな3人とも……」
「はい。見事な魔術です。ローボは魔術同士の組み合わせが上手く、魅せる事に長けている。オルソは実戦向けで確実に仕留めていた。見せ物としてはあの巨大な熊がそもそも目立ちますし」
「ティーグレは勢いがすごいな! 派手な上に威力がこう……すごくて! すごいな! 格好良かったな!」
「……そうですね。本人にもそう伝えてください」

 口元をほのかに緩めたアトヴァルに、幼児を見るような温かい目をされる。
 一人一人の魔術を分析して見ていたアトヴァルに対して、純粋に楽しんで見ていたピングはへらりと笑った。

 上手い表現もできず、言語力の無さが少し恥ずかしい。自分の大雑把な見方が浮き彫りになってしまった。

「あ、あの。とにかく3人とも頑張ったな!」
「大盛況ですね」

 観客席から投げかけられる賞賛の声を浴びながら、三者三様の反応をしていた。

 オルソは丁寧に腰を下り、ローボは楽しげに両手をブンブン振っている。
 片手を上げて会場を見回していたティーグレは、皇族専用の席の方向を見て止まった。

「あ! こっちを向いたぞ! ティーグレー!」

 ピングが嬉々として大きく手を振ると、ティーグレの手も左右に動いた。大勢の中でも自分に応えてくれたのが嬉しくて、ピングは破顔する。

 更に、ティーグレは手を口元に当ててキスを投げてくる。
 ピングの頬に熱が昇るのとほぼ同時に、背後の席から黄色い声が上がって飛び上がりそうになる。

「あ、あいつはほんとに……!」

 何故、自分に向けてだと思ってしまったのかとピングは頭を抱えて俯いた。
 もしかしたら、この後ろにティーグレの意中の人がいるのかもしれない。
 大騒ぎしている女性観客たちを振り返りながら、ピングはしょんぼりと眉を落とす。

 だが、ポンポンとアトヴァルに肩を叩かれて背筋を伸ばした。

「す、すまない。皇族としてここに座ってるのに」
「今のは皇太子殿下に向けてですよ」
「え、そ、そうだろうか」
「間違いなく」

 至極真面目な声と表情てアトヴァルが断言してくれる。素直なピングは、それで気持ちをあっさりと持ち直した。
 ティーグレは親しい友人を特別扱いしてくれたに違いないのだと。

 実は、似たような会話を後ろの席の女性たちもしていることを2人は知らない。
 皆、自分にだと思うことで気持ちを高めていたのだった。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...