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第2話
繊細デリケートヤクザ (4)
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必至に喘ぎすぎるのを堪える私とは反対に今日の棗は珍しく長く呻いていた。その声が私の体をぞくぞくとさせるなど本人は気づいていない。ただ今は上り詰めた快楽に膨らみきった肉質を私に深く挿し込んだまま、射精をしていた。
何となく、その背中を抱き込む。
その背に墨は入っていなかった。
「ナツメ……今日、ずっと変だった」
私の首筋に勝手に触れた事を謝るくらいのマトモな思考を持ち合わせておきながらやっぱり少し強引なセックスに持ち込んで、執拗に私のナカを……ってこれはまあいつも通りか。
ずるり、どろり。
お風呂に入ったのに汗でべたべたする体。
始末されたスキンやら。
淡々としたお片付けを眺めていた私に「恥ずかしいからあまり見つめないで」と言われてしまう。何を今更。
「ナツメ」
「それもうわざと呼んでるよね」
こうすれば口を割るかと思ったから。いや、割らせてもどうするんだって話なんだけど。
「……お風呂、入ろ」
私の誘いに棗が反応した。
「洗ってあげる」
「それってオプション?」
「夕飯作ってくれたからサービス」
「そっか」
全裸の男女がベッドの上でどうでも良い話をして……でも本当に棗は私とお風呂に入るつもりなのか「ぬるめのお湯、貯めようか」と問うので私もその提案に乗る。
今日の私たちは変だ、何かがおかしい。
私を先に入らせてくれる真摯的な面。お風呂で使うものはラインで揃えていると言う棗は湯船に入浴剤まで持ち込んでくる。
部屋の広さと比例する湯船の広さ。大人二人が楽に入ることが出来るけれどひとたび、ヤることをヤった棗と私には妙な距離が生じていた。精剛な男の事だからまだ続けるつもりがあるならそれでも良かったけれど、ハーバルグリーンの綺麗なお湯の色の中で足を抱えて浸かる私に触れる事は無かった。
「嫁がどうとかって話とか、パーティーの話ってやっぱり世間体ですか」
「煩わしいだけだよ。親父は昔堅気でね、気にするタイプ。まあ私もその利権の甘い汁を啜ってきたから、筋を通さないと気持ち悪いと言うか」
「そう言う所が潔癖ですよね。人の股、舐めた癖に」
「翠ちゃんだってそうやって言葉を使い分けて他人に深入りしないようにしてる」
「……うるさい」
もっと砕けた話し方で良いんだよ、と言う棗。
「恋人同士みたいにさ」
「違うし」
ふふっ、と声を漏らして笑った棗の顔。
髪も洗ってしまったせいで濡れ髪で、それでも顔の良い男……推しの男の横顔を見たら目が合ってしまった。
「翠ちゃんといると楽しい」
低レベルな言葉遊びなのに棗は私の事を真っ直ぐに見つめていた。
「仕事の打ち合わせもしたいからケーキが焼けたらまた詳細は連絡するね。とりあえずホテルはどうする?見識を広げる為に泊まってみる?」
「あのホテル、メロンフェア……って」
「ああ、丁度いい時期。私と翠ちゃん用に発注しておくよ」
そこは二人一緒なんだ、と思ったけれど予定を立て始める棗が楽しそうにしていたので話に乗ってやることにした。
こうして私と推しである男、藤堂棗との関係は複雑怪奇に絡んでゆく。
ひと先ず私はフルーツケーキに思いを馳せながら「眠くなってきたから上がる」と言って風呂から出る。情事に乱れたベッドを直してやってから倒れ込めばすぐにうとうとと睡魔に手を引かれて眠ってしまった。
「翠ちゃん、私は本気なんだけどなあ……」
彼のバスルームでの呟きは、私には届かない。
第2話 おしまい。
何となく、その背中を抱き込む。
その背に墨は入っていなかった。
「ナツメ……今日、ずっと変だった」
私の首筋に勝手に触れた事を謝るくらいのマトモな思考を持ち合わせておきながらやっぱり少し強引なセックスに持ち込んで、執拗に私のナカを……ってこれはまあいつも通りか。
ずるり、どろり。
お風呂に入ったのに汗でべたべたする体。
始末されたスキンやら。
淡々としたお片付けを眺めていた私に「恥ずかしいからあまり見つめないで」と言われてしまう。何を今更。
「ナツメ」
「それもうわざと呼んでるよね」
こうすれば口を割るかと思ったから。いや、割らせてもどうするんだって話なんだけど。
「……お風呂、入ろ」
私の誘いに棗が反応した。
「洗ってあげる」
「それってオプション?」
「夕飯作ってくれたからサービス」
「そっか」
全裸の男女がベッドの上でどうでも良い話をして……でも本当に棗は私とお風呂に入るつもりなのか「ぬるめのお湯、貯めようか」と問うので私もその提案に乗る。
今日の私たちは変だ、何かがおかしい。
私を先に入らせてくれる真摯的な面。お風呂で使うものはラインで揃えていると言う棗は湯船に入浴剤まで持ち込んでくる。
部屋の広さと比例する湯船の広さ。大人二人が楽に入ることが出来るけれどひとたび、ヤることをヤった棗と私には妙な距離が生じていた。精剛な男の事だからまだ続けるつもりがあるならそれでも良かったけれど、ハーバルグリーンの綺麗なお湯の色の中で足を抱えて浸かる私に触れる事は無かった。
「嫁がどうとかって話とか、パーティーの話ってやっぱり世間体ですか」
「煩わしいだけだよ。親父は昔堅気でね、気にするタイプ。まあ私もその利権の甘い汁を啜ってきたから、筋を通さないと気持ち悪いと言うか」
「そう言う所が潔癖ですよね。人の股、舐めた癖に」
「翠ちゃんだってそうやって言葉を使い分けて他人に深入りしないようにしてる」
「……うるさい」
もっと砕けた話し方で良いんだよ、と言う棗。
「恋人同士みたいにさ」
「違うし」
ふふっ、と声を漏らして笑った棗の顔。
髪も洗ってしまったせいで濡れ髪で、それでも顔の良い男……推しの男の横顔を見たら目が合ってしまった。
「翠ちゃんといると楽しい」
低レベルな言葉遊びなのに棗は私の事を真っ直ぐに見つめていた。
「仕事の打ち合わせもしたいからケーキが焼けたらまた詳細は連絡するね。とりあえずホテルはどうする?見識を広げる為に泊まってみる?」
「あのホテル、メロンフェア……って」
「ああ、丁度いい時期。私と翠ちゃん用に発注しておくよ」
そこは二人一緒なんだ、と思ったけれど予定を立て始める棗が楽しそうにしていたので話に乗ってやることにした。
こうして私と推しである男、藤堂棗との関係は複雑怪奇に絡んでゆく。
ひと先ず私はフルーツケーキに思いを馳せながら「眠くなってきたから上がる」と言って風呂から出る。情事に乱れたベッドを直してやってから倒れ込めばすぐにうとうとと睡魔に手を引かれて眠ってしまった。
「翠ちゃん、私は本気なんだけどなあ……」
彼のバスルームでの呟きは、私には届かない。
第2話 おしまい。
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