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単話 『夏の二人の暮らし(司の視点)』
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しおりを挟む――ちよちゃんと花火を見ていた。
人混みからは少し離れて、ちよちゃんも私も浴衣は着ていなかったけれど初めて二人で打ち上げ花火を見に行った。
都会の夏の夜の暑さなんてどうでも良くなってしまうくらいに私は嬉しくて、そばで寄り添うように夜空を見上げていたちよちゃんはとても綺麗だった。
私が軽く下を向くと必然的に花火を見上げている瞳と合ってしまう。私の視線にちよちゃんは優しく笑って、それから恥ずかしそうに口もとをぎゅっとさせる。それが愛おしくて、どうやって私の気持ちを表現したら良いのか分からずにいれば私の指先は遠慮がちに握られる。私はすぐに握り返して暫く、離さなかった。
――離せなかったんだ。
帰り道、コンビニに寄って夕飯を調達しようと提案をすると「お素麺が茹でてあるので、お肉とか少し濃いめのおかずにしましょう」と話す彼女の手は自然に離れてしまった。
ちよちゃんはしげしげと新作の惣菜を見ている。
この観察眼のおかげで家での食事にも新しいものを取り入れてくれているんだな、と思っていると私の様子に気づいたちよちゃんが「これ、食べてみませんか」と呼び寄せてくれた。
そうして、二人で家に帰る。
私は彼女の好きそうなデザートも買って帰ろう、と提案していたので私の手には惣菜などが入った重い方の袋、ちよちゃんの手にはデザートが二つ入った袋が提げられて……また自然と、小さく手を繋いだ花火大会からの帰り道。
帰れば先にちよちゃんをお風呂に向かわせて、私は軽く夕飯の支度に取りかかる。それでも家を出る前に大体の支度を済ませていた彼女のおかげで大したことは出来なかったけれど……濡れ髪でリビングに顔を出したちよちゃんは私にも入浴を促してくれた。
シャワーを浴びながら今日、ちよちゃんと繋いだ手に残る柔らかな手のひらの質感がいつまでも私に残っている事に気がついた。それ以上の、彼女の体の柔らかさも、握りあった手に爪を立てられた甘い痛みだって私は知って……でも、今日は特別。
軽い夕飯から晩酌へと流れ、リビングのソファーで私とちよちゃんはゆっくりとお酒を飲んでいた。
珍しくソファーに上がってぺたりと座面に座っているちよちゃんはどこかご機嫌で、アルコールも食後だし適量だから酔いはしていないと思ったんだけど。
「花火、久しぶりに見たんです」
「私も……いつも会社から少し見たくらいで」
彼女の言葉の裏側にある、ちよちゃんにとって心の余裕が少なかった日々の影。私も私で、ビルの隙間から僅かに見えた光景にすらすぐに目を逸らすような日々を送っていた。
都内だから探せばまだ花火大会はいくつかあるだろう。だから時間を作って、またちよちゃんと行ってみたいと……私は正直に彼女に伝えた。
そうすれば目を丸くして、嬉しそうに「私も」と言ってくれた大切な人はスマートフォンを早速取り出して検索をし始める。
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