R18『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

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単話 『夏の二人の暮らし(司の視点)』

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 今度は初めから手を繋いで花火を見に行った。
 相変わらず花火を見上げるちよちゃんは綺麗で、やっぱり私はこの想いをどう形容したらいいのか……むしろ分からなくなってしまっていた。
 愛情でひと括りにしてしまうには、色々なものが混ざりすぎて――ああ、駄目だ。言葉が思い付かない。

 花火を見て、夕飯を買って帰って。
 お風呂上がりのちよちゃんは「お昼、ちょっと買い物に行っただけなのに……日焼け止めを塗り忘れていた足の甲がすっかり日焼けしちゃったんです」と私にサンダルのデザインのままに少し赤くなっている素の足を見せてくれているが……。

 ・・・

「ちよちゃん」

 私の呼び掛けに涙目になっていたちよちゃんが小さく吐息を漏らす。明かりを絞った私の寝室、私のベッド。すべすべとしたちよちゃんの素肌はいつまでも撫でていたいと思ってしまう。

「あ、あっ……」

 大人同士の静かな交わり。ちよちゃんは私にぎゅっとしがみついては甘い吐息を繰り返す。愛しい人の切ない声に耳をくすぐられるたびに私は腹に力を込めて昂る欲を力任せに強くぶつけないよう丁寧に、それでも深く、愛していた。

 私の腕の中でとろけてゆくちよちゃんは時に思い出したかのように私の肩口にある墨色に唇をあてて悪戯をしようとしたりする。
 一生懸命に吸おうとしているけれど揺れるから、上手くできなくて。

「千代子」

 呼び掛ければびく、と体が震える。
 それでも私の言葉に流されまいと最近では策を編み出したようで、少し涙目になっている瞳でじっと私を見つめてくるようになった。
 切なそうに寄せた眉に潤んだ瞳、頬は赤くて、薄く開いた唇は乾いてしまうくらいに呼吸を繰り返して……愛している人に見つめられては私も我慢がならなくなる。 

「つ、かさ」

 途切れてしまうくらい、小さな声だった。

「つかさ」
「っ、く……!!」

 息を飲み、歯を食い縛る。
 直ぐにふふっ、とおかしそうに笑ったちよちゃんは「やっぱり恥ずかしいかも」と体をぎゅっと小さくさせて私の肩にぐりぐりと額を押し付けた。

 私は駄目な男だ。
 いつもちよちゃんに理性を優しく撫でられて、甘やかされて、我慢が出来ない。

「ちよちゃん、明日はゆっくりしてて」
「え……あっ?!ひ、っあ……んんんッ!!」

 仰け反る背を抱き込んで、私はちよちゃんに頬を寄せる。正直、出てしまいそうだった。なんとか堪えてみても、一度上がりきってしまった熱はもうどうする事も出来ず、私の奥から沸き上がる濁った欲望がふつふつと……。

「少し、動くね」
「ひゃ、あ……っ、あ、あっ……!!」

 爆ぜるその瞬間まで、堪え性のない私はちよちゃんの体を抱えて幾度となく、揺すってしまった。

 終わってしまえばくたくたのふにゃふにゃになっているちよちゃんは少ししてからシャワーを浴びるから、私が先に入らせて貰うためにベッドから降りる。

 こんな日々をこれからも繰り返していけるのだと、だからこそ私は彼女のことを大切に――私は、ちよちゃんに何をしてあげられるだろうか。
 シャワーを浴びながらふと、考えてしまう。
 遅くに帰ってきて、ちよちゃんは自分の部屋で先に寝ていても私は部屋の端々で彼女の温もりや優しさを感じていた。
 ソファーの端に畳んでおいてあるタオルケット、キッチンカウンターにある指輪を置くための小さなリングトレー、リビングのローテーブルに置いてあるレシピの本にはいくつか付箋がついていて。

 シャワーから上がってリビングを抜け、また私は寝室に戻る。

「んん……」
「ちよちゃん?」
「眠くなっちゃった……でも、浴びないと」

 素肌に纏えるようにと予め持ってきてあげていたバスローブを掻き抱いて、ふにゃふにゃしながら……たぶん私のせいでどうしても浴びざるを得ないちよちゃんに「滑らないように気を付けてね」と言葉を掛ける。
 いつものルームシューズのパタパタとした足音はなく、裸足の彼女のぺたぺたと言うほんの僅かな足音が聞こえる。

 私の仕事は綿密なスケジュール管理が必要な程に不規則で、忙しくて。ちよちゃんに「ただいま」と「おやすみ」を言えない日は数えきれない。でもちよちゃんも日々働きながら、私たち二人での暮らしを丁寧に整えてくれている。普段はふわふわと柔らかい雰囲気だけど、しっかりと芯のある女性。

 少し乱れてしまったベッドを直しながら家事を彼女に任せきりになってしまっている事に申し訳なくなってしまう。それにちよちゃんには何か些細な事でも良いから私や……もし私に直接言えない事があったら松戸や芝山にも遠慮なく要望を挙げて欲しいと伝えてある。

 最近、ちよちゃんから今日は友人と出掛けた、お茶をした、と言う話をちらほらと聞けるようになってきた。普段の買い物ついでに足を伸ばしてどこかに寄ってきたと言う話も全部、私の耳に心地の良さをくれる。

 だから、私は――。

「司さんって焼きうどん、食べますか?夏野菜を沢山入れたお醤油味で、かつお節をふわっと乗せた……最近、冷たいものばかりだったので」

 当たり前のように私の寝室に戻ってきてごそごそと肌掛け布団に潜り込もうとするちよちゃんの素朴な質問が愛しくて堪らない。きっとシャワーを浴びながら明日の献立を考えていたのだろう。
 ゆっくりしてて、と言ったけれど彼女の中では美味しいものの調理に関しては別なのだと私は既に学んでいる。

「久しく食べてないな……最後に食べたのはいつだろう」
「じゃあ明日のお昼は焼きうどんにしましょう。あ、でも朝は……」

 起きられないかも、と肌掛けをかぶって笑っているちよちゃんが可愛い。どんなに抱き締めても足りないくらい私の可愛くて、大切な人。
 明日は私もちよちゃんも休みだから朝ごはんは私が支度をして、昼の内は二人でゆっくりしよう。夕方、強い日差しが陰りはじめるあたりで買い物に出て……私が出来るのはとりあえずスーパーの買い物の荷物持ちから、かな。

 ベッドの中でふあ、と小さくあくびをしたちよちゃん。私もそれにつられて同じようにあくびをしてしまう。そんなことでも私たちにとってはおかしくて、楽しくて。

「寝よっか」

 頷くちよちゃんに「おやすみ」を言えば当たり前のように「おやすみなさい」と言葉が返ってくる。

 おやすみ、ちよちゃん。
 また、明日。


 おしまい。


 ・・・・・・

 いつからか司はちよちゃんの前ではスパダリどころかデレデレに。
 二人で暮らす、をテーマにした司視点の夏のおはなしでした。
 作者の緑野も大好きな二人です。楽しんで頂けましたら幸いです~。

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