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二章
32話 名前⭐︎
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揺さぶられる身体は、どこを触れられても敏感に反応してしまう。限界を超えていると感じるが、決定的なことはしてくれないため苦しくて切なくてしょうがない。
ピングは腰を揺らし、ティーグレの胸にしなだれかかる。羞恥心など、もうなかった。
「たのむ、も、いきたいぃっ」
「焦れてる顔かわいい」
ティーグレは満足げに目尻を下げると、赤く染まったピングの額に口付けを落とす。優しい仕草でも、ピングの体はひくついた。
「イキ顔も見たいけど……バックのがやりやすいか」
「え……!?」
呟かれた内容を理解できない内に、ピングの体は反転する。両手の甲をそれぞれ掴まれたかと思うと、石柱に手をつき、ティーグレへと腰を突き出す格好をさせられる。
「足、しっかり閉じててくださいね」
「へ、ゃ……っ待て、てぃ……!」
ティーグレは当然、待ってはくれなかった。ピングの閉じた太ももの間に猛ったものを挟み、腰を打ちつけてくる。
肌がぶつかる音がする度にピングの熱の裏が擦れ、頭が真っ白になるほどの愉悦の波が襲ってきた。
「なん、だこれ……ぇっ」
「……っ、きもち、いいでしょ?」
「ん……っいい……ぁあっ」
「素直」
「ひ、ぅっ」
耳元で聞こえるティーグレの声も、呼吸が乱れ途切れ途切れになっている。
触れ合う手も、唇が触れる耳も、ぶつかる腰も、擦れ合う場所も。
どこもかしこも全部熱い。
「ぁっあっ」
ピングは快楽に身を委ねて咽び泣く。
高く上がる声が止まらなくなってきた。
ティーグレは背にピッタリと肌を寄せて、腹に響く声で言葉を紡いでくる。
「イきたい、ですか?」
「いきたい……っ」
「俺にイかされたい?」
目を閉じて快感を享受しながら何度も何度もピングは頷いた。早く解放されたい。
自分だけでは感じられない絶頂を、ティーグレに与えられてもう知ってしまっているから。
「じゃあ、お願い……っ聞いてくれますか」
「なんでもっきくっ!」
もう上り詰めることで頭がいっぱいのピングは、無防備に言葉を返す。ティーグレは腰の動きを緩やかにして、今日一番の柔らかい声を出した。
「イく時、俺の名前呼んで」
「なま、え」
「そう」
何故そんなことを、などと疑問を抱く余裕はピングにはない。ただただ、簡単に思える要求を飲むしかなかった。
「分かっ……た……っぁあっ」
返事の途中でティーグレの動きが大きくなる。本当に体が繋がっているかのように、二人は快感を共にした。
手が動かせないほど握りしめられ、自由にならないからこそ感じ入った。
「てぃ、ぐれ!てぃーぐれぇ……っ!」
名前を呼べば、顔が見えずとも自分をこのようにしている相手が誰なのかが刻み込まれる。銀の髪が、紫の瞳が、脳裏に浮かび、離れない。
荒々しく息を吐きながら、ティーグレが声を絞り出した。
「ピング、俺は」
「……ティーグレ……っ!」
白濁を放った、そう思った瞬間にピングの目に映る景色が変わった。
灰色のカーテンの隙間からは陽の光が溢れ、本棚や机など、部屋全体をうっすらと照らしている。
ピングがいるのは学園の回廊ではなくベッドの上。白いシーツを握りしめて、今まさに飛び起きたといった状態だった。
「……ゆ、夢……」
早鐘のように鳴る胸に手を当てると、滑らかな生地が手のひらに当たる。体を見下ろしてみても、きちんと寝巻きを着ていた。
呼吸を整えながら更に状況確認しようと体を動かすと、下半身に違和感がある。嫌な予感がして掛け布団を捲るが、一見は問題なかった。
あくまでも「一見は」だ。
見なくても分かる。寝巻きの中がどうなってしまっているのか。足を動かす度に感じるぬめりけは勘違いしようもない。
