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一章
26話 初恋
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行儀悪くバタバタと回廊に足音を立てたおかげで、リョウイチが足を止めた。ピングはペンギンを床へ離す。
「あれ? ピング、どうし……っ!」
顔だけ振り返った背中に、小さな体で飛びつく。バランスを崩して転けそうになったが、リョウイチはなんとか持ち堪えた。
黒いローブに額を当て、ピングは喉を震わせる。
「リョウイチ、私は……っ私は友だちじゃなくてっ」
「え?」
「私は、お前が好きだ」
目をつむり、息継ぎもせず。勢いで言い切ってしまう。
心臓がバクバクと鳴り、緊張で歯が鳴りそうなのをグッと噛み締める。
リョウイチが息を呑む音がはっきりと聞こえ、その後は沈黙のみが空間を包む。
どんな表情をしているのか。
どんな気持ちでいるのか。
見たいけど、見なくない。
聞きたいけど、聞きたくない。
矛盾した気持ちに苛まれながら待っていると、いつも通り穏やかな声が上から降ってくる。
「ピング、顔見せて」
素直に腕を離すとリョウイチの体がこちらを向く。真っ赤な顔を俯けたままでいると、大きくて温かい手が両頬を覆った。
促されるままに見上げた先では、黒曜石のような瞳が煌めいている。
ピングを気遣って下がった眉は、この後の言葉を容易に予想させた。
それでも、ピングははっきりと言葉が欲しかった。
「ごめん。僕は、アトヴァルが好きなんだ」
死刑宣告を受け、初恋が砕け散る。
知っていても、笑って美しく終わるのは難しそうだ。
込み上げてくるものを押し殺して、口角だけは上げているピングがコクコクと頷く。
「そう、か。やっぱりそうだよな」
「でも、ありがとうピング」
「礼を言われると、変な感じだな」
さぁ、背中を押さなければと顔を上げた時、裏庭を挟んだ向こう側で誰かがこちらを見ているのが目に入る。
アトヴァルだ。
(なんでこんなタイミングで)
完璧に整った目を見開いて、じっとこちらを見ている。強い光を放つアイスブルーの瞳と青空色の瞳の目が合った。
気がついていないリョウイチは、朱に染まった頬を掻く。
「告白されたの、初めてだよ」
「そうか、初めて……」
ピングは目を細めた。
そう、それがピングの狙いだった。
初めてという特典は想定外だったが、とにかくアトヴァルより先にリョウイチに気持ちを伝えたかったのだ。
だからといって、何も変わりはしないのを分かっていても。
「リョウイチ、頼みがある」
見たことのない表情をして固まっているアトヴァルと目線を合わせたまま、ピングは遠慮なくリョウイチの首に腕を絡める。
背伸びして、耳元に唇を寄せた。
「私と……今後も友達で居てくれ」
「もちろんだよ」
リョウイチが笑ってくれる気配がする。
抱きしめ返してくれないのは、彼なりの誠実さだろう。
広い肩越しに見えているアトヴァルに笑いかけると、唇を噛み締めて踵を返してしまった。
(まるで出来の悪い劇の悪女だな)
心の中で自嘲したピングが体を離す。我慢しきれなかった雫がこぼれ落ちた。
「なぁ、リョウイチ。友だちとして言いたいことがある」
「うん」
「アトヴァルが一瞬前まであっちで見てたぞ」
「え!?」
ハンカチを差し出しかけてくれていた手が止まり、リョウイチは驚愕の声を上げる。
(リョウイチもアトヴァルも表情豊かで面白い、と高笑いできたら良かったのにな)
冷や汗を流している手を握り、ハンカチを突き返す。
ハンカチで涙を拭うのは、悲しい時だけじゃない。きっと、この後で必要になるから。
「早く行け。私のことはどこかのお節介焼きが慰めてくれるから」
「……うん」
リョウイチはピングの足元に現れた、ペンギンを背に乗せたホワイトタイガーを見て息を吐く。
アトヴァルが向かった方向に走り出すリョウイチを見送ったピングは、ホワイトタイガーに飛び乗ってしがみついた。
