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第3話

腹ペコ貪欲モンスター (1)

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「翠ちゃんいらっしゃい」

 今日はフルーツケーキが焼けたとの事で藤堂の黒塗りに拾って貰って彼の部屋を訪ねる。昼には焼けていて、冷まし終わった頃合いだそうだ。

「お邪魔します」
「遠慮なく」

 ふふ、と機嫌良さそうに笑う棗にどうして私は安心なんかしているんだろう。
 でも棗のその雰囲気を見ればどうやらお菓子作りのスランプから抜け出せた……らしい。いつ訪れても清潔な広いキッチンに今日は見たことが無いガラスの……これ、なんて言うんだっけ。

「ケーキクーラー買っちゃった。翠ちゃんこう言うの好き?」
「好き……」
「私も好き。前から買おうか悩んでいたんだけど良いの見つけたから翠ちゃんに一番に見て貰おうと思って」

 完成したケーキの撮影自体は終わってるから後はもう全部“私のもの”だった。
 撮影用に棗が切って、ワンカットだけ先に味見をしたらしい。

「翠ちゃん最近仕事どう?言える範囲で良いけど」
「じゃあ言わない」
「だよね」

 こんな問答にも笑ってキッチンに立つ推しはお洒落なケーキ皿を二枚用意してお茶の支度を始める。今回、正式に藤堂からの仕事の依頼を引き受けた。名目は藤堂棗のボディーガード。
 その依頼人は本人だけど。

「それでさっそく仕事の事なんだけど、あ……紅茶にする?」

 慣れた手つきでティータイムの支度をする推し。
 その指先が、所作が、私は好きだった。

「翠ちゃんにはうんとドレスアップして貰って、私の隣でにこにこしていてくれれば問題ない。所属はまあ、私設秘書って事で私の仕事ではなくプライベート管理をして貰っている」
「って言う設定」
「うん」
「……そもそも仕事の方の秘書ってあのでっかい黒服なんですか」
「わりと繊細なんだよ、彼」

 へー、と既に顔見知りになっている黒服の大男を思い浮かべる。確かに、有能そうではあったけれど普段から振り回されているんだろうな、なんて思いながキッチンのそばに突っ立ってつい、彼の手元を眺めてしまった。

「翠ちゃん、少し長めなネイルとかして大丈夫かな」
「ええ、それは……仕事ですし」

 私の爪は一応、磨いてはあるけれど仕事の邪魔にならないように短く整えていた。何も塗られていないショートネイルは流石に“現場”では不相応だろう。
 どうせあのホテルなら中に色々とサロンがあるだろうから長めに、服に合いそうな色合いにして貰って……棗もサロンに行ってるんだろうか。非常に生々しい話ではあるけれど、彼はお菓子作りもするし、私の体にも触れる。
 それ以外だって、私の知らない所で色々とヤっているんだろうけれど爪はいつも短く、私の粘膜を傷つける事は無かった。

 キッチンに立つ時は腕時計を外すとか、衛生面もきちんとしている。

 紅茶の支度と同時進行でお洒落なお皿に既にカットされていたフルーツケーキがケーキクーラーから移され、乗せられた。

「デパートの催事でレモンクリームが売っててさ」
「それ、気づいた時には仕事で行けなかったやつ」
「あらら。じゃあ一緒に開けよう。香ばしさ優先で少し焦げが強めになるように焼いたから合うと思う」

 フルーツケーキとレモンクリームと、紅茶。
 そんな組み合わせ、絶対に美味しい。

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