「酷い夢だ……」
ピングは頭を抱えてベッドの上でうずくまった。
あまりにも鮮明で、鼓動は止まらず早くなるばかりだ。顔も火に焼かれているようだ。
耳にも胸にも下半身にも、まだ触れられた感覚が残っている気がする。ティーグレの男らしく筋張った手が、まだ腰を抱いてくれているように錯覚してしまう。
「なんで、ティーグレだったんだ……」
よろよろとおぼつかない脚でなんとか立ち上がり、机のサイドに掛けてあったカバンに手を伸ばす。黒皮のカバンの金具を開けて中を除けば、銀の指輪が入っていた。
「あれ?」
手に取ってみて、ピングは首を傾げた。ティーグレの瞳と同じ色をしていた石は、今は真っ白に輝いている。
恋のお守りとやらの効果が切れてしまったのだろうか。
「本当に、これのせいなのか……?」
夢の内容を思い出して、ピングは恥ずかしさでのたうちまわりたかった。一度醜態を晒しているとはいえ、幼なじみでなんという夢を見てしまったのだろう。
ティーグレの手の温もりを感じながら寝入ったから夢の相手が彼だったのだろうか。
何もかも、ローボに聞かなければ分かりはしない。
後で文句を言いにいこうと決めて、ピングが指輪をカバンに投げ入れたとき。
トントントン。
部屋の戸を叩く音が聞こえて、声を上げそうになるくらい驚いた。
「な、なんだ!」
「おはようございますピング殿下。入ってもいいですか?」
よりによって、ティーグレである。
当然だ。朝一番にこの部屋にやってくるのはいつもティーグレなのだから。他にわざわざピングの部屋にくる人はいない。
もしかしたら夢の中のティーグレもお守りの石に誘導された本物のティーグレかもしれないなどと思っていたけれど。
あまりにもいつも通りの声のため、やはりただの夢だったのだろう。もしピングなら、あの夢の後に本人に会いに行くことなどできない。
今も、ピングは慌てふためいていた。
「待ってくれ!すぐ支度するから!」
「手伝いますよ」
「絶対入ってくるな!」
気遣ってくれるティーグレを全力で拒否して、ピングは着ているもの全てを脱ぐことから始めたのだった。
ピングは腰を揺らし、ティーグレの胸にしなだれかかる。羞恥心など、もうなかった。
「たのむ、も、いきたいぃっ」
「焦れてる顔かわいい」
ティーグレは満足げに目尻を下げると、赤く染まったピングの額に口付けを落とす。優しい仕草でも、ピングの体はひくついた。
「イキ顔も見たいけど……バックのがやりやすいか」
「え……!?」
呟かれた内容を理解できない内に、ピングの体は反転する。両手の甲をそれぞれ掴まれたかと思うと、石柱に手をつき、ティーグレへと腰を突き出す格好をさせられる。
「足、しっかり閉じててくださいね」
「へ、ゃ……っ待て、てぃ……!」
ティーグレは当然、待ってはくれなかった。ピングの閉じた太ももの間に猛ったものを挟み、腰を打ちつけてくる。
肌がぶつかる音がする度にピングの熱の裏が擦れ、頭が真っ白になるほどの愉悦の波が襲ってきた。
「なん、だこれ……ぇっ」
「……っ、きもち、いいでしょ?」
「ん……っいい……ぁあっ」
「素直」
「ひ、ぅっ」
耳元で聞こえるティーグレの声も、呼吸が乱れ途切れ途切れになっている。
触れ合う手も、唇が触れる耳も、ぶつかる腰も、擦れ合う場所も。
どこもかしこも全部熱い。
「ぁっあっ」
ピングは快楽に身を委ねて咽び泣く。
高く上がる声が止まらなくなってきた。
ティーグレは背にピッタリと肌を寄せて、腹に響く声で言葉を紡いでくる。
「イきたい、ですか?」
「いきたい……っ」
「俺にイかされたい?」
目を閉じて快感を享受しながら何度も何度もピングは頷いた。早く解放されたい。
自分だけでは感じられない絶頂を、ティーグレに与えられてもう知ってしまっているから。
「じゃあ、お願い……っ聞いてくれますか」
「なんでもっきくっ!」