そのまま、ホワイトタイガーは軽やかに空に駆け上がって行ったのだった。
「あれ? ピング、どうし……っ!」
顔だけ振り返った背中に、小さな体で飛びつく。バランスを崩して転けそうになったが、リョウイチはなんとか持ち堪えた。
黒いローブに額を当て、ピングは喉を震わせる。
「リョウイチ、私は……っ私は友だちじゃなくてっ」
「え?」
「私は、お前が好きだ」
目をつむり、息継ぎもせず。勢いで言い切ってしまう。
心臓がバクバクと鳴り、緊張で歯が鳴りそうなのをグッと噛み締める。
リョウイチが息を呑む音がはっきりと聞こえ、その後は沈黙のみが空間を包む。
どんな表情をしているのか。
どんな気持ちでいるのか。
見たいけど、見なくない。
聞きたいけど、聞きたくない。
矛盾した気持ちに苛まれながら待っていると、いつも通り穏やかな声が上から降ってくる。
「ピング、顔見せて」
素直に腕を離すとリョウイチの体がこちらを向く。真っ赤な顔を俯けたままでいると、大きくて温かい手が両頬を覆った。
促されるままに見上げた先では、黒曜石のような瞳が煌めいている。
ピングを気遣って下がった眉は、この後の言葉を容易に予想させた。
それでも、ピングははっきりと言葉が欲しかった。
「ごめん。僕は、アトヴァルが好きなんだ」
死刑宣告を受け、初恋が砕け散る。
知っていても、笑って美しく終わるのは難しそうだ。
込み上げてくるものを押し殺して、口角だけは上げているピングがコクコクと頷く。
「そう、か。やっぱりそうだよな」
「でも、ありがとうピング」
「礼を言われると、変な感じだな」
さぁ、背中を押さなければと顔を上げた時、裏庭を挟んだ向こう側で誰かがこちらを見ているのが目に入る。
アトヴァルだ。
(なんでこんなタイミングで)
完璧に整った目を見開いて、じっとこちらを見ている。強い光を放つアイスブルーの瞳と青空色の瞳の目が合った。
気がついていないリョウイチは、朱に染まった頬を掻く。
「告白されたの、初めてだよ」
「そうか、初めて……」
ピングは目を細めた。
そう、それがピングの狙いだった。
初めてという特典は想定外だったが、とにかくアトヴァルより先にリョウイチに気持ちを伝えたかったのだ。
だからといって、何も変わりはしないのを分かっていても。
「リョウイチ、頼みがある」
見たことのない表情をして固まっているアトヴァルと目線を合わせたまま、ピングは遠慮なくリョウイチの首に腕を絡める。
背伸びして、耳元に唇を寄せた。
「私と……今後も友達で居てくれ」
「もちろんだよ」
リョウイチが笑ってくれる気配がする。
抱きしめ返してくれないのは、彼なりの誠実さだろう。
広い肩越しに見えているアトヴァルに笑いかけると、唇を噛み締めて踵を返してしまった。
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心の中で自嘲したピングが体を離す。我慢しきれなかった雫がこぼれ落ちた。
「なぁ、リョウイチ。友だちとして言いたいことがある」
「うん」
「アトヴァルが一瞬前まであっちで見てたぞ」
「え!?」
ハンカチを差し出しかけてくれていた手が止まり、リョウイチは驚愕の声を上げる。
(リョウイチもアトヴァルも表情豊かで面白い、と高笑いできたら良かったのにな)
冷や汗を流している手を握り、ハンカチを突き返す。
ハンカチで涙を拭うのは、悲しい時だけじゃない。きっと、この後で必要になるから。
「早く行け。私のことはどこかのお節介焼きが慰めてくれるから」
「……うん」
リョウイチはピングの足元に現れた、ペンギンを背に乗せたホワイトタイガーを見て息を吐く。
アトヴァルが向かった方向に走り出すリョウイチを見送ったピングは、ホワイトタイガーに飛び乗ってしがみついた。
そのまま、ホワイトタイガーは軽やかに空に駆け上がって行ったのだった。
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