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二章

31話 夢⭐︎

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 ザラついて冷たい石が素肌に当たって、ピングは体をすくめる。

「てぃ、ティーグレ!?待て、落ち着け」

 厚い胸を押して逃れようとするが、ティーグレはびくともしない。それどころか、更に密着してきて素肌が吸い付き合う。
 本能が逃げられないことを察知して、鼓動が速くなる。全てをティーグレに覆い尽くされてしまう。

「だ、だめだこういうことは、好きな人と」
「すみません、俺で」
「へ、ぁっ」

 腰を大きな手が這ったかと思うと、せっかく巻いていたタオルが地面に落ちていく。骨の凹凸に沿って背を指で撫ぜられて、ピングは腰を逸らした。

「早くしないと夢から出られなくなります。我慢してください」

 ティーグレは鼓膜に息を吹きかけるように囁き、耳に歯を立てた。たったそれだけで体に甘い痺れが走り、ピングは大人しくされるがままになってしまう。

「ん……っんっ」

 舌が耳を丁寧に濡らし、形を辿っっていく。唾液が絡まる音が聴覚を犯し、以前もこうして可愛がられたのだと身体が思い出した。
 熱が中心に集まってきて、ピングの腰は無防備に揺れる。

「てぃ、ぐれぇ」
「……っ、ちょろくて可愛い」

 図らずも互いの熱をすり寄せる格好になり、ティーグレが息を飲む。欲に浮かされたピングの赤い目元に柔らかい唇が触れ、手が胸に滑り上がってきた。

「ぅ……、ぁ、やぁっ」

 ピングのか細い声が高くなる。ティーグレは胸の飾りを緩くつまみ、クリクリと指先で弄んできた。性的に触れたことのないそこから広がる感覚に戸惑い、ピングはティーグレの肩に手を置いた。

「そんな、とこ……っ」
「好き、でしょ?」
「……っ」

 何故、ティーグレはピング自身の知らないピングの体のことを知っているのだろう。
 ほとんど耳と胸の2点だけの刺激しかないのに、ティーグレが呼吸する度にピングの全身が跳ねる。足から力が抜けて、自力で立っているのが難しい。

 自分の体じゃなくなったと錯覚するほど思い通りにならず、ティーグレの体に縋り付くしかなくなった。

「たって、られなぃ」
「頑張ってください」

 片方の手がすぐに動き、腰を支えてくれる。爪先しか地面につかないほど強く引き寄せられ、ティーグレの熱いものがグリっとピングを刺激する。

「あ……っ」

 声が大きくなって、慌てて唇を噛み締める。
 滲む汗も、伝わる体温も、重なる呼吸音も、何もかもが鮮明なせいで夢なのか現実なのか分からなくなってしまった。
 本来なら誰が来るか分からない場所での背徳的な行為がピングの体の奥を掻き立ててくる。

『恥ずかしいって、興奮するやんなぁ』

 認めたくない言葉が頭をよぎって首を振る。

「ちが……っ」
「何か別のこと考えてます?」
「ぁっ……んんっ!」

 ティーグレの歯が低い声と共に首筋に立つ。ピリッとした痛みと共に、背筋を電流が駆け上がる。腰が意思を持って、完全に形を変えた中心同士を擦り合わせてきた。

 腹から上がってくるものが限界に近づいてきて、ピングはティーグレの肩に爪を食い込ませる。

「も、むり……っ、くる……っ」

 絶頂を迎えようと膝を擦り合わせて腹に力を込めたとき、突然ティーグレの身体が離れた。

「え……」

 快感が遠ざかってしまった身体が切なく震える。眉を下げてティーグレを見上げると、額に張り付いた金髪を撫でられた。

「ティーグレ……なんで……」

 最初にティーグレを嗜めてみせていた姿はなりを潜め、ピングは卑しく追い縋ってしまう。
 一歩離れて見下ろしてくるティーグレも頬が上気しており、いつもは涼しげな目は欲望に満ちている。ピングとは比べ物にならない長大なものは、蜜を滴らせていた。

 暴力的なほど色気を感じるティーグレに、思わず腹の奥がキュンとする。己の欲を解放してほしくてたまらなくなった。

「頼む、ティーグレ……、私は」

 懇願するために伸ばした手が腕に触れた瞬間、ティーグレの口元が緩む。

「すみません、すぐ終わるの勿体無いなって」
「そん、ぁああっ」

 膝が股に滑り込まれたかと思うと、再び両胸を責められた。もう立つこともままならないピングは、ティーグレの膝に座るしかない。

「早く、終わんないと、だめって……!」
「はい。急ぐんですけどもう少しだけ」
「う、んあぁ!」

 胸の突起を親指で押しつぶし、膝を小刻みに揺さぶられる。振動が中心に直接響いてきて、でも欲を解放するには弱く、ピングは身悶えるしかない。

「は……、こんな……っ」

 悩ましく細い吐息がこぼれ、力の入らない手でティーグレの肩を叩いた。ティーグレは快感に翻弄されるピングを目を細めて眺めている。
 ピングからは余裕ある表情に見えるが、ティーグレの呼吸は荒い。今にも目の前の獲物に食いつきたいのを我慢しているようにも見えた。

「こんなのっ……恋のお守りじゃないぃ!」

 それでも逃げることが出来ないのは、相手の姿が全幅の信頼を置いているティーグレだからだろう。
 閉じることが出来ないせいでピングの唇の端から溢れてきた唾液を、ティーグレは人差し指で拭った。

「ローボなので」

 意味が分からない。
 ピングはもう、答えを得ることを諦めた。いや、考えることがもう出来なくなってきていたのだ。

 ティーグレの赤い舌が指を這う扇情的な光景を眺るだけで脳髄が痺れる。
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