もう上り詰めることで頭がいっぱいのピングは、無防備に言葉を返す。ティーグレは腰の動きを緩やかにして、今日一番の柔らかい声を出した。
「イく時、俺の名前呼んで」
「なま、え」
「そう」
何故そんなことを、などと疑問を抱く余裕はピングにはない。ただただ、簡単に思える要求を飲むしかなかった。
「分かっ……た……っぁあっ」
返事の途中でティーグレの動きが大きくなる。本当に体が繋がっているかのように、二人は快感を共にした。
手が動かせないほど握りしめられ、自由にならないからこそ感じ入った。
「てぃ、ぐれ!てぃーぐれぇ……っ!」
名前を呼べば、顔が見えずとも自分をこのようにしている相手が誰なのかが刻み込まれる。銀の髪が、紫の瞳が、脳裏に浮かび、離れない。
荒々しく息を吐きながら、ティーグレが声を絞り出した。
「ピング、俺は」
「……ティーグレ……っ!」
白濁を放った、そう思った瞬間にピングの目に映る景色が変わった。
灰色のカーテンの隙間からは陽の光が溢れ、本棚や机など、部屋全体をうっすらと照らしている。
ピングがいるのは学園の回廊ではなくベッドの上。白いシーツを握りしめて、今まさに飛び起きたといった状態だった。
「……ゆ、夢……」
早鐘のように鳴る胸に手を当てると、滑らかな生地が手のひらに当たる。体を見下ろしてみても、きちんと寝巻きを着ていた。
呼吸を整えながら更に状況確認しようと体を動かすと、下半身に違和感がある。嫌な予感がして掛け布団を捲るが、一見は問題なかった。
あくまでも「一見は」だ。
見なくても分かる。寝巻きの中がどうなってしまっているのか。足を動かす度に感じるぬめりけは勘違いしようもない。
「酷い夢だ……」
ピングは頭を抱えてベッドの上でうずくまった。
あまりにも鮮明で、鼓動は止まらず早くなるばかりだ。顔も火に焼かれているようだ。
耳にも胸にも下半身にも、まだ触れられた感覚が残っている気がする。ティーグレの男らしく筋張った手が、まだ腰を抱いてくれているように錯覚してしまう。
「なんで、ティーグレだったんだ……」
よろよろとおぼつかない脚でなんとか立ち上がり、机のサイドに掛けてあったカバンに手を伸ばす。黒皮のカバンの金具を開けて中を除けば、銀の指輪が入っていた。
「あれ?」
手に取ってみて、ピングは首を傾げた。ティーグレの瞳と同じ色をしていた石は、今は真っ白に輝いている。
恋のお守りとやらの効果が切れてしまったのだろうか。
「本当に、これのせいなのか……?」
夢の内容を思い出して、ピングは恥ずかしさでのたうちまわりたかった。一度醜態を晒しているとはいえ、幼なじみでなんという夢を見てしまったのだろう。
ティーグレの手の温もりを感じながら寝入ったから夢の相手が彼だったのだろうか。
何もかも、ローボに聞かなければ分かりはしない。
後で文句を言いにいこうと決めて、ピングが指輪をカバンに投げ入れたとき。
トントントン。
部屋の戸を叩く音が聞こえて、声を上げそうになるくらい驚いた。
「な、なんだ!」
「おはようございますピング殿下。入ってもいいですか?」
よりによって、ティーグレである。
当然だ。朝一番にこの部屋にやってくるのはいつもティーグレなのだから。他にわざわざピングの部屋にくる人はいない。
もしかしたら夢の中のティーグレもお守りの石に誘導された本物のティーグレかもしれないなどと思っていたけれど。
あまりにもいつも通りの声のため、やはりただの夢だったのだろう。もしピングなら、あの夢の後に本人に会いに行くことなどできない。
今も、ピングは慌てふためいていた。
「待ってくれ!すぐ支度するから!」
「手伝いますよ」
「絶対入ってくるな!」
気遣ってくれるティーグレを全力で拒否して、ピングは着ているもの全てを脱ぐことから始めたのだった。